世界のこと
説明回の1
「まず、俺が教わる側なんで、敬語とかは大丈夫です」
「OK、君も敬語は使わなくていいよ」
さて、何から聞き始めようか。たくさん聞きたいことはあるけど、まずはユウトさんのことから聞こうか。
「ユウトさんは、いつからここに?」
「そうだね、10年前になるかな」
「それじゃあ、外見は俺と同じくらいに見えるけど、年は?」
「28だね。高校卒業直前にこっちに来たんだ」
「なんか年上ってわかると、敬語使いたくなるんだけど」
「いいよ、そういうのは。あと、さんもいらないから」
「わかった、ユウト。転生者は、君だけだったのか?」
「いいや、僕の他に4人は確実にいるね」
そんなにたくさん居るわけでは無いみたいだけど、やはり同郷の人がいるのは嬉しいことだ。
「その4人は一緒じゃないのか?」
「5年前に別れてね。彼らは4大国にそれぞれ国賓として滞在してるみたいだけど、しばらく会ってないね」
やっぱり寂しいのだろうか。4人のことを話すユウトの表情は、少し懐かしげで、優しいものだった。
「4大国っていうのは?」
「4大国っていうのは、この大陸を分割統治している『王国』『帝国』『聖国』『皇国』のことを指しているよ。まあ、現状では海の向こうに他の国があるのかわかっていないから、僕たちにとっての世界四大国ってところかな?」
「なるほど。ここはどの国なんだ?」
「『王国』の北の外れだね。もう少し行くと『帝国』との国境があるよ」
だいたい周辺のことは分かってきた。あとはもっと、この世界そのものについて聞いていくか。
「世界の広さとかって、わかってるのか?」
「いや、全く。でも、この大陸の広さは確か、オーストラリアの3分の2くらいだって聞いたような・・」
「あとはそうだな、科学はどれくらい進んでいるんだ?」
「元の世界と比べたら、全然だね。ガス灯はあるけど、電気はないし。でも、代わりに魔術があるよ」
魔術! 待ってました!
「魔術に興味があるみたいだね。まあ、一度は憧れるよね」
「ユウトは使えるのか?」
「それなりに、かな。僕の専門はいわゆる魔術じゃないからね」
「じゃあ、何が得意なんだ?」
「理論魔術。まあ、ざっくり言えば魔術研究とか魔道具作成かな」
「その・・見せてもらったりとか、できるか?」
「構わないよ。ついてきて」
席を立ったユウトに続いて、部屋の奥の扉をくぐる。
そこには、外装と明らかに合わない広さの工房が広がっていた。
「なんか広くないか?」
「空間を拡張しているからね。そういうのも得意なんだ」
工房には様々な器具や、宝石、本が散らばっていた。パッと見た感じは、理科実験室のようだが、魔術の研究と聞くと、なんだか特別な場所に感じる。
「散らかってるけど、そこら辺に座って」
俺を適当な椅子に座らせると、物が散乱している机から、なにやらライターのようなものを取り出してきた。
「これはライターを魔術で再現した魔道具だよ。実際のライターの構造はわかる?」
「いや、詳しくは」
「まあ形が分かっていればいいや。普通はここに燃料が入っているよね?」
「ああ」
「でもなにも入っていない。じゃあ点かないのかというと、」
カチッとボタンを押すと、火が灯った。どうやら本当に燃料要らずらしい。
「この通りだ。使う人が魔力を調整してやれば、大きい炎にもなるんだ」
そう言うと同時に、ライターの火が大きく燃え上がり、すぐにもとに戻った。
「魔道具っていうのは、使う人の魔力を燃料にした道具で、用途は限定的だけど、自分で魔術を行使するよりずっと少ない魔力で、効果を得られるんだ」
「へぇ・・」
「面白いだろ?」
ユウトの目が輝いている。よっぽど魔道具が好きなんだろう。俺としては、大出力の魔術に憧れるけど、こういうのも異世界っぽくて好きだ。
「俺も使えるのかな」
「魔力が無い人はいないからね。コツさえ掴めば使えるようになるはずだよ」
俺でも魔術が使えるらしい。是非使ってみたい。
「その・・できれば、魔術を教えてもらえるとありがたいんだけど・・」
「もちろん、大丈夫だよ。後、行くところもないんだろう?しばらくうちに泊まるといいよ。その方が教えやすいしね」
「いいのか?負担にならないか?」
「むしろにぎやかになって嬉しいかな」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらう。ありがとう」
「どういたしまして」
住むところも確保して、良い先生役も捕まえられた。魔術を覚えて、異世界ライフを満喫してやろうと思う。
にしても、ユウトは聖人かなにかなんだろうか・・