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本とのはじまり


 

 移動図書館が町へ来た。



 田舎で,コンビニも17時に終わるこの町にだ。

 この町には常設された図書館なんて存在しないし,学校の図書室に行こうとしても遠すぎて行けない。自然豊かなのが唯一の取り柄である典型的な田舎である。


 移動図書館の知らせは噂大好きな叔母様の間でまず広がり,瞬く間に井戸端会議,学校の話題のトップを飾った。



 移動図書館は大繁盛だった。


 その場で何時間も読む人,カゴいっぱいに入れて借りようとする子供,見たことのない難しい本に興味を

持つ大人,可愛いイラストや奇妙なタイトルに好奇心を狩られる学生。様々だった。


 その中で,一際光を放つかのような本を見つけた。

 その本は本棚の一番上の端にしまわれていた。

 手に取ってみると少しサラサラと,少し埃をかぶっていたが,紙自体は新しく目立ったシミや黄ばみはない。同じような背表紙が数冊並んでいるあたり,続編と考えるのが妥当だろう。案の定手に取った冊子の表紙には『日記①』と書かれている。


「ほぉ,君,それに興味があるのかい?」


 パラパラとページをめくっていると,移動図書館のおじさんが声をかけてきた。四十代後半だろうか。和かな笑顔は図書館に相応しい。


「いえ,えっと,変わった本だなぁって興味は…」

「なるほど,その本のオーラとやらに惹かれたか?」


 おじさんははっはっと笑った。少し恥ずかしいがそういうことだ。視界の端に見えた時,確かにこの本は光放っているかのようだった。

 ただ,実際手に取ってみると古くさくて,著者名も出版社も全く記されていない,全く奇妙な本だった。

 だから俄然興味が湧いてきた。本の内容に対して,ではなく,ここにしまわれている経緯に対して。少し申し訳ない気もするけれど…。


「その本については僕も正直分からないんだ。その本は,知り合いの屋敷から引っ張り出してきた本で…」


 そう言っておじさんはこの本の入手した経緯を淡々と話した。

 どうやら昔知り合ったある人からの頼みのようなものだそうだ。その人は残念ながら火事で亡くなった。宝が隠されていると噂の屋敷と共に。警察の捜査が始まって数日後,おじさんに,警察署へ来るよう連絡があったらしい。そこにはこの大量の本が。

 火事にあったはずなのに,何の損傷がないまま,焦げ跡もなくそこに置かれていた。本は紐でまとめられており,そこ紐に『この本を〇〇へ』と宛名が書かれていて,結果おじさんがもらったということらしい。


「この本は地下三階にあったらしいんだ。申請のない違法建築だったらしいけどな。亡き友人からの贈り物だ。そうでなくても,これは宝物だよ。」


 そう言っておじさんはパラパラと本をめくった。この本はどれも手書きでインターネットの発展したこの時代には珍しい。


「僕は,かの人に言ったんだ。世界に一つしかない最高のミステリーが欲しいって。いろんなものに首突っ込む人だったからね。なにかあるだろう,って」

「だから,『日記』って題名…」


 ただ,これは日記のような『本』だ。

 日にちと出来事が箇条書きされている他,日記らしいことはない。


「これは日記じゃない。それを加工した物語だ。良くも悪くも添削されている。」


 少し悲しそうだった。実際,彼は本物の日記だったら心の奥底から喜んだだろう。事実,譲ってくれた人はその日記を持っていたらしい。それが欲しかったのだろう。


「これもすごく嬉しいよ。これは所謂『世界に一冊だけの本』だからね。とっても貴重だし内容は最高だ。最高なだけに日記も読みたくなってくるけどね…」


「日記は,ないんですか?」


「ないよ。少なくとも今,ここにはね。」


 即答だった。曰く,その人は多くの国と場所に別荘を持っていたらしい。その別荘のうちのどこかにあるという推測だったが,正確な住所も分からない別荘や,今回のように違法建築の建物も多いらしく,探すのは骨が折れるらしい。


「もしよければ,この本を読んでみないか?僕にしか読まれないというのも可哀想だろ?」


 おじさんは本を差し出した。

 僕の目に,それは異様なオーラを放っているように見えてしまった。その火事で亡くなった亡霊がついていたと聞いても疑わないだろう。


 最終的に,無理だと言っているのに二十冊にわたる分厚い本を押し付けられ荷台を借りて帰ることになった。フリーの図書館らしく,しばらくこの町にいるから,とゆっくり読むことを言われたが流石に量が多すぎる。まぁ,インターネットもない田舎町,本ぐらいしか暇を潰す道具はないからいいけど…。

 おじさん曰く,この本は僕が初めて読むらしい。

かなり長く置いていたらしいが,まるで本が拒んでいるかのように誰も手に取らなかったという。


 僕は帰って早速,①を読んだ。

 この本に興味を惹かれたのは事実だからな。


冒頭はこう始まった。




夢のような一時の,僕のとある物語。






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