3.5 ヒロインちゃんと授業ノートと悪魔の契約
それはとある日の魔法陣講義の時であった。
講師の言葉や板書を逃さない!と意気込んでノートに書き込んでいると、いきなりノートに書いた魔法陣が薄らと光り出した。
「え?」
慌てて陣を消そうとするも魔法陣は完全に発動してしまった。
「一体どうして?魔力は通していないのに・・・」
「あ、ごめん。多分僕の漏れている魔力とその魔法陣の相性が良かったんだと思う」
うろたえるリリアーヌと、原因にもかかわらず他人事のようにつぶやく不幸の神。
そして魔法陣の効果がリリアーヌの頭の中に入ってくると
「な、なにこれ。何でこんな内容になっているの・・・?」
その効果は講師が言っていた魔力増幅ではなく、悪魔と契約を行うという物であった。
もちろん、原因は他人事のように笑っている不幸の神。
不幸にもノートに書き写している際に重要な部分がズレてしまい、『偶々』近い形である悪魔と契約する魔法陣となってしまっていたのであった。
その効果はと言うと、
「うそ・・・、一時的に魔力が増幅される代わりに徐々に衰弱、他の人が魔法陣を破壊しない限り解除不可、助けは呼べない、なんて・・・。何でこんな魔法陣が存在するのよ!」
彼女のつぶやきは『周囲への助け要請』と見なされ、他の人には聞こえない。
もちろん、講師は「リリアーヌ、ノートを見つめて手が止まっているが、何か分からない所があったのかな?」としか思っていない。
リリアーヌがフリーズした現在、だれも授業を聞いていないという現実は講師には不要なのだ。
それはさておき、
「ど、どうしよう、私どうしたら良いの?」
「いや、僕に聞かれても今更どうしようも無いのだけれど」
困惑するリリアーヌと、原因なのに全く気にしていない不幸の神。
そうしているうちに授業は終わっていた。
何とかこのノートの魔法陣を誰かに破いてもらわないと!
私が破こうとすると手が止まってしまい、燃やそうとして火の魔法を使おうとしても詠唱が途中で止まってしまう。
何とか出来そうな不幸の神は笑っているだけ。
少しずつ、少しずつリリアーヌの体から力が抜けていくのが分かる。
その状況を理解すしたリリアーヌの顔は、どんどんと青ざめていった。
誰か。
誰か助けて!
藁にもすがる思いで周りを見回しながら心の中で叫ぶと、
「あらあらあら、こんなみすぼらしい物を教室に持ち込むなんて、一体何を考えているのかしら?」
そう言いながら、マリアンヌ様達がリリアーヌの前に現れたのであった。
そして魔法陣が書かれたノートをさっと取り上げた。
「あっ、あのっ・・・」
魔法陣の契約か、手が勝手に動いてノートを取り返そうと伸ばす。
しかしここが最後のチャンスと思い、リリアーヌは手が伸びるのを必死で押さえ込んだ。
もちろん、マリアンヌ達がどんな顔をしているとか気にする余裕はリリアーヌには無かった。
「ここは高貴な者たちが通う学園でしてよ?このようなみすぼらしい物は持ち込まないでいただきたいですわ」
「そうですわ、せっかくですから私たちで処分して差し上げましょう」
「それは良いアイデアですわね。では早速」
そう言いながらマリアンヌ様は魔法陣の書かれたノートをビリビリビリッ、と破り捨て、
「炎よ」
ヘレナ様が炎を出してノートをボウッ、と燃やし尽くし、
「風よ」
ソーニャ様が風を操りヒューゥ、と燃えかすを丁寧にくずかごの中へと運んでくださったのでした。
「これで綺麗になりましたわね」
ノートが破られ、燃やされるにつれ、契約の効果なのかリリアーヌはどんどん苦しくなっていった。
そしてノートを守ろうと勝手に動く体の力も強くなっていったので、リリアーヌは必死に押さえ込み続けた。
そのため、この一連の行為の最中、端から見たリリアーヌは顔を青ざめて小刻みに震えているようにしか見えなかった。
内部ではかなりの葛藤が行われていることなど、誰も気づかないのであった。
「ふぅ、せいせいしましたわ。目に付く度に気になっておりましたので」
マリアンヌ達が良い笑顔で立ち去ろうとした瞬間、リリアーヌを縛っていた契約の効果が完全に無くなった。
リリアーヌは思わず立ち上がり、
「あ、ああ、ありがとうございました!!!」
マリアンヌ達へとお辞儀をしながらお礼を言ったのであった。
「「「・・・え?」」」
ああ、この人たちは凄い人たちです。
私のノートをちらっと見ただけでとんでもない魔法陣が発動していることを見抜き、しかも自分で解除できない類いであると理解した瞬間、周りの目も気にせずに私のノートを破り捨ててくださった。
そして私に気を遣わせないよう、まるで『腹が立っていたから目に付いたノートを破り捨てただけ』と言わんばかりの態度でこちらを気遣ってくださるなんて!
「このご恩は一生わすれましぇん!」
またマリアンヌ様達に助けられた。
私が役に立つ場面があるか分からないけれど、その時には命をかけてでもお役に立つ!
そう心に誓うリリアーヌであった。
なお、一連の遣り取りを見ていた不幸の神は
「え?魔法陣のやらかしはそのうちあると思っていたけれど、こんなにあっさり解決するなんてあり得るの?」
頭に?マークを沢山浮かべながら、マリアンヌ達を見ていたという。
少しでも笑っていただけたら幸いです。