森林探索
一昨日まで休むつもりが、昨日も更新をサボってしまい・・誠に申し訳なかったです。
今日からまた毎日更新に戻していきたいと思います。
あと、今日からしばらくはこっちに集中して、平和な毎日の方は休みたいと思います。
「コザトさん! 今です!」
ユミナに言われるまでもなく、上体を仰け反らせたグリズリーに向かって縦斬りを入れる。風を纏ったそれは、容易に皮膚を斬り破り、肉を深く裂いた。
「お疲れさまです。やっぱり火力が全然違いますね」
「元々、俺とあなたでやろうとしたのが無理だったんだよー」
手際よく解体を行い、戦利品を手に入れた俺は、森の奥の方へ目を向ける。
まだ入ったばかりであるが、ユウトのいた森に匹敵するほどに深そうだった。
「ラカンドの主武器はクロスボウなのか?」
「まあ、剣も使えるけどねー」
このチャラチャラした男は、戦闘中チクチクと矢で攻撃していた。
ユミナは、このひ弱な見た目でピュアタンクであり、この男が火力になると見ていたのだが、弓ですらないクロスボウでは、十分なダメージを稼げなさそうだ。
少しの引っ掛かりを覚えながらも、俺はさらに奥へ進もうと提案した。
森を歩き始めてどれくらいたっただろうか。鬱蒼としたそこは、太陽の届かないところも多く、正確な時は分からないが、空腹度合いからして昼過ぎくらいだろう。
「そろそろ昼食にしませんか?」
「そうだねー。お腹すいたし」
「用意はあるのか?」
「お弁当買ってきました」
周囲の警戒をしつつ、簡易拠点を作る。
と言っても、レジャーシートのような布を中心として、いくらか罠を張る程度だが。
ユミナの持ってきた弁当は、王都近くによく出没するトカゲ類の肉と、レタスに似た野菜に、濃い口のタレがかかった簡単なものだった。
この世界の魔法使いは、水魔『クリーン・アップ』のお陰で、軽い食中毒くらいならどうということはないが、俺は魔力が少なすぎるせいでどうということはある。
袋から取り出した鍋に肉と野菜を放り込み、水魔『クリエイト・ウォーター』のエンチャントがされた、水筒から水を開けて火を入れた。
「何故煮るんです?」
「食中毒対策だ」
「食あたりは大丈夫だと思うけどねー」
やはり、このパーティーは妙だ。
弁当をもって冒険に出る場合、冷やして持っていくか、再加熱をするのは冒険者にとって常識だ。
ユミナはその常識を知らなすぎるし、ラカンドは冗談めかしている割には、本気で食中毒が起こらないことを確信しているようだった。
一緒に入れた各種香辛料によって、トカゲ肉弁当は、カレーのような物に変身した。
漂う香りに食欲を刺激され、主食の堅焼きパンを浸しながら食べる。火傷寸前の熱さに最低限冷ましたそれは、適当に作った割には旨く、淡白なトカゲ肉も良い味を出していた。
「それ、なんというんですか?」
「あー、カレーっていう料理だな」
「聞いたことがありませんね。ラカンドはどうですか?」
「俺も聞いたことないねー」
「まあ、そうだよな。俺の故郷の料理なんだ」
向こうでは、そこそこ料理をしていた・・気がする。
こっちの食材でどれだけ再現できるかは分からないが、出来合いのカレー以外にも、多少の物は作れるはずだ。
「コザトさんの故郷、少し気になりますね・・」
「王国じゃないよなー。たぶん帝国でもないだろー? じゃあ皇国か聖国なのか?」
残念ながらそのどこでもないのだが、異世界出身であることを言っても信じてもらえないだろう。下手に怪しまれるよりは、ここは誤魔化すべきだ。
「ま、いいだろ。それよりこれ、食べるか?」
「いいんですか!?」
「・・まあ、今はそれでも良いけど・・俺ももらおうかなー」
目を輝かせるユミナと、何やら思わせ振りなラカンドの口に、カレーのついたパンをねじ込んだ。
「あふ、あひゅ、あひゅいれす!」
「んー。旨いねー」
愉快に熱がるユミナを見て、思わず笑みがこぼれる。
思えば、ルリが意識を取り戻さなくなってから、普通に笑えたのは初めてかもしれない。
「笑わないでください! 私の方が年上ですよね、たぶん!」
「俺は16かな」
「私は17です! やっぱり私の方が上ですね!」
「たった1歳差じゃないか・・」
だんだんと、この少女が分かってきたかもしれない。
ムードメーカーの天賦の才能があるユミナによって、俺は次第に警戒を緩めていった。
ーーーーー
ひたすらに走り、厄災から逃げる。
気温が下がってきたと感じたときに、いち早くこうしていればよかったと、後悔の念が頭をよぎるが、後の祭りだ。
薬用にも使える、旨いキノコの採集場所についた俺たちは、感じた肌寒さを気のせいと論じ、採集を急いでしまった。
その結果、この様だ。
森の奥から現れたフロストワイバーンが、凍気のブレスを容赦なく放ってくる。
当たれば足が止まり、立て続けに死まで繋がってしまうだろう。だからこそ、走る。
しかし、破局は遠くないうちにやってくる。
「きゃっ!?」
「ユミナ様!」
元々盾役で、走ることに慣れていなかった彼女は、悪路に足をもつれさせ、敵の前で派手に転がってしまった。
つられてラカンドが足を止め、ワイバーンに向き合う。
「チッ!」
さすがに2人を置いてここに残るわけにはいかない。
2人を守る理由はないが、初依頼でパーティーメンバーが全滅したとなれば、今後の活動に支障が出る。
仕方なく身を翻し、襲ってくる凍気に向かってロングソードを立てる。
魔道具の限界まで魔力をつぎ込んで発生させた暴風は、なんとかブレスを散らし、周囲の木々を凍らせるだけに済んだ。
不思議なことに、眩暈のひとつもなかったが、気にしてはいられない。
「早く体勢を立て直せ! お前の盾に付与をかける!」
「は、はい!」
「ラカンドは数秒アレを抑えてくれ! できるだろ!」
「数秒ならね!」
もたつきながらも起き上がったユミナの大盾に、風魔『リフレクション』をエンチャントする。
当然魔力は枯渇し、吐血するが、もはや慣れたものだ。
「ごふっ・・はぁ、これで・・ブレスを反射できる・・」
「コザトさん!?」
「いいから行け! ラカンドが死ぬぞ!」
色とりどりの光を帯ながら、木々伝いに3次元機動を行っているラカンドは、すでに限界が見え始めている。
魔術の多重起動による疲労に、防ぎきれないブレスが追加されているのだから、当然だ。
「ハァ!」
ラカンドが地面に戻ったタイミングに合わせて、ユミナは大盾をかざし、迫り来るブレスを拡散させる。本来の反射はできていないが、直撃を防げるだけで上々だ。
「なんとか・・耐えたよー」
「この盾、すごいです! でも、決定力がないと押しきられますよ!」
「・・ふぅ、分かってる。俺が殺る」
向こうに持っていかれなかった魔力を絞り出し、全身の装備に通す。
直剣は豪風を纏い、レギンスは茜色に輝く。ブーツからは不可視の翼が生え、スケイルメイルは柔軟性を増した。
そして、剣の豪風で、自らの手首を切り裂く。
風に乗った鮮血は宙を舞うことなく、俺の体全体に網目のように広がり、包み込んだ。
「フゥ・・ハァァ!!」
ユミナがブレスを防いだ隙に、大地を蹴る。
一陣の風となった俺は、空から見下していた竜種と真正面から向き合った。
「叩き落としてやるよ、トカゲェ!!」
「グワァァ!」
静かな森に俺とワイバーンの叫びが響き渡り、紅の滴を周囲に撒き散らす。
風に乗った俺の高速連撃を、奴は頑丈な爪でいなし、反撃の牙を突き立ててくる。
しかし、所詮は最弱の竜種。
俺の剣は容易に皮膚を貫き、増幅された身体能力によって、それを深々と突き刺す。
内側から風が肉を引き裂き、半ば破裂するようにして、フロストワイバーンはその命を散らした。
「まだ足りない! あのお方に血を捧げるのだ!」
全身から魔力を滾らせ、俺は更に森の奥へと飛翔した。
呆気にとられるユミナとラカンド、そして池のように流れ出て、その場に溜まったままの、飛竜のものではない大量の血液を残して。




