第4章~穴だらけだった作戦会議(第2部完)
席替えをして暫く話をしていると、お酒に酔った徹平君が、
「これから2回目の作戦会議に行きますんで、男性全員移動ね!」
と、言ってきました。
「え~、またかよ…」
「私達は大丈夫だから行って来なさいよ」
「じゃあ、なるべく早く戻ってくるから」
徹平君を先頭に、ぞろぞろとトイレの前に移動しました。
「今、狙っている女の子を1人づつ言っていこうぜ」
と、徹平君が言うと、秀明君と達矢君とぼくは、
「今回はいないかな」
と、返答しました。
直之君は、
「俺は美々子さんかな」
と、言うと、徹平君はホッとした様子で言いました。
「今、俺の正面にいる奈津美さんって誰も狙ってないの?」
「まあ、そうだな」
「じゃあ、ガンガン行っちゃっていいかな?」
「誰ともかぶりなしだから遠慮すんなよ」
「じゃあ、達矢君フォロー頼むよ」
「OK!任せとけよ」
男性メンバーが5分位で席に戻ると、すぐに佳恵さんが言いました。
「今度は私達が作戦会議をしてもいいかしら?」
「どうぞどうぞ、足元に気を付けて下さいね」
と、秀明君が言いました。
「それと、化粧直しもしたいのでちょっと時間掛かりますね」
と、美々子さんがハンドバックを持って言いました。
そして、梨子さんを先頭に、ぞろぞろとトイレの前に移動して行きました。
それから、15分経っても帰って来ないので、
「俺、ちょっと様子を見てくるよ」
達矢君が慌ててトイレの前に向かうと、その数分後、
「おい、大変だ!誰もいないぞ!」
「そんなバカな!トイレの中じゃないのか?」
「女性の店員さんに確認してもらったけど誰もいないって!」
「そういや、化粧直しとか言って、全員荷物を持って行ったよな…」
「バカ!それで全員帰ったんだよ!」
「秀明君!奈津美さんと連絡取れる?」
「それが、さっきから掛けているいるけど、電源が切られているんだよ」
「ちょっと待った!俺、さっき美々子さんから携帯番号教えてもらったから掛けてみるよ」
と、直之君が言いました。
電話をしたものの、出たのは知らない男性でした。
掛け間違えかと思って何度か電話してしまったので、その男性には合コンの時にこの番号を教わった事と謝罪をして切りました。
「終わったな…」
「一応、会費は多目に持ってきたからそれで足りるけどな…」
「まさか、作戦会議を逆手に取られるとは…」
「そうだよな…お相手が全員席を立つなんて普通無いしな…」
「今思うと、幹事の優先権って別に全員に知らせなくても、好みがかぶっている人だけをさりげなく呼び出せば済んだんじゃないの?」
「まあそうだな…、改善の余地ありだな」
女性メンバーに逃げられたのは、居酒屋の建物の構造にもありました。
居酒屋の客席は2~3Fにかけてでしたが、合コンは3Fで開催していました。
居酒屋に出入りするのに、地上に下りられる階段が2ヵ所あったのです。
1ヵ所は階段の脇に会計と書いてあり、もう1ヵ所はそのまま地上に下りられたのです。(昔は大人数での会食が多かったので、会計でごった返すのを避ける為に、こんな構造の居酒屋にがありました)
居酒屋の会計は、2Fにありました。
そのまま下りていく人は、会計係に声を掛けてから下りるのが暗黙の了解でした。
当時は居酒屋を出る時、会計する人とそのまま出る人と分けて出ていけたので、ひと声掛ければ逃げるのは容易だったと思います。
店員さんに、男性メンバーの席を指差し、
「同じグループの者ですが、用事があるので先に帰りますが、残った方が払いますので」
と、言えば、怪しまれずに帰れた筈です。
地上に下りる階段が2ヵ所ある居酒屋は、食い逃げも多かったようですが、店員さんが地上のどこかに隠れて張り込みをしているので、すぐに捕まってしまうのです。
今では、こんな構造の居酒屋は見なくなりましたが、他の合コンでも悪用して逃げられた方がいたかもしれません。
秀明君が1人あたり2人分づつ会費を集めて、全員分の会計を終えて地上に出ました。
男性メンバーが渋い顔をして駅に向かおうとしていた時、ぼくは違和感を覚えました。
「まだ、女性メンバーがこの建物にいる!」
何故か、強くそう思いました。
このまま、居酒屋の入口を張り込んでいたら女性メンバーが出てくるんじゃないか?
と、思い、階段の方を見ていました。
男性メンバーはとっくに逃げたと思っていましたが、ぼくは2Fの女性用トイレに隠れていたんじゃないだろうか?
と、思いました。
ですが、
「おい、もう帰るぞ!」
と、秀明君に声を掛けられ、慌てて駅に向かいました。
昔の合コンで、作戦会議と称して女性メンバー全員から逃げられた時の思い出です。