冒険者登録
城塞都市ギアナ。
俺が初めて訪れた町はそんな名前だった。
門を潜った俺は、ギアナの中世的な町並みに、少し驚いた。間違いなく初めて見るので、もっと驚くかとも思っていたが、予想できたのでそこまででもなかった。
メインストリートと思われる大通りをまっすぐ進んでいく。道など知るはずもないが、俺は歩いていれば案外なんとかなると思っていた。
「やっぱり、なんとかなった」
誰にともなくこぼす。
俺の見上げる先にあったのは、夕日を浴びて燦然と輝く「冒険者ギルド」と書かれた看板だった。
カランカラン、と音をたてて、入り口の扉を開く。中に広がっていたのは、呑んだくれたおっさんたちの酒盛りなどではなく、黙々と書類仕事にかかる女性と、想像の数倍小綺麗な空間だった。
俺は受付の女性のところへ向かう。
書類仕事をしているところに声をかけるのは少し申し訳ないが、俺もできるだけ早く登録がしたい。
「あの、すみません」
「・・はい、なんでしょうか?」
書類から顔をあげて、彼女はこちらを向く。眼鏡をかけた知的な風貌だ。テンプレとも言えるだろう。
「冒険者登録をしにきたのですが」
「はい、少々お待ちください」
門番のおじさんの時と違って、止められることはなかった。人手不足なのか、勝手にやれということなのかはわからないが。
奥に引っ込んだ受付嬢さんは、すぐに紙を持って戻ってきた。
「それでは、ここにお名前と血判をお願いします」
「わかりました」
よくある転生特典なのか、この世界の言葉は、俺にとって日本語に聞こえる。文字も同様で、日本語を書くだけで伝わる。
しかし、こっちで生きていくにあたって、漢字は使わないことにした。
これは、こちらは表音文字を使った名前しかないとユウトから聞いたからだ。下手に漢字を使って、怪しまれたりするのはごめんだからである。
俺は手早く「アキタ コザト」と紙に書き、置いてあったナイフで親指を少し切り、血判を押した。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます、コザトさん」
どうやらこれで登録自体は終わりらしい。
次に、金属製のプレートを渡される。
「こちらが、冒険者としてのあなたの身分を証明するものです。血判で得た情報をもとに魔法で作成しているので、下手に弄ったりはできないようになっています」
そこには、コザト アキタの名前と、「5」という数字が掘られていた。
「コザトさんは最下位、5級の冒険者です。依頼をこなしていけば、4、3、2、1と等級が上がっていき、それに比例して報酬も上がっていきます」
分かりやすいシステムである。これもテンプレといえばそれまでだが。
「そちらのボードに依頼が掲示されるので、それをここに持ってきて受ける、というのが依頼の受け方ですね。また、依頼以外でも、狩った魔物の素材を売っていただければ、ランクアップに繋がりますよ」
「冒険者は、人々と町を守る仕事です。よろしくお願いしますね」
そう言って、彼女は書類仕事に戻ろうとした。しかし、俺が引き留めたことにより、戻ることはできなかった。
「早速買い取りをお願いしたいのですが」
「わかりました。お出しください」
俺は、バックに溜め込んでいた魔物どもの牙を取り出す。
回収できなかったものも多くあったが、それでもかなりの量になった。
どさっとカウンターに出したそれを見て、彼女は少し驚いた様子を見せたが、すぐに数を数え出した。
やはり優秀な人なのだろう。すぐに集計は終わった。
「フォレストウルフの牙が72本ですね。状態もよいですし、150リッタでお引き取りします」
貨幣価値はわからないが、さすがにこの量であるし、一晩泊まるくらいは確保できたはずだ。
「ありがとうございます」
俺は彼女から銀貨を15枚受け取り、冒険者ギルドを去った。
テンプレートというのは、最も整備されたものであり、先人たちの知恵が詰まっている。
自分ごときがそれを越えられるとも思っていないし、テンプレートは悪ではないはずだ。
いや、思い付かなかっただけ