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第17話《VRの戦士たちー1》

***


 VRの世界でも、夜があるのかと、優利は呟いた。恐らく現実リアルとの違和感を抱えないようにできているのだろうと思うが、それにしても、作り物(パチモン)だとは思えない。

 まずは太陽、それに少しばかり陰りのある空。ヴァーチュアス・ゴドレス・オンラインに魅了された点だが、全ての風景が、現実より美しく、それでいて残酷に鋭敏に視える。


「夕暮れが」

「これは現実の陽光のダミーを作り、時間軸タイムラインを入れ込んでいるんだ。こういう研究をしている部門もあってね。どちらかというと、ヴァーチュアス・ゴドレス・オンラインチームの得意技だな。映像を自動判別し、明るさを最適化するCREX-XX。光彩を自動で調整するようにすれば、時間ごとの空も作れる。VGOは闇の色だが、全部で100以上のプログラミングから組み合わせている。元はブラウン管と同じなわけだ」


 やっぱり門奈計磨の解釈は面白い。優利はふとした時に知った、兄の存在をどうしても門奈計磨に重ねてしまっていた。


 もしかすると、この光り輝く人は、既にこの世を去った人々かも知れないとさえ。

 分からないが、門奈計磨に、暁月優利は惹かれていた。本当にバトルは怖かったが、楽しかった。


 多分、今までで一番最高のオスに出逢えた嬉しさだろう。


「フリック現象なんか起きるはずがないんだがな」


 門奈計磨は、まだ呟いている。一番最初のバトルで、優利が窮地に追いやられたところで、画像が乱れた。それはどこかからの妨害電波とも言える。

 だが、誰が、どうしてVGOを妨害したのだろう。



「まだ気にしてンのかよ、門奈さん」



 振り返ると、あっふと大きな欠伸を噛み殺しながら、男が一人歩いてやってくるが見えた。さっきほどから寝ていたために見えなかった顔は、年下のように見える。髪こそくせ毛だが、門奈計磨のような計算されたブロー系ではなく、少年、といった感じの短髪だった。


「よく言うだろ、負けも財産だって。どこにいるんだかわからん集合体大人数のVRMMOで勝ち続けることのほうが難しいって」


「堂園」


 呼ばれたくせに、返事が遅い。どうやら基本のコミュニケーションを避けているように見えた。


「……なあ、あいつ、調べて」

 オウムは一瞬ぎょろりと優利を見たが、双子ちゃんが山盛りにして「コーン」を持ってきたので、ご機嫌になったらしい。

「この子、好物がコーンポタージュなんですの。憶えておくといいわ、新人。オウムが拗ねたらコーンをあげる。穀物ならなんでも食べるけど、コーンは波長が落ち着くみたい。コーンはあちこちで入手できるから、買ってあげてね」


 ……そういえば、現実の鳥も穀物や粟を混ぜ込んだものを食べている。


「まさか、鳥類学の研究もやっているんですか」

「よくわかったな。その他、永年戦い続けたウイルスの疑似体験や、ペスト・コレラのレベルZの研究も成果を出したぞ」

「そうか、現実じゃないから……!」


 VRは仮想だが、現実では身体が侵されて終わってしまう事象も、こなせる。

「可能性があるって、こういうことですか」会話の途中に、「おっまたせー!」さっきの双子の片割れが、カレーを持ってきた。


脳の正常化(正常化バイアス)のために食べるというのも、変な話ですが」

「健全な精神《感覚》は、健全な脳に宿るってな。現実のおまえには栄養チューブが投入されてるよ。ここの料理は美味いんだ、な?」


『確かに、最高のコーンですぅ』オウムが従順になったところで、「あのさ」と優利は隣でマナーのない食べ方をしている堂園に声を掛けてみた。


「あ?」と堂園はスプーンを口の前で留めると、「ああ」と腕輪を突き出して見せた。「おまえも出せよ」睨まれて、ワイシャツの腕をめくる。門奈計磨はナイトフェンサー、堂園誠士はアサシン系。新入社員の暁月優利はワイシャツにスーツ。


 ゲーム好きの血が騒ぐ。


『腕輪を近づけてください。それで、名刺データが相手の腕輪に同期します』


 へえ、便利。こうかな?

 実際に腕輪を近づけると、小さなCCCDカメラのような水晶板が光るが見えた。同期システムと文字が点滅し、びかっと音がして、腕輪の文字に1が浮かび上がる。


『キャッスルフロンティアKK正社員堂園誠士のデータが、登録されました』


「よっしゃ、自己紹介終わり」堂園はさっさとカレーを平らげてしまい、また双子が揃ってやって来た。


「堂園様、今夜の当番は私達ですわ。この編成、よほどの強敵が?」


 まるでゲームの「編成」の会話に、カレーを落としそうになった。


「門奈様、どういうことでしょうか。それに、そこの新人。使えるの?」

「ああ、キャッスルフロンティアKKの最高の新人。今日は研修させてるんだ。夜のほうも。自己紹介してやって」


 双子は顔を見合わせ、おず、と腕を差し出した。


『HoroscopeCafé 従業員、ジェミー、登録しました』

『HoroscopeCafé 従業員、キャシー、登録しました』


 少しずつ腕輪に、仲間のデータが貯まって行く。SNSと同じだ。フォローされて数字が増えるとにやりとするあの感じ。特に暁月優利は仲間を裏切らないために、独りで歩む道を選んだ。だからきっと、他のユーザーより遅れを取っているだろう。

 それでも、裏切りの死の宣告を食らわせるよりはいい。


 ――そう思って始めたVGOで、まさかの運営サイドに最下層に叩き落されるとは思ってもみなかったが。


「では、暁月様、今後ともHoroscopeCaféを宜しくお願いいたします。暁月さまは、双子座ですのね? わたしたちと同じ。双子の兄弟がいらっしゃる?」


 興味津々なくせに、そっぽを向くのは双子座の癖だ。


「いや、優利は一人っ子だと調査しているよ。双子、喋ってないで接客へ」


 レジの前に待っているお客を認めた双子たちは慌てて走って行った。


 そうしているうちに、窓から差し込む光は柔らかいものから、少々きついものへと変わる。


「……気象システムのエラーかよ、門奈さん。まだ昼間じゃねぇかよ。俺寝る」

「まだ実験段階だからな。VGOのようには行かないさ」


 くるくると変わる空には、粒子を反射させて、気象を動かす最新型のプログラムが入っていると聞いた。



『昼休み、終了です。以降は遅刻、怠慢、PAIに対する態度など、全てサーバ管理されます。腕輪のロックを解除して、すみやかに勤務に勤しんでください。成績優秀者上位は、キャッスルフロンティアKKの誇るゲームの中で、勲章を受け取れます』



「まーじでー?!」



 オウムはふんぞり返って、『だから仕事しろと言ってるんです』と翼をばたばた動かす。余談だが、オスで胡桃はあまりにもなので、オスで、名前をクルタと付け替えた。どうやら気に入ったらしく、暁月優利とクルタの冷戦は収束した。


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