せいていのあ
一匹のカエルが叫んでいた。
「この世界は、狭すぎる!!」
その声を聞いた神様が、カエルを井戸の中から連れ出した。
「この世界は、広すぎる!!」
その声を聞いた蛇が、カエルをひとのみにした。
カエルは蛇の生きる糧となり、短い一生を終えた。
一匹のかえるが叫んでいた。
「この世界は、狭すぎる!!」
その声を聞いた神様が、かえるを井戸の中から連れ出した。
「この世界は、広すぎる!!」
その声を聞いた人間が、かえるをつかまえた。
かえるは人間の慰み物となり、長い一生を終えた。
一匹の蛙が叫んでいた。
「この世界は、狭すぎる!!」
その声を聞いた神様が、蛙を井戸の中から連れ出した。
「この世界は、広すぎる!!」
その声を聞いた宇宙人が、蛙を捕獲した。
蛙は宇宙人の研究材料となり、一生を終える手段を無くした。
「この世界は狭すぎる!」
試験管の中で、カエルは叫んだ。
「この世界は広すぎる!」
造られた地球の上で、かえるは叫んだ。
「この世界はおかしい!」
偽物の井戸の中で、蛙は叫んだ。
カエルがどれだけ叫んでも、地球の神様には届かない。
かえるがどれだけ叫んでも、地球の神様には何も響かない。
蛙がどれだけ叫んでも、地球の神様には助けて貰えない。
カエルの叫びは宇宙にこだまする。
かえるの叫びは宇宙で響き渡る。
蛙の叫びは宇宙を湧き立たせる。
カエルの叫びは、ただの音色。
かえるの叫びは、ただの見世物。
蛙の叫びは、ただの魂の断末魔。
カエルは叫ぶ、「なんで自分だけがこんな目に」
かえるは叫ぶ、「他のやつらは幸せに暮らしているのに」
蛙は叫ぶ、「この運命を与えた神を一生恨んでやる」
カエルは叫ぶ、「かわいい蛙と出会いたかった」
かえるは叫ぶ、「楽に裕福に遊んで暮らしたかった」
蛙は叫ぶ、「この運命を与えた神を一生恨んでやる」
カエルは叫ぶ、「一番不幸なのは自分だ」
かえるは叫ぶ、「幸せに生きてるやつらが恨めしい」
蛙は叫ぶ、「この運命を与えた神を一生恨んでやる」
生まれた場所に不満を漏らしたカエルの末路。
新天地に不満を漏らしたかえるの末路。
どこに行っても不満を漏らす蛙の末路。
カエルの言葉を知らない宇宙人は、カエルの叩きつけた音をなんとも思わずに聞いている。
かえるの感情を知ろうとしない宇宙人は、かえるの吐き出した音を心地よく聞いている。
蛙の生まれた意味を知るはずもない宇宙人は、蛙の絞り出した音を喜んで聞いている。
カエルの言葉を知る神様は、カエルの叩きつけた音をただ聞いている。
かえるの感情を知る神様は、かえるの吐き出した音をただ聞いている。
蛙の生まれた意味を知る神様は、蛙の絞り出した音をただ聞いている。
『この世界は、狭すぎる!!』
神様が、声を、聞いた。
神様は、一人の人間を、つまらない柵の中から、連れだした。
『この世界は
「誰か!助けてくれ!!」
「こんな世界はもう嫌だ!!」
「帰りたい、帰りたい、地球に帰りたい…」』
人間の声に、宇宙の果てから届いた叫び声が重なった。
狭い世界から連れ出された人間が、何をつぶやいたのかはわからない。
うるさい叫び声が聞こえるせいで、人間たちは中途半端に生きている。
……うるさい叫び声が聞こえなくなった時、人間たちはどうなってしまうのだろうね?
ぼそりとつぶやいた神様の声は、誰にも届くことはなかった。