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友達の向こう側


 バーベキューの次は花火。バケツに水を汲み、テラスの階段から庭へと降りる。手持ち花火を両手に持ちグルグル回したり、ねずみ花火を足元に投げ合ったり、五人でバカみたいにはしゃぎ盛り上がる。最後はしっとり線香花火競争で締め、花火の残骸を拾い、部屋の中へ戻った。


「次は映画観よう!」

「カラオケは?」

「喉渇いたー。ジュース」

「汗かいたよ。風呂沸かそう」


 コーラと菓子をつまみながらバカ騒ぎは深夜まで続いた。直樹は奏真と二人になりたくてタイミングを探していた。奏真はとても楽しそうで、バカ騒ぎから離脱する気はサラサラないようだった。晋吾と腕を絡めながらコーラの早飲みをしていて、晋吾のゲップを聞いてケラケラ笑っている。

 そんなことをしているうちに時間は経ち、気がつけば夜中の二時を過ぎていた。交代で風呂を済ませ、カラオケも映画も終わり、トランプをしていると晋吾が船を漕ぎ出した。


「あははは。晋ちゃん、大丈夫?」

「あー。う……ん……」


 返事はしても、頭がカクンと落ちる。


「寝てんじゃん!」

「……俺も寝よっかなぁ」


 うーんと伸びをしながら瞭司が拓馬を見る。


「拓馬くん、明日って、ここ何時に出るの?」

「別に何時でもいいけど。迎えは三時だったかな?」

「結構ゆっくりできんだね」


 奏真がトランプを繰りながら言った。夜行性な奏真はまだまだ元気そうだ。


「ごめん、俺も眠いや。一抜けるよ~」


 瞭司はトランプを置いて立ち上がると、ソファにもたれ目を閉じている晋吾の肩をポンポン叩いた。


「ここで寝たら風邪引くから、ベッド行こ!」

「あ~~~い……部屋って一番奥ぅ?」


 ふにゃふにゃ質問する晋吾に拓馬が応える。


「うんうん。で、その隣が俺で、その隣が瞭司で、廊下挟んで反対側が直樹と奏真ね」

「ふぁ~い。じゃ、おやすみー」


 立ち去るみんなに「おやすみー」と手を振る奏真。拓馬が「じゃ、俺も寝っかな……」と立ち上がる。


「ほーい」

「おやすみー」


 階段をトントンと上がっていく拓真を見送る。

 二人きりになった。やっとだよ!

 直樹が喜んでいると、トランプを繰りながら奏真が直樹を見る。


「どうする? 俺らも寝る?」

「奏ちゃん、眠い?」

「んー、まだ平気だけど」

「ほんと? じゃあ、なんかしよ」

「何する? 神経衰弱? 七並べ?」

「二人で七並べしたら直ぐにばれちゃうじゃん!」


 ツッコミを入れる直樹に奏真はニヤリと挑発的な視線を向ける。


「いかに止めるかの戦略バトル!」

「え~~。なんか既に勝てる気がしない……やめとこ」

「なんだよぉ。じゃぁ、なにする?」


 またトランプを繰り、半分にして交互に挟み込んだりとマジシャンみたいに手遊びする奏真。

 本当は話がしたいんだ。瀧本さんのことを聞きたい。でも、なんて切り出していいのか分かんない。でも、だったらチャンスは今だ。

 直樹は腹をくくり、小さな声で尋ねた。


「……瀧本さんと一緒に住んでるの?」

「あぁ、お泊りさせてもらってるー」


 奏真は口を噤むどころか、下を向いたまま平然と言った。奏真は悪いことをしているわけではない。それは分かってる。しかし、その態度に直樹はなぜか腹が立った。


「なんで? 瀧本さんって働いてるんだよね? その間、奏ちゃん何してるの?」

「そうだねぇ。宿題したり昼寝したり、バイト行ったりだけど?」

「家に全然、帰らないの?」


 奏真の手が一瞬止まる。そしてすぐにまた手遊びを始めた。


「帰ったってね。特に用事ないし」

「俺、遊びに行きたかった。奏ちゃんと……」

「いいよー。またメールでもしてよ。バイトの都合あわせるし」

「俺んちに、前みたいに泊まりにおいでよ? かーちゃんも会いたがってるからさ」

「だから、誘う相手が違うでしょ。っての」


 呆れた顔をしながらカードを配り始める奏真。


「……ううん。違わないよ。俺、奏ちゃんと遊びに行きたいし、奏ちゃんにお泊りに来て欲しい。前みたいに奏ちゃんと一緒にいたいんだもん」


 目線だけキョロッと上げ、奏真が直樹を見た。


「なに、喧嘩でもしちゃったの?」

「誰と?」

「誰とって、彼女と」


 そうか、奏ちゃんは知らないんだ。


「もう、彼女なんていないよ。もう作る気もない」

「なに? 散々な目にでもあわされた?」


 冗談のように小さく笑う奏真へ、直樹は真剣に答えた。


「うん。散々な目にあったよ。奏ちゃんと一緒に居られなくなった。なんでか分からなかった。なんで、こんなに不自由なんだろう。って不思議だった。どうして……俺は……」


 黙ってるのが苦しい。


「奏ちゃんと会いたいのを我慢して、好きでもない子と一緒にいなくちゃいけないのかって……だから、別れた。スゲー怒ってたし、泣いたけど、そんなのもう知らない」


 溜まってた鬱憤を捲し立てる直樹の勢いに呆然とする奏真。沈黙が二人の間に流れ、奏真は少し俯いて口を開いた。


「……ひっで」


 非難しているわけではない。奏真の顔はどことなく嬉しそうにも見える。その表情にホッとして、もう一つ言わないといけないことがあるのを直樹は思い出した。


「ひどくないよ。……あのね。俺……奏ちゃんに謝らないといけないんだ。いや、俺が悪いんじゃないだけど。でも結果として……俺のせいで奏ちゃんが酷い目にあったから」


 俯いていた顔を上げ、奏真が首をかしげた。


「去年、奏ちゃんの鞄からタバコ出てきたの。アレ、きっと、きっとじゃない。絶対、愛美だと思う。犯人」


 奏真の眉間にしわが寄る。


「は?」

「別れ話をしたら、逆ギレしてなんか色々言われたんだ。その時に、そんなようなことを口走ってた。俺が、聞き直したら、黙っちゃったけど……俺が一人の時に告白したかったのに、邪魔だったからとか言ったの。あいつ」

「……ふーん」


 奏真は気の抜けたような微妙な返事をして、配り終わったカードを集めた。


「そこまでしないと、愛美は俺と二人きりになれなかったんだ。って、あとから思った。思ったら……悲しくなってきちゃって。どうして、俺、今一人なんだろうって。俺の奏ちゃんはどこ行っちゃったんだろうって……」


 話してるうちに鼻がツーンとしてきた。視界がぼやけ、テーブルへボタボタ涙が落ちる。奏真はトランプをトントンと整えテーブルへ置くと、低い声で言った。


「そろそろ、寝るわ」


 立ち上がろうとした奏真の手を、直樹はテーブル越しに掴んだ。無言で見返す奏真。


「……奏ちゃんは、瀧本さんのことが好きなの?」

「うん」

「す……ごく?」

「なんなの?」


 なんなの? なんなのって? 奏ちゃんがどんどん遠くへ行っちゃうのが嫌なんだよ。前みたいに一緒にいたいって言ってるじゃん。なのに、どうして「なんなの」って言うの?

 冷めきった奏真の声に直樹の頭が真っ白になる。しかし、奏真の手を離したくなかった。


「俺の方が、奏ちゃんを好きだよ」

「……そう。じゃ、おやすみ」


 奏真は浮かない表情のまま視線を外した。握った手をそのまま振り払うわけでもなく、二階へ行こうとする。直樹は二人を隔てる邪魔なテーブルへ乗り跨ぐと、奏真を引っ張った。


「ちょっとなっ……わっ」


 バランスを崩す奏真を抱き締め、必死に訴えた。


「ちゃんと、俺を見て?」

「……どうしろと?」


 また質問だ。奏ちゃんがなにを言いたいのか分かんない。なんで俺の言葉を真剣に受け止めてくれないのかも。なんなの? どうしろと? 違うんだよ。奏ちゃんになにかを求めてるんじゃないんだ。俺は、俺は……。

 言葉にできなくて、直樹はもどかしい気持ちをぶつけるように奏真へキスした。奏真の目はポカンと開いたままだ。直樹はキスしたまま奏真の目を見た。奏真の黒目が、動揺であちこちに動く。 

 呆然としていた奏真だったが、腕を抜きグイッと直樹の肩を押した。直樹も負けず、両腕に力を入れる。もがく奏真の眉間にシワが寄る。

 今度は噛まれるかも? 直樹がそう思った途端、奏真が目を閉じた。身体の力を抜き、直樹へキスを返してくる。

 ……奏ちゃん?

 なぜ受け入れてくれるのか全く分からなかった。でも、そんなことよりも直樹は嬉しいの方が勝って、ここぞとばかりに奏真の唇を吸い、挟んだ唇を舌でペロリと舐めた。奏真が直樹の唇をチュッと吸う。角度を変えてもう一回。

 奏ちゃん……なんか、すんごくエッチなキス。

 三度目の吸い付きのあと、瞼を開けると唇が離れていく。直樹は心臓がバクバク鳴り、奏真を見つめることしかできなかった。そんな直樹に奏真が素っ気なく言い放った。


「……もう離してもらっていいかな……」


 直樹の全身から力が抜け、高揚が熱と共にすぅーっと沈下していく。ダラリと下りる腕。奏真は背筋を伸ばし、直樹から離れた。


「直樹も、もう寝たほうがいいんじゃない?」


 そう言って、奏真は二階へと上がっていってしまった。





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