お引越し2
駐車場の白い軽トラへ瀧本がダンボールを乗せた。荷台には夏に活躍した扇風機。学校へ行ってる間にちゃんとレンタカーを手配し準備をしていた瀧本を奏真は見直した。部屋に残っていた荷物を運び終え、カバンとギターケースを肩に掛ける。ドアに鍵を掛けると、瀧本は小さな紙袋を広げた。その中にアパートの鍵を入れて奏真を見た。
「大家のジジイ留守らしいから、ポストにいれとく。ほら、お前のも」
「うん」
カバンに入れていた鍵を出し、瀧本の鍵の隣に合鍵を並べる。奏真は少し寂しい気持ちになった。
「バ〜カ。ほれ」
瀧本はポケットから鍵を取り出し、奏真の手のひらに乗せた。
「新しい家の合鍵だ。失くすなよ?」
手の中の鍵をギュッと握り、奏真は力強く「うん!」と頷いた。
瀧本さんはゴリラなのにちゃんと俺のこと見ててくれる。いつだってわかってくれるんだ。
もう大好きだと思う気持ちが止まらなくなってくる。奏真は外にも関わらず瀧本にギュッと抱きついた。瀧本は片手で奏真の腰を抱き、背中を撫でる。
「よしよし。じゃ行くぞ」
「行こ!」
二人で軽トラへ乗り込み、車のエンジンを掛ける。
直角の座席は妙に笑えて、奏真はその笑いを噛み殺した。それでも自然に笑いが込み上げてくる。
まず大家の家に寄り、鍵を玄関ポストへ入れて新しいアパートへ向かった。新しいアパートの駐輪場にはすでに瀧本のバイクが置いてあった。
最寄りの駅まで徒歩十二分。家賃五万。一階の角部屋、1LDK。駐輪場付き。念願のトイレと風呂もある。しかもユニットバスではない。ベランダはあるし、収納も充実。今はまだ荷物はさほどないが、これから少しずつ増えていくだろう。と奏真は思った。
なんてったってココはふたりの家なんだから。
玄関を開けると開放的な空間が広がっていた。物がなにもないこともあるが、九畳の広さを改めて実感する。流し台と作業台とコンロはふた口。コンロの上には換気扇。窓もあって明るい。上を向けばエアコンもついてる。
「いいっすねー!」
奏真は鞄とギターを下ろし、靴を脱いでピカピカに輝くフローリングにゴロゴロと転がった。
「わー、ツルツルしてる」
「築五十二年だけど、内装リフォームしてあるから新築みてーだな」
「五十二年とは思わないよねー、内扉だってお洒落だしさー」
そのままゴロゴロ部屋を横断した奏真は、奥の部屋に続く内扉まで行った。奥は六畳だった。エアコンと壁一面のクローゼットがついている。
「洋間だよ。洋間!」
奏真のテンションがさらに上がる。ベランダに続くサッシを開ければ、洗濯物が干せる十分な広さがあった。
「おお~。風呂にも窓がある」
風呂場から響く瀧本の声に奏真は勢いよく振り返った。
そうだ! お風呂!
今度は風呂へ駆け込む。待望の風呂は白くて、こちらもやはり新品のようにピカピカだ。瀧本はさすがに無理だが、奏真なら足を伸ばして十分くつろげる。
「今日早速、湯船にお湯はって入ろうね! そだ! 買い物行く時、入浴剤も買っちゃいましょう!」
「おお。バブだな。バブ」
「まずは荷物入れなきゃですね」
軽トラに戻って荷物を運び入れる。奏真は古いタイプの小さなテレビを抱え上げて思った。
「ねー、この際だしさ。テレビも大きいのに買い換えちゃいません? 洗濯機買いに行くついでにさ」
「そうだなぁ。こういうのは優先順位が大事だ。いいか?」
瀧本が偉そうに言う。
「今は十一月だ。これからどうなる?」
「もっと寒くなる」
「そうだ! よく分かったな!」
「バカにしてるでしょ」
「わははは。お前は寒いの苦手だろ?」
「うん。だから?」
「テレビよりも先に買わなきゃいけなのは?」
「いいですよー、エアコンあるし。瀧本さんいるし」
「いいから聞けって。俺は、テレビよりちゃんとした布団が買いたい!」
「今でも十分あったかいですよ?」
「あんなペラペラじゃ、真冬になったら寒いぞ? それに小さいし、羽毛ででかくて、あったかい布団が必要だろ?」
「んー」
奏真が首を捻ると、瀧本がさらに言った。
「凍えちゃうぞ? 夜、俺がいない時に寒くて泣いちゃうぞ?」
「泣きゃしないわ」
瀧本はニンマリして、人さし指をビシッと立てた。
「まず買わないといけないのは、いち、洗濯機! にっ、羽毛布団! さんに、うーん……」
「そういや、瀧本さんのパンツ、ゴムゆるゆるだったよ」
「ん? そっか? まー履ければいいよ。穴が空いてなきゃ」
「たまに半ケツですけどね」
「わははは。冬はまずいな。しゃーない。パンツも買うか」
「電気屋さん行って、ホームセンター行って……いっぱい回らなきゃね!」
「そうだな。ん?」
楽しく話していると瀧本の携帯が鳴った。




