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直樹の気持ち


「ねぇねぇ! これすごくない? これぞBBQって感じ!」


 直樹はみんなに銀色の串をバーン! と掲げた。上からピーマン、ウインナー、玉ねぎ、豚肉、ネギ、最後に椎茸が刺してある。


「おお! それいいな! テンション上がるっ!」


 拓馬がすぐに笑顔で反応する。

 こーゆーノリ、一緒になって盛り上がってくれるのはやっぱ拓ちゃんだもんね!

 すぐに拓馬も串を手に取り、食材をグサグサと刺していく。奏真は晋吾が持つ串に玉ねぎばかり刺して遊んでいた。火起こしをしていた瞭司が、うちわをパタパタ扇ぎながら言った。


「奏真、それちゃんと食べんだよ!」

「えっ!」


 パッと瞭司の方を振り向き、大げさに目を見開く。その表情に皆が笑った。


「ひゃははは。瞭ちゃん、奏ちゃんはコレだよ。コレ」


 直樹はピーマンだけを刺した串を見せた。


「あ、それずぇったい無理っ」

「奏真は玉ねぎ串がいいってさ」


 瞭司がクスクス笑う。奏真が晋吾にピーマン串を渡そうとして「え~やだよぉ」と断られ、ジャンケン三本勝負が始まる。ふたりがキャッキャとジャンケンで盛り上がる姿を見て、直樹も嬉しくなった。

 楽しそうな奏ちゃん。こんなノリも、すっごく久し振りだね。良かった! キャンプ来てくれて。

 直樹たちは高校最後の夏休みを山梨県で過ごすことにした。

 到着するなり、避暑地の涼しさに高校生たちは驚き、貸別荘の豪華さに(おのの)いた。拓馬が用意した宿泊先は親のツテで借りた別荘だったため、宿泊代金もお礼程度で押さえることができた。奏真たちはてっきりボロボロのバンガローに泊まるのだろうと思い込んでいた。

 別荘は二階建てで、一階テラスでバーベキューが出来る。リビングダイニングには冷蔵庫と炊飯器と、調理道具。二階に五つある個室にはそれぞれエアコンとベッドが二つ。一階は大きなバスルームとトイレ。カラオケ設備まで完備されている。応接セット横のテレビも大型画面で部屋の四隅には映画鑑賞用のスピーカーまでついていた。


「ねぇねぇ、火点いたよ~。肉乗せてこー」


 みんなで作った串を両手に、直樹はウキウキと網の上に食材を乗せていく。


「うおいっ! 誰だよ! この串作ったの! 肉、ウインナー、肉、ウインナーって!」


 肉肉しい串を両手に掲げてる拓馬の肩を奏真がポンと叩く。


「そんなケモノ的なの直樹しかいないじゃん」

「ふひゃははは! さすが奏ちゃん」

「炊飯器の御飯、あと何分で炊けるかなー」

「なんかさー、飯ごう炊飯? そーゆーのイメージしてたんだけどなぁ」

「おこげね。あれがいいんだけど」

「まーまー! 拓馬パパのおかげで、こんないいところ泊まれんだから! ラッキー、ラッキー! みんなで食べたら、どんな御飯も美味しいよ」


 奏真はそう言って、拓馬にナムナムと手を合わせお辞儀する。


「そうだよ! 拓馬くんのおかげだよ。俺、テラスでバーベキューなんて初めてだもん。超テンション上がる!」


 瞭司がニコニコして言うと、拓馬がちょっと照れたように鼻の頭をポリポリと掻いた。直樹はそんな二人を羨ましく思う。

 前から仲良しだけどさ……。

 五人は一年の頃からの付き合いだ。しかし拓馬と瞭司の仲は特別密度が違った。それをうすうす感じながら、深く考えたことがなかった直樹だったが、ここにきてやっと「そうなのかも?」と思うようになった。それは取りも直さず、直樹が奏真を意識しているからだった。

 俺と奏ちゃんだって……あれくらい仲良しだったのに……。

 モヤモヤする気持ちを振り切るように直樹は明るい声を出した。


「ジュース持ってこよっか? みんな一緒でいい?」

「俺、コーラ! やっぱ肉にはコーラっしょ」

「じゃあ俺もコーラ」

「あ、俺も手伝うわ」

 冷蔵庫を開けていると背後で奏真の声がした。


「奏ちゃんは?」

「コーラでいいよ」

「ほーい」


 二リットルのペットボトルを奏真へ渡す。


「はい。これ持ってってー」

「はーい」


 こうやって一緒に居ると、奏ちゃんはちっとも変わらない。俺の知ってる奏ちゃんだ。あの瀧本さんのところで聞いた声は、もしかして幻聴だったのかもしれない。でも、奏ちゃんのシャツから覗く白い素肌や、首筋や、鎖骨なんかがチラチラすると、あれは現実だったんだ。って、強く意識してしまう。なんだろう。何がそうさせるんだろう。変わってない。変わってないけど、でも、どっか違う。そんな気がする。

 炊飯器のアラームが鳴り我に返って蓋を開けると、大量の湯気が天井に昇っていく。炊きたての御飯の匂い。ツヤツヤした白米。


「……奏ちゃーん。こっちきてー」

「ういー」


 気だるそうな返事。ぴょこぴょこという効果音をつけたくなるような足取りで近づいてくる奏真。

 ね、瀧本さんの前だと、奏ちゃんは違うの? 瀧本さんの前で、どんな顔してエッチしてるの? 今、俺の前に居る奏ちゃんだって、本当の奏ちゃんでしょ? でも、奏ちゃんにとって、瀧本さんと一緒に居る時が一番……一番、素直な奏ちゃんなの?


「…………」


 ボーッと考えながら茶碗としゃもじを持ち白飯を掬う。ホカホカの白い塊が茶碗を持つ手にボトッと落ち、直樹は悲鳴を上げた。


「あちっ!」

「あーあー、大丈夫?」


 奏真の声がし、視界をスッと影が横切る。奏真が直樹の手の甲に付いた白飯をパクッと食べた。ムニッと肌にあたる奏真の唇。直樹の体にビリッと電気が走った。

 突然の出来事に、直樹は呆然として言葉を失った。顔を上げた奏真が、口をもごもごさせながら首を傾げる。


「ん?」

「て、て、手……」


 直樹は思わず、しゃもじを持ったままの拳で奏真の頭を上からゴンと叩いてしまった。


「いてぇっ!」


 頭を両手で押さえしゃがみ込む奏真。頭を摩りながら直樹を恨めしそうな顔で見上げた。


「んだよぉー、酷くない?」


 急にそんなことする奏ちゃんが悪いんだよ! と言えない直樹は下手な言い訳をした。


「て、手ぇ、き、汚いでしょお?」

「え? 手洗ってんでしょ? げっ! ご飯よそってんのに洗ってないとか言わないよね?」

「……あ、そだった。さっき洗ったんだっけ? ふは……ははは……ごめんごめん」


 顔を引きつらせなんとか笑顔を作る。それを見て奏真はますますムッとした。直樹は焦り、屈んでいる奏真の頭を優しく撫でる。


「ごめんごめん。大丈夫? 背ぇ、縮んでない?」

「んなんで縮むかよっ!」


 奏真は勢いよくバッと立ち上がり怒鳴った。


「あはははは。ホントだ、縮んでない。良かった良かった」

「ふざけたことばっか言ってないで、早くよそいなよ。俺いらないんだったら戻るかんね」


 冷たい目で背中を向ける奏真を、直樹は慌てて引き留めた。


「いるいる! ちょっと待って! そこのお盆持ってきてよー」

「これ?」


 奏真は呼びかけに足を止め、お盆を持つと、タンとテーブルに置く。その頬はプウと膨らんだままだった。

 むくれてる奏ちゃん。可愛い……。ニヤニヤしちゃう。

 大盛りの白飯を奏真へ渡す。


「はーい。これ俺ね! 奏ちゃんは? どれくらい?」

「俺? 大盛りぃ~」

「大盛り一丁~! 喜んで~!」

「一丁入りました! 喜んで~!」


 直樹のノリに同調し奏真も返す。もう頬も膨らんでいない。奏真はさっきの仕返しとばかりに、茶碗としゃもじを持つ直樹の脇腹をツンツンとつついた。


「あひゃ! やめろって! もう! 大盛りね! はい、どーぞ! 大盛り一丁あがり~!」


 やっぱり、奏ちゃんと一緒だと楽しいよ。ご飯をお茶碗によそってるだけなのに、なんでかスゲー楽しい。

 直樹がそう思っていると、突然奏真のテンションが戻った。無表情で「ども」と茶碗を受け取る。


「ええええーーなにそれーー!」


 直樹が抗議すると、奏真は「くふふっ」と首を竦めて笑う。とても可愛らしい笑顔。

 あー楽しい。楽しいね。奏ちゃん。


「もうっ! せっかく新婚さんプレイな気分だったのにぃ~」


 直樹がブツブツ言うと、奏真が呆れた顔で言った。


「相手、間違ってんじゃないの? それにどっちかっていうと居酒屋プレイじゃん」


 茶碗を受け取った奏真はくるりと背を向け、テラスにいる拓馬たちの元へ戻って行った。


「……間違ってないよ? だって俺……」


 もう声は届かないと分かっていたが、直樹は奏真の背中へ告げた。


「俺、別れたんだよ。……分かったから……」


 直樹は奏真を見つめながら、左手の甲にそっと唇を押し付けた。



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[良い点] ハッ!彼女さんと別れたの!?
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