4.悪役令嬢と夜会
偉い人たちが集まれば、それは夜会開始の合図。
マリアンヌ達は無事リリアーヌを夜会から追い出せるのだろうか!?
授業が始まって早半月。
マリアンヌ達はリリアーヌを攻めあぐねていた。
「全く、いったいどういうことかしら!」
「本当に、教師を買収して解けないはずの問題を指名させれば簡単に答えますし」
「適度にノートを破る度、感謝される・・・」
「「「はぁ・・・」」」
そう、いくらリリアーヌをいじめようとも、肝心のリリアーヌが全くへこたれないどころか感謝をしてくる有様なのだった。
「しかし、今週末には学園生顔合わせという名の夜会がありますわ」
「・・・なるほど、そこで彼女のドレスにでもいたずらすれば」
「ダンスも出来ず、会場から早々に逃げ出すしか無い、と」
「そうと決まれば夜会のスケジュールを確認しないといけませんわね」
「ええ、最高のタイミングで彼女のドレスを汚すことが出来れば」
「皆の注目の中、彼女は恥をかきながら逃げ出すしか出来ません」
「では」
「「これで」」
こうして彼女たちの授業時間は過ぎていくのであった。
そうこうして夜会当日。
リリアーヌを今か今かと待ち構えるマリアンヌ達の前に、ついにリリアーヌが登場したのであった。
「まぁ、平民出にふさわしいボロボロドレスかと思えば、意外と上等なドレスですわね」
「確かに、とても平民に手の出せる品物ではありませんわ」
「もしかして、夜会のために全てを賭けた一点物なのでは無いでしょうか・・・?」
上位貴族にふさわしいドレスを身にまとったマリアンヌ達の前に現れたのは、マリアンヌ達にも負けず劣らずの上等なドレスを着たリリアーヌであった。
しかしその様子は普段と違い、顔を真っ青にした上で異常におどおどとしているのであった。
「なるほど、全てを賭けた一点物ならば、あの挙動不審な態度も分かりますわね」
「ええ、ドレスを汚さないように、汚さないように、非常に気を遣っているのでしょう」
「ということは、汚したときの彼女の落ち込みは期待以上のものになりますわね!」
そうして獲物を前にしたマリアンヌ達は、うきうき顔でそのタイミングを待つのであった。
そして長い挨拶が終わり、これからダンスが始まろうというそのタイミングでマリアンヌ達は動いた。
近くにあったテーブルからワインを取り、リリアーヌに近づくと、
「きゃあああ!」
「あら、これは失礼しましたわ」
思いっきりワインをリリアーヌのドレスにぶっかけた。
「このような所にみすぼらしい平民がいるとは思わず、目に入っておりませんでしたの」
「本当に失礼な平民ですわね。おかげでマリアンヌ様がワインをこぼしてしまいましたわ」
「ええ、この責任をどのようにとってくださるのかしら」
自分たちでワインをドレスに掛けておきながらリリアーヌに責任を追及するマリアンヌ達。
さすがのリリアーヌも、さっきまで真っ青だった顔が真っ赤になっており、これはついに怒ったか!?とわくわくしながらマリアンヌ達は待ち構えていると、
「ああありがとうございましゅ!」
涙を流しながらお礼を言ってお辞儀をした後、バビュンと擬音が鳴りそうな勢いでリリアーヌは会場を後にした。
残されたのはもちろんマリアンヌ達。
そして周りで様子を伺っていたその他生徒達。
あまりの事態にダンスの伴奏音楽も止まっていた。
数秒か数十秒か数分後か、ようやく復帰したマリアンヌは
「な、なんで・・・?」
この一言を言うのが精一杯であった。
もちろんこの後の夜会は、皆の困惑から酷くギクシャクした雰囲気の中でつつがなく行われたのであった。
なお、この鬱憤を晴らすため彼女たちが家を巻きこんで八つ当たりした結果、宰相が交代するほどの騒動が起きるのだが、それはまたの話。
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