第2章~30分前倒しされた宴会コース
翔子さんの主張は通ったものの、幹事の秀明君が居酒屋の予約を午後7時~2時間のコースで取っていたので、1時間30分で合コンが終わると料理が最後まで出きらない懸念がありました。
そう思った秀明君は、席を外してお店のホール係に料理を午後8時15分迄に出してもらえるよう交渉していました。
すると、お店の方は嫌な顔をひとつしないで、午後8時迄にはコース料理を全部出してくれると言ってくれました。
それからは料理が次々と運ばれてきて、宣言通りに午後8時の少し前には最後のデザートが揃いました。
その直後の事です。
洋一君の胸のポケットから、
「ピピピ、ピピピ…」
と、音がしました。
何と!洋一君は午後8時30のタイムリミットに備えて、試験として午後8時に携帯電話のアラームをセットしていたのです。
そして洋一君は、
「これでアラーム試験も大丈夫だ!次は午後8時30分にかけるぞ」
と、言って、再び携帯電話のアラームをセットして胸のポケットに入れました。
すると、秀明君と晴美さんは、
「それはいいアイデアですね」
と、言って、2人は携帯電話のアラームを午後8時30にセットして、各々テーブルの真ん中に置きました。
それならばと思ったのか、翔子さんも携帯電話のアラームをセットしてテーブルの真ん中に置きました。
午後8時30分のタイムリミットに備えて、その時に出席者が持っていた4台の携帯電話に全てアラームがセットされたのです。
これだけ備えがあれば、残りの30分弱はお酒をラストスパートで飲むだけでした。
あと1杯は飲めるぞ!と、思って飲んでいると、翔子さんの携帯電話のアラームだけが、
「ピッピー、ピッピー…」
と、鳴り出したのです。
すると、今まで散々盛り下げまくっていた翔子さんが、立ち上がって一気に不満を捲し立てて、
「何なの!どうなっているの?皆さんの携帯は全くあてにならないじゃないの!」
と、ブチ切れるなり、会費も置かずに猛ダッシュで帰っていきました。
皆さんは完全に呆気にとられていましたが、ぼくがふと腕時計を見ると、まだ午後8時20分だったのです!
そこでぼくは慌てて言いました。
「今はまだ午後8時20分ですよ!」
「皆さんの携帯電話のアラームが鳴らない筈ですよ!」
と、言うと晴美さんは力なく、
「ほ、本当だ…」
と、言ったものの、その後に、
「翔子さんの分の会費をどうしよう…」
と、言うと、晴美さんの顔がみるみる青ざめていくのが分かりました。
秀明君と直之君が翔子さんから会費を徴収する為、必死で店の外まで追いかけて行きましたが、もう後の祭りでした。
その数分後に、テーブルの真ん中にあった携帯電話2台と、洋一君の胸ポケットに入っていた携帯電話が、ほぼ一斉に虚しく鳴り響きました。
この当時、携帯電話のアラーム音は何種類もなく3台共同じ様な音でした。
その数分後に、渋い顔をして秀明君と直之君が戻ってきました。