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第22話《ハッカー・βの襲来》

****


「クルタ、何か見えたか?」


 クルタは困ったように首を左右に動かして、「オウムは夜は鳥目です」とすまなそうに答えると、優利の肩にゆっくりと身を下ろした。

 確かに、オウムには役不足だ。何となく同情の視線を向けると、クルタは鳴き声を小さく響かせて、優利を見つめた。

 可愛い眼だ。やっぱり胡桃によく似ている。となれば、看過できない。


 夜のVRオフィスは魔物の気配がするダンジョンのようだ。


「俺が見て来ましょうか」


「滞在可能時間一時間だぞ。じっとしていたほうがいい。脳への負担(ブレイン・ストレス)も限界を超える」


「俺のゲームプレイログ、見てないんですか?」


 門奈計磨は一瞬黙り、「そうだったな」と寂しそうに笑う。大人びた表情がとてもよく似合う。聞いていた堂園誠士が口をはさんだ。


「こいつのゲームプレイ記録ログ、何日なんすか」


 ――何日、と来た。やはり堂園誠士はライバルと言っていい。「暁月さま」とキャシーがまた近寄って来た。ふんわりとした香水が鼻をくすぐる。


「――18日と六時間。休眠していても、フルオートでずっとログインしていた重篤患者《ゲー廃》。俺はツーラーかと思って、BANしてやろうかと徹底的に調査した。目を疑ったよ。こいつ、ずっとVGOの中にいたんだから、完全に社会負適合者ドロップアウトだろ。堂園といい勝負だよ。おまえたちが心配だ、俺は」


 堂園はコメントせず、「既に脳がぶっ壊れてるんすね」と簡単な嫌味を置き、

「新人、見て来いよ。ああ、これ、持っていけ」と照明弾の入った銃を投げて寄越す。

 ずしりとした感覚を確かに感じながら、優利は頭を下げた。


「――お借りします、きみたちはどうする」

「お供いたしますわ! 私たちはシーサイトの戦闘員です」


 二人は目を合わせて、こくりと頷くと、優利の傍に駆け寄って来た。


「私は視覚、キャシーは聴覚が優れているのでお役に立てます」


「俺と門奈さんは、ここでいつでも迎え撃つ。段々ハッカーβも進化してるから、双子、気を付けて」


 ハッカーβ。先ほどからちらちらと聞こえる名前だ。なんだろうと小さくぼやいた言葉は、キャシーに拾われたらしい。


「《《このキャッスルフロンティアKKをハッキングして来るシステム》》ですわ」

「ハッキング・システム?」


 夜道を歩いているうちに、噴水の手前まで戻って来たことに気が付く。さすがに頭がふらつきそうになったが、どうにも霧散している気配が気になって、休むどころではない。


「ええ、夜になると、システムハッカー・クラッシュが頻繁に起こる。シーサイトは当初は社内システム保安部署でしたのよ。それが、ハッカーの脅威で、システム警備になり、VRの世界に落とし込んで――」


 キャシーはてきぱきと告げると、ジェミーに目配せをし、銃を構えた。


「新人は背中に隠れていたほうが良いですわ。敵は無数、最悪焼き尽くす以外にありません。とてもミクロで、高度な生物です」


 ――まさか、ハッカーまでVR化しているのだろうか。疑問はすぐに解けた。目の前に、蜘蛛の形状の幽体が無数に表れたからだ。



「おいでになりましたわね」



 しかし、それは最初にみた「テントウムシ」にしか見えない。そして、彼らはなにかの命令に沿って、陣形を組んでいた。

「ちょっと、待って」

「暁月さま?」

「――その散らばっている虫と蜘蛛は監視システムじゃなかったですか」

「そうだけど」


「既に操られてしまっていますが、撃てば……」


 脳裏に浮かんだ文言に、信憑性はない。しかし、暁月優利の脳裏には、確証を持って、言葉が浮かんでいる。

 不思議だが、いつも思い出すのが、この時の自分の台詞だった。


***



(思えば、これも感覚超越者ヴァーチュアス・ゴドレスとしての能力だったのだろう。慢心し、傲り、使いこなせないほどの脳の開花。リミッターのつけられた脳の知識は膨大過ぎて、尻込みしたのだと思う。もし、この能力を信じていたら、俺は今でも、キャッスルフロンティアKKの社員として、門奈計磨のそばにいられたのだろうか)



 

「撃てば、《《繋がっている誰かが、苦しむのではないですか》》?」


お読み頂き、ありがとうございます。

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