蓑虫
今日は月曜。
月曜真っ黒シリーズです。
オレが小二の時に出て行った父親はそのまま行方不明で……母親は水商売に戻った。
とは言っても住宅街の中のしがないスナックの雇われホステスだから母一人子一人の生活は楽では無かった。
小六の時、流行っていたカードゲームがあって……オレはその“デッキ”を……自動販売機の下や図書館のコインロッカーやスーパーのカートを繋ぐチェーンロックなどのありとあらゆる所に残された硬貨を拾い集めてお小遣いに補填し、ようやくと作り上げた。
その、“命と等価”のデッキを……昼休みに“隠れバトル”していた理科室へ忘れてしまった事に気が付いて……大慌てで学校に駆け戻り理科室のドアをガラリ!と開けたら……
担任教師の矢島の前で上半身を脱いだばかりの加藤さんが居て……服と腕の境目から彼女の“ふくらみ”が垣間見えた。
一瞬、空間が凍り付いて、次の瞬間、その場から逃げようとしたオレは『矢島』に取り押さえられ、加藤さんは大声で悲鳴を上げた。
次々とやって来る人に「クラスメイトの稲村くんが……」と泣きながら訴える加藤さんや矢島の事を誰も疑わず、オレは職員室へ連行された。
しばらくして母親がやって来たが、ちょうどお客と「同伴」中だったらしく、学校に行くには場違いな化粧と服装だった。
その“場違いな”母親は怒りを露わにして「本当に父親そっくりだ!!」と喚きながらオレを殴る蹴るするので、周りの教師が母親を取り押さえた。
その日の仕事はおろか色んな事を“ダメ”にされた母親は家に帰っても怒りが収まらず、またオレを殴る蹴るした挙句
「そんなにオンナの裸を見たいんだったら私のを見な!!」とオレの目の前に自分の胸を晒した。
それが、オレが女で嘔吐した“初体験”だった。
以来、オレは……大人の雑誌のヌードグラビアや強い化粧のニオイでも胃からモノが逆流する様になった。
“事件”の次の日からオレはカウンセリングと言う名の取り調べを受けたが……真実を語ったり書いたりするたびにオレの立場は悪くなり……最終的には『二度とやりません』との念書を書いて、ようやく教室へ戻されると、オレの机は『ドスケベ!ヘンタイ!!』の落書きと、空き缶に差したセイタカアワダチソウの仏花で飾られていた。
それから卒業までありとあらゆるイジメにあった。
ホースから出る水ならいい方で……緑色に濁ったプールの水や汚水を頭から掛けられる事もあった。
でも、それよりもっと困ったのは物を壊されたり隠されたりする事。
おいそれと代わりを用意できないオレは親からはブン殴られるし、教室では「寄るな!!ビンボー人!!」と蔑まれる。
もちろん、担任の矢島は助けてくれはしない。
それどころかずっと休んでいた“加藤”がそのまま転校して行った時、ヤツは
「加藤さんは稲村のせいで転校する事になりました」と言い放った。
◇◇◇◇◇◇
同じ小学校のヤツらが“宣伝”したお陰で……中学校でオレの所に近付く人間は誰も居なかった。
もう何をやっても無駄だと悟って、他の学年の生徒も居る図書館で過ごす事が多くなった。
本を読む事は苦手では無かったので乱読していると……性的な事柄を想像させられる文章や挿絵にオレは“反応”してしまった。
それもただの一度ではなく何度となくだ!
でも、ヌードグラビアなどの“生々しい”物を見てしまうと
オレはトイレに駆け込んで“戻した”。
こんなオレって!!
一体何なんだ!!
自分自身が物凄く嫌になった挙句、オレはとんでもない愚行をやらかした。
細い釣り糸と極細の縫い針、ピンセットを用意し、母親のウィスキーをコップに一気飲みして部屋の中をグルグルと独楽回りしてから、立ち上げて置いたスマホの『ネコの去勢術式』を見ながらカミソリを自分の“袋”へ差し入れた。
そんな事が上手く行く筈も無く、血まみれのオレは救急車を呼び、1か月の“強制入院”の後、さらにひと月“薬”でデロンデロンになっていた。
そのまま引きこもりにならなかったのは母親と顔を合わせたくなかったからで……
呆れた厨二のオレの中学校生活は斯様に過ぎて行った。
◇◇◇◇◇◇
女が居なければその分ストレスが軽減できるわけだから、私立の男子校へ進学した。
ただ“ワタク”は授業料の他にも何かとお金が掛かるものだから、とにかく女子の居ないバイト先を見つけたかった。
柔道部にはガテン系のバイトへのコネがあると聞いて入部しようとしたが「柔道の技を使って婦女暴行をする恐れがある」との偏見で“大人達”から止められた。
仕方なく、なるだけ女子の居ないバイトを探したが随分苦労した。
単発の掃除のバイトやキッチンスタッフ(皿洗い)に倉庫での軽作業、引越し屋と渡り歩いて……今は配達のバイトをしている。
インターホンの向こうが女性である事も少なくは無いが、なんとか耐えられる様になって来た。
そんなオレの今の目標は……お金を貯めてアパートを借り、独り暮らしする事!
誰にも邪魔されず、想像の中のモノ達とだけ遊ぶ事!
そうやって誰にも迷惑を掛けずにミイラか化石になれたら……
それこそオレの幸せというものだろう。
だって、オレが最初に書いた“初体験”の話だって……
きっとただの!
くだらない
オレの妄想に
過ぎないのだろうから。
何らかの反響があれば続きを書こうと思います。
ご感想、レビュー、ブクマ、ご評価、いいね 切に切にお待ちしています!!