第2章~合コンを利用した客引き
合コンの会話が、航弥君のセールの話だけに占領されたので、直之君が状況を察して、
「ねえ、航弥君!今日は合コンなんだから、デパートのセールの話しは止めにして違う話をしようよ!」
と、言うと、航弥君は仕方なくデパートのチラシを畳んでカバンにしまい始めました。
その後は暫く、最近の流行りについての事や、好きな芸能人等を話題にした、ごく普通の合コンがやっと始められました。
女性メンバーの澪さんは織重さんの先輩で、女性の中では最年長でした。
澪さんと織重さんは女性用下着売り場の店員で、職場では女性の同僚しかいなくて出会いは無いとの事でした。
澪さんは年齢を気にして合コンに出るのをしばらくは拒絶していたのですが、織重さんが何度も説得して何とか今回の合コンに参加したそうです。
だから、織重さんにとってこの日の合コンは、澪さんに何とかいい男性をつかまえて欲しくてテンションを上げて参加していたのです。
それが、いきなり航弥君のデパートのセールの話を聞かされて、
「今日もダメかな・・・」
…的な、空気が流れていたところに、幹事の直之君がいい仕切りを入れてくれたのです。
それから20分くらいしてから、女性側幹事の新美さんが、
「そろそろ席替えをしましょうよ」
と、提案してきました。
男性側幹事の直之君も賛成したので、席替えをする事になりました。
皆で席替えをしている時に直之君がそのままトイレに立つと、そこで航弥君は不敵な笑みをこぼしました。
そして、こう吐き捨てました。
「直之の野郎め偉そうに!」
「俺はデパートの営業ノルマが大変なんだっちゅうの!」
と、言うと、再びデパートのチラシを広げ始めて、
「女性の皆さん!デパートのセール価格の更に3割引になったら買いに来て頂けませんか?」
「この話がOKになったら、名刺の裏にサイン入れますんで!」
と、言うなり航弥君は席を立ちました。
そして、なにやら店の入口付近に行って、携帯電話で話し始めました。
どうやら、先程の話しに出てきた神谷部長に、セール価格の3割引にしてもらえないかと交渉しているようでした。
その時ぼくは、商品の価格がいくらになるか頭の中で考えていました。
1000円の商品がセール価格で800円、名刺を提示で700円…。
それがサイン入りの名刺を提示したら、800円×(1-0、3)=560円か!
それだったら、会社帰りに寄ってもいいかな?
…とは思ったものの、この場で食い付く雰囲気ではない事は重々承知していました。
このままでは、いくら合コンを盛り上げたとしても航弥君にぶっ潰されるな…。
ぼくと直之君は、航弥君からの名刺をすぐに胸のポケットに押し込んで拒絶反応をしましたが、女性メンバーはテーブルの上に置いたままでした。
このままでは、ただ無駄な時間だけが過ぎてしまう。
何とかしないと!
ぼくは思い切って途切れた会話を再開しました。
「あの、澪さんっておいくつなんですか?」
「あんまり言いたくないんですが27才です」
「じゃあ、直之君の1つ年下ですね」
「でも私、合コンだと最年長が多くてモテるのは若い子ばっかりで嫌になっちゃうわ」
「いやいや、そんな弱気な事言わないで下さいよ」
「あの、同僚の織重さんはおいくつなんですか?」
「私は24才です」
「織重さんは、いかにもモテそうって感じですね」
「そんな事ないですよ~、出会いもないですし…」
「まあ、そういう事にしときますか」
「澪さん、3才差でそんなに扱いが変わるものですか?」
「ええ、同席するとはっきり分かるわ」
「直之君とは年も近いし彼なんかどうですか?」
「どうと言われても…今日はまともな合コンになってないじゃないの!」
「確かに…」
「でも、彼は年上だし私に興味を持ってくれたら嬉しいわ」
「直之君は正義感が強くていい人ですよ」
「あの、新美さんは織重さんと同い年ですか?」
「私は彼女より1つ上で25才です」
「ぼくも25才です」
「確か、航弥君も25才だったな…」
「じゃあ、新美さんとぼくと航弥君は同い年なんですね」
「ええ、そうね」
「新美さんはよく合コンに行くんですか?」
「ここ最近ね、そろそろお相手を見つけなきゃって感じかな」
「でも、このメンバー同士だと先に澪さんがうまくいって欲しいよね」
「それももちろん期待していたわ…」
ぼく1人で女性メンバー3人の視線を受けるのに少し緊張しましたが、男性2人が席を外していたので、その間いろいろと頑張って会話をしました。