やり遂げたこと
こんなの、みっともない。でも……、じゃあ、せめて……。
奏真は頷き、瀧本を見上げ言った。
「……最後に、もう一回……。もう一回だけ、キスしたい」
瀧本は驚いた表情をしたが、心細そうに打ち明けた奏真に優しく微笑み唇へチュッとキスした。
それじゃない……と思った瞬間、また降ってくる唇。
口付けは止まなかった。奏真の望むキス。何度も繰り返されどんどんさっきと同じくらい濃厚になっていく。奏真も夢中でキスを返していた。
気がつくと奏真は布団に横たわっていた。まだ乾いていない瀧本の手のひらが、また奏真の弱い部分に触れる。
「ん……」
さっき果てたばかりなのに、また貪欲に反応してしまう。
瀧本はキスしながら「うぅぅ」と獣のように呻いた。その声にゾクゾクと背筋が震える。奏真の履いていた衣類が下ろされ剥ぎ取られた。あらわになる肌。奏真は母親似だ。日焼けしない滑らかな肌。ゴツゴツ感の無い足はヒョロリと細長く、すね毛もほとんど生えていない。
「キレイだな……。ホントに同じ男かよ」
瀧本は文句でも言うようにボソッと呟くと奏真に覆いかぶさった。キスに浮かされ、あっちこちからの刺激にとろんと溶けてしまう。朦朧としていた奏真は体の奥の違和感にパッと目を見開いた。
「えっ!? えっ! ええええっ」
予測していたキスの先。でも、予想と体感は別物だ。
初めての感覚にブルブルと肌が粟立つ。異物がズルッと出て行くと、奏真の口から無意識に高い声が上がった。
「ひっ!」
「痛いか?」
「……うっ」
奏真は痙攣するようにプルプルと首を横に振った。
「痛かったら言えよ?」
何度も出入りする物体。その度に得体の知れない悪寒に苛まれ、とてつもなく情けない気持ちになる。痛いわけではないのに、勝手に目の縁から水が膨れ上がり溢れ出した。
入ったままなら、いっそ入れたままがいいと思った。瀧本が動くたびに不安になる。奏真は羞恥にギュッと目を瞑り必死でその感覚に耐えた。少し慣れたかと気が緩んだ途端、グッとさらに奥へ侵入されてしまう。
え! と驚き、ショックに固まる奏真。次の瞬間、感じたこともない電気が走った。
「んぎゃっ!」
鋭い快感が芯を突き抜け、腰がビクンと跳ねた。
「大丈夫か?」
奏真は声も出ず、ただ金魚のように口をパクパクさせた。
「どうだ?」
「ぁ……ぁ……ぁ……」
うまく話せない。泣きたくなるような心細い感覚に瀧本を見上げた。
「痛くないだろ?」
瀧本はそう言うなり同時に刺激を与えてきた。奏真はますます情けない顔になり、もう半泣きだ。
「うん。気持ち良さそうな顔になってる」
奏真の青ざめていた頬に朱が差し、じわぁと汗が滲んでいく。不快感や恐怖とは違うなにかが、どんどん脳内を侵し、濃いモヤで満たしていく。
「だいぶ解れてきたぞ」
な、なにこれ……。
自分の意思とは関係なく力が入ってしまう体に奏真が動揺していると、不意に圧迫感が増した。体に杭を打ち込まれ、奏真の腰が逃げるようにずり上がった。息も吸えず、声も出せず、初めての圧迫にパニックになり、頭を左右にブンブンと振りまくった。
むりむりっむりっ! 苦しい! わけわかんないっ!
必死で逃げたと思ったが、まったく逃げられておらず、逞しい腕に囲われたままの奏真に瀧本が囁いた。
「……息吐いてみろ」
瀧本の声に呼吸を忘れていたことに気が付く。
奏真は藁をも掴む思いで言われた通り「ふぅーーー」と息を吐いた。
「次はゆっくり吸って」
言われた通り「すぅ、すぅぅーーーー」と必死に吸う。
深呼吸を繰り返す度に固まっていた身体が緩んでいく。ギチギチのガチガチに串刺しされているようだった身体の奥から、またジワジワと熱波が湧き出てくる。
「上手だ。いい子だな」
奏真はいっぱいいっぱいなのに褒められ、嬉しくなった。目が回るような感覚のなか、なんとか瀧本へ笑顔をみせる。瀧本の眼力の強い目が細くなり、奏真の鼻先に鼻先を擦りつけてきた。瀧本の大きな体がゆっくりと覆い被さってくる。上から力強く抱きしめられ、奏真もしがみついた。瀧本は何度も額についばむようにキスを落とし、それを受けながら奏真は思った。
俺、ひっくり返されたカエルみたい。変な恰好……ちょっと恥ずかしいや。でもそんなのどうでもいい。
「苦しいか?」
「ううん……」
本当は苦しい。けどやめたくない。重苦しいはずなのに、瀧本が動くたびに変な声が出る。瀧本が歯を食いしばり、ゆっくりとまた押し込む。その姿に魅せられる。
行為に焦る反面、目の前にある瀧本の表情をカッコイイと思った。奏真がずり上がらないよう、肩に回し抑えていた手が、肩から首、後頭部に移動して奏真の髪をぐしゃぐしゃと撫でる。汗がポタッと奏真の頬に落ちた。
瀧本さんが俺に必死になってくれてる────
呆然と感じたことだったが、奏真にとってそれはとても新鮮だった。今まで誰がこんな俺に向き合ってくれただろう。誰の顔も思い出せない。目に映るのは瀧本だけ。その表情に、息遣いに、体温に喜びが溢れだす。
瀧本の姿をもっとしっかり見ていたい。そう思っているのに、内側から支配する熱に翻弄されわけがわからなくなってくる。泣き声のような高い声が奏真の口から飛び出した。
「たきっ、あっ、んーーーっ!」
「そうま……」
唇が塞がれる。溶けてしまいそうなキスをしながら、離れないよう必死にしがみつく。
濁流のようだった。初めての刺激が次々と奏真へ襲いかかってくる。それに流されぬよう、わけのわからぬまま奏真は声を上ずらせ、瀧本と共に最後まで走り抜けた。ビクンビクンと跳ねる奏真の身体を瀧本が強く抱きしめる。その強さが嬉しい。瀧本が掻き抱くように奏真を抱き締めるたび、無防備な自分を隠そうとしてくれているようだと思った。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
奏真はぐったりと重い腕を持ち上げ、瀧本の背中に回した。大きな背中は汗まみれだった。きっと自分もそうだろう。一緒だね。ギュッとしがみつきながら湧き上がる気持ちを噛みしめる。
しばらく二人で無言で抱き合い、ゆっくりと瀧本が顔を上げた。顔も汗だくだった。
「……大丈夫か?」
「……た、ぶん……」
底なし沼にはまってしまったように身体が重い。気だるさに目を閉じる。大変だったしすごく疲れたけれど、初めての満足感に奏真は満たされていた。
「……ごめん。止まらなくなった」
「うん」
「痛かった?」
「ちょっとだけ。苦しかったけどそんなに痛くなかったよ」
本当は今まで生きてきた中で体験したことのない痛みだったが、それだけではなかったからそう答えた。
「ふむ……」
瀧本は妙に真面目な表情になり、気を取り直すように明るく言った。
「まぁ、あれだな。俺のがそんなデカくねーから! 大丈夫だよな! あはは!」
瀧本は豪快に笑い、奏真の隣へゴロンと横になった。グッタリしている奏真へ腕枕をして大きな腕でギュウウッと抱きしめる。大変な目に遭ったと思いながらも、奏真の心の中はポカポカしていた。
瀧本の大きな手のひらが、奏真の髪を優しく撫でる。
「もうちょっと休憩してから起きようか?」
「うん」
髪を撫でる手がだんだんゆっくりになっていく。完全に動かなくなり、奏真はそっと瀧本を見上げた。瀧本はすっかり眠っているようだった。
すっげー気持ちいい……。
瀧本の背中へ手を回し、おでこを分厚い胸へスリスリと擦りつけた。
「すっごいことしちゃった」
言葉とは裏腹に奏真の口角は満足そうに上がっていた。今はもう全然焦っていないし、怖くもない。零した呟きは考えもしなかったことをやり遂げたことへのもの。
手足の自由を奪う重い疲労感だけがただただ心地いい。
ここは温かくて安心できる。
そう思いながら目を閉じた。




