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その道具箱に詰めるのは  作者: リア狂
転移編
5/22

挫折と執着

 ユウト・・師匠のもとでお世話になり始めてから1ヶ月が経った。

 魔力操作はだいぶうまくできるようになったし、練習の一環として行っている林間走のお陰で、基礎体力も元の世界にいた頃よりついていると思う。家事の手伝いなども危なげなくこなせるようになってきて、目標があればいろいろできるようになるもんだな、と思った。


「魔力操作はほぼ完璧だね。じゃあそろそろ、魔術陣を使ってみようか」

「ようやくか・・」

「十分早いと思うよ。それじゃあ、そうだね、クリエイト・ウォーターからやってみようか」


 この世界の魔術には、『火』『水』『風』『土』の四つの属性があり、中級くらいまでの術式は体系化され、魔術陣もみんな同じものを使っている。それより難易度が上がると、術者のアレンジが多く入ってくるため、体系化は事実上不可能らしい。

 クリエイト・ウォーターは水属性で1番簡単な術式で、魔力を水に変え、球体状にするというものだ。今回は詠唱ではなく、既存の魔術陣に魔力を通すことで発動させる。


「なんだか緊張する」

「はじめはそんなものだよ。君の魔力操作はかなり上手いし、初級程度の魔法なら、簡単に発動できると思うけどね」

「ふぅ・・いきます! 『クリエイト・ウォーター』!」


 圧縮して固めた魔力を、魔術陣の幾何学模様を管に見立てて通していく。この方法では詠唱はいらず、ましてや術式名を言う必要などないが、気分だ。

 魔術陣を通った俺の魔力は、空中の1点にとどまり、水へと姿を変えた。ついに魔術の発動に成功したのだ。しかし、そこにあったのは達成感などではなく、喪失感と不快感だった・・


「大丈夫? 発動には成功したよ?」

「あ、ああ。成功・・したのか・・そうか・・」

「本当に大丈夫? 顔色が・・もしかして魔力枯渇!?」


 師匠のそんな言葉を聞いたのを最後に、俺の意識は暗転した。


 ーーーーー


 タオセ・・ヤツラヲ・・セカイヲハメツヘトミチビク・・ヤツラヲ・・


 ふ、と目が覚めた時には、すでに外は夕焼けに染まっていた。今聞こえた声はいったい何だったのだろうか。それよりも、俺はどうなったんだろうか。


「気が付いたかい? いやーびっくりしたよ」

「ユウト? 俺は一体・・」

「軽度の魔力枯渇で倒れたんだよ」

「魔力枯渇?」

「体内の魔力を使い切っちゃうことだね。魔力は生命力に直結するから、無くなると一時的に意識が飛ぶんだよ」

「クリエイト・ウォーターで魔力を使い切ったってことか?」

「まあ・・残念だけど、そういうことだね」

「残念?」

「うん。初級魔法の魔力消費量なんてたかが知れてるんだ。そんな程度の魔力消費で、軽度とはいえ魔力枯渇を起こしちゃうんだから・・」

「高度な魔術は使えない・・か」

「そういうことだね・・」


 早くも強力な魔術を使うという夢は潰えかけてしまったみたいだ。

 これだけ期待して、努力してきただけに、多少の絶望もある。


「・・魔道具の起動に使う魔力は、魔力操作と大して変わらないくらいだ。連続使用はできなくても、魔術が全く使えないと決まったわけじゃないんだ。だから、あまり悲観しないで」

「ああ。ありがとう」


 俺は、諦められなかった。

 発動直後に感じた喪失感と、不快感。まるでどこかに魔力を持っていかれるようだった。

 さらに、目覚める前に聞いた錆びついたあの声。

 何か、原因があるはずだ。

 子どもっぽい夢だが、ここまで努力したのに諦めたくない。

 何としても原因を見つけ出し、取り除く。

 そしてこの手で、魔術を振るうのだ。


 このときから、俺は魔術に執着し始めた。

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