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感謝の気持ち


 瀧本はキョロキョロと店内を物珍しそうに見回し、カウンター内の奏真を見つけると「よう」と手を上げ、カウンターへドカッと座った。奏真の顔がほころぶ。今までの憂さがパーッと消えていく。


「いらっしゃませ!」

「ほ~。似合ってんじゃん。エプロン」

「そお? ありがとう。んで、なににする?」


 今日一番の覇気のある声でメニュー表を瀧本へ渡し、そそくさと水をコップに注ぐ。瀧本は興味津々な目で奏真を見た。


「どれが美味いの? お前はなにか作るのか?」

「俺はジュースを注ぐだけ……美味しいのはそりゃモコモコバーガーじゃないかな? 店の名前になってるくらいだし」

「ふーん。じゃあ、モコモコバーガーのビッグと、コーラとポテトLね」

「モコモコバーガービックと、コーラーとポテトLね。ちょっと待って……て……少々お待ち下さい」


 嬉しくてついはしゃいでしまった奏真だったが、瀧本にちゃんと仕事をしている姿を見せたい。緩む頬に口元を引き締め奥のマスターへオーダーを通す。マスターが調理をしている間、奏真は接客を装いおしゃべりをした。


「返事ないから、来ないのかと思ってた」

「おお。返事するより行った方が早いと思って」

「なるほどね」


 瀧本が店内を見回すと、さっきまで二人の世界だった直樹が慌てた様子で顔を彼女へ向けた。それを見て、直樹も瀧本に気付いたとわかる。

 学園祭のライブで、直樹も奏真同様「カッケー」と興奮しきっていた。その瀧本の登場にビックリしているのだろうと奏真はちょっと得意になった。


「あそこの客もだし、うちの学校専用のバーガー屋なの?」

「まぁー、そんなトコです」

「あははは。マジか~」

「学校から近いしね」

「俺が一年の時に店あったかなぁ~? 全然知らなかった」

「地味だからね」

「水瀬ーーー」


 小声で言ったのに奥からマスターのツッコミが入った。なんて地獄耳。と首を竦めると、カランカランとまたドアが開いた。


「いらっしゃいませー」


 今度は奏真と同学年の別のクラスの男子が三人だった。カウンターの瀧本を見て一瞬ギクッとした表情を浮かべ、慌てて目を逸らし奥のテーブルへ座る。客は二年生ばかり。瀧本は完全に浮いていた。こんなトコ呼ばなきゃよかったかな? と奏真は申し訳ない気持ちになった。


「お仕事しに行ってくるね」

「おう。いいぞ。どんな仕事ぶりか見ててやるよ」


 当の瀧本は全く気にしてない。奏真は力なく微笑みトレーに水とメニューを持って注文を取りに行った。オーダーを中へ通し、出来上がった瀧本のモコモコビッグセットを出す。


「お待たせ。はい。モコモコビッグとポテトL、コーラです」


 瀧本はハンバーグを見て目をキラキラと輝かせた。嬉しそうな顔。


「うおっ! でかっ! 肉二枚入ってる! ぶあつっ! 美味そう!」


 両手で持ち豪快にかぶりつく姿はただただワイルド。気持ちのいい食べっぷりにいつしか奏真の後悔はすっかり消え失せていた。


「んほっ……肉汁ぱねぇ。マジ美味いなこれ!」

「へっへへ~。でしょ? 俺は作ってないけど」

「ふんふん。これでセット七百円安くね? そこらのバーガーよりはるかに美味いぞ?」

「お! んじゃ常連になってよ」


 奏真の言葉に瀧本はニコニコとして言った。


「そうだな。お前もいるしまた来るよ。今度ツレも連れてこよう」


 つ……ツレ……。

 奏真の頭に浮かんだのはあの涙もろい強面の面々だった。どうしよう。マスターがチビっちゃうかも。と思っていると瀧本が奏真の顔色を見て笑った。


「わははは! そっちじゃねーよ! 学校帰りにあいつらとつるむかよ!」

「あ、あは」


「えへへ」と笑って誤魔化していると、彼女と会話しながらチラチラと視線を投げてくる直樹が目に入った。もしかして紹介して欲しいのかな? と思った奏真だったが、その考えをスルーした。

 直樹には彼女がいるじゃん。瀧本さんは俺のだもんね。


「ここって、ドーナッツも売ってんだな。今日さ、十時から二時まで警備会社の方のバイト入ってんだよ。夜中に腹減るからさ、ドーナッツ五個持ち帰りしてぇな」

「もー、奢りだからってぇ~」

「ばっかやろー。なんで金貯める為にバイトしてる奴が奢るんだよ!」


 わははと豪快に笑いながら瀧本が財布を取り出す。


「お前が俺に奢るなんて十年はえーよ」

「え? いいの? だって俺が無理矢理誘ったのに」

「どこでバイトしてるかちょっと心配だったんだよ。ここなら安全だよな。学校のやつばっかだし」


 心配……してたんだ。

 バイトの報告をした時、瀧本は大した反応をしなかった。それだけに「心配していた」の言葉が優しく響く。奏真の頬が自然と持ち上がっていく。

 もういいや、ニヤケちゃうのも仕方ない。

 奏真は上機嫌を隠すこともなく言った。


「でも、ドーナツ以外は奢らせてよ! 来てくれて嬉しかったし、また来て欲しいから。営業。ね?」

「くどいな! 百年はえーって言ってんの! 営業なんてしなくても来るっつってんだろ!」


 瀧本は「メッ!」と言うように目を大きくし、威嚇するような言い方をした。しかし、その威嚇は今の奏真に全く効き目がない。


「箱にドーナッツ入れてくれよ。全部フツーのでいいから。五個な」

「はーい」


 奏真はケースの中のドーナツを持ち帰りの箱へ一つ一つと入れ、こっそり一個余分に入れた。あとからレジに代金をいれておけばいい。


「はい。ドーナツ五個と、お釣りね」

「おう。サンキュ」


 瀧本は箱を受け取り、ニヤッと笑った。


「じゃ、バイト頑張れよ」

「また来てねー」

「おう」


 バイバイと手を振り瀧本を見送る。しばらくして、直樹たちが立ち上がった。うしろで不機嫌そうな表情をしている直樹の彼女に気づく。精算してる間もムッとした表情のまま。そんな彼女を奏真はかなり不愉快に感じた。

 奢ってもらってるくせに。なんだその態度。


「……じゃ、また、学校で」

「うん。またどうぞー」


 元気の無い笑顔の直樹と彼女が出ていく後ろ姿を見ながら「今度はその不機嫌な彼女無しで来てよね」と奏真は心の中で呟いた。




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