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その道具箱に詰めるのは  作者: リア狂
転移編
7/22

侵される心

 確かに、禁忌と呼ばれるだけのことはある。

 そこに書かれていたのは、おぞましい知識だった。


『人体魔道具化計画』


 それが、その本の題名だ。

 計画のコンセプトから始まり、具体的な術式解説、必要な道具や、詳細な使用条件などが、狂的なまでに細かく書かれていた。

 元は、少ない魔力で大きな魔術を行使するための手段として考えられたようだが、実験を繰り返していくうちに、この計画そのものに筆者はとりつかれていったようだ。


 魔道具化は非常に簡単だ。

 魔術陣を体に書き、魔石を埋め込む、それだけだ。


 しかしこの二つが困難だ。


 魔術陣を書くには、人の血液から作った染料が大量に必要だ。

 とても一人で補える量ではない。健康な成人男性三人分といったところだろうか。血液で魔術陣を書き、それを乾かし、その上からまた魔術陣を書く。

 それを全てまだ暖かい血液でやらなければならない。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()わけだ。

 こんなもの、禁忌に決まっている。


 さらに、発動にいちいち代償がいる。

 肌に染み込んだ魔術陣を励起するために、()()()()()()()()なのだ。それもかなりの量が。

 本には、自分の心臓にナイフを突き刺し、そこから流れ出る血液を使ったと記述してあった。

 まさに狂人の類いだろう。


 さらに魔石だ。

 魔石は魔物の体内に生成されるわけだが、筆者はそれを集めるのを非効率だと考え、人工の魔石で代用したという。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()、という方法で作った魔石で。

 当然失敗も多く、かなりの犠牲者が出たらしい。


 これが『人体魔道具化計画』の全貌である。


 この筆者は真性の狂人だ。間違いない。


 さすがにこれをやるわけにはいかない。そう決意を改め、離れるようになった本を戻して、床についた。


 ーーーーー


 イマノオマエデハムリダ。

 ソノミヲドウグトカンガエロ。

 カナラズヤツラヲホロボスノダ。


 ーーーーー


 朝の日差しに、目が覚めた。

 すぐに俺は、()()()()()()()()()()()のため、動き出した。


「・・読み終わったようですね」

「ああ・・少し出掛けてくる」

「ええ、気持ちの整理が必要だと思いますから、どうぞ」


 ユウトは勝手に勘違いしてくれているようだ。

 倉庫においてあったそこそこ高そうな片手剣と、同じくらいの品質に見えるバックラーを持って、俺は山の奥へと向かった。


 ーーーーー


 殺す、殺す、殺す。


 俺は今、前々から見つけていた、ゴブリンの集落にいる。

 そこはまさに、地獄絵図と化していた。


 俺の剣術は、専門ではないであろうユウトに少し教わった程度のものだが、なにより剣のスペックが凄まじい。どうやら少し高い程度ではなかったようだ。

 剣であり、魔道具でもあるだろうそれを振るえば、強力な風の刃が飛び、ゴブリンたちを両断していく。


 殺す、殺す、殺す。


 始めこそ抵抗するものもいたが、もはや逃げ惑うのみだ。

 浴びた返り血をそのままに、俺は虐殺を続けた。


 どのくらいたっただろうか。死体が暖かいから、それほどたっていないのだろう。

 俺は集落のあった場所に腰を下ろし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ゴブリンの血液はぬるりと指先に絡み付いたが、不思議と不快感は覚えなかった。

 もちろん、ゴブリンを殺したことへの罪悪感もなかった。


 この世界では、人間も亜人も手を取り合っている。

 迫害や差別もさほど多くなく、争いの類いも少ない。ゴブリンたちだって、ゲームのように人間を襲ったりはせず、自給自足で暮らしいていた。


 俺はそんな彼らを躊躇いもなく殺した。

 そして、そこになんの疑問も覚えていない。


 一段階目の魔術陣が書き終わった。

 剣を地面に何度も振り下ろし、起こった風の殺傷力のない部分を浴びて、血を乾かす。

 それが、終われば、すぐに次の段階だ。


 血の他に必要な触媒は、ユウトの家から勝手に持ち出してきた。

 徐々に、俺の体は道具になっていく。

 徐々に、人ではなくなっていく。


 そこに、なんの感慨も抱かなかった。


「っ! 君は! 何をしているんだ! コザト!」

「ああ、ユウトか」


 振り返れば、見たこともないような、憤怒の形相を浮かべたユウトが立っていた。


「ああ、ではない! ここのゴブリンたちが何をしたというんだ! なぜ殺した!」

「魔術陣を書くのに必要だったから」

「魔術陣・・そうか・・誓いを・・破ったのか」

「ああ。破った」


 彼の顔は怒っているようでもあり、泣いているようでもあった。


「もう二度と、僕の前に現れるな、()()()

「ああ、そうするよ」

「・・その剣と盾は持っていけ。人殺しの使ったものなど、必要ない」

「分かった」


 それは、俺への餞別代わりといったところだろうか。

 1月同じ場所で暮らした、同郷の者なのだ。彼だって好きで俺を追い出した訳ではないということだろう。

 こうして俺は、この世界で初めて出会った、同郷の友であり、師匠であり、恩人でもある人物と決別した。

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