目覚め
青い空を燦燦と照らす太陽、頬に触れる暖かなそよ風、背中に感じる傾いた地面、全身をくすぐる草花。
間違いなく、俺は生きている。
さっきの夢は何だったのか、とか、ここはいったいどこなんだ、とか、本当に生きているのか、とか、頭には次々疑問が浮かんでくる。ふと、さっきの夢を思い出し、少し勇気を出してから、
「ここ、どこだよ」
声を発する。問題なく音は発せられ、耳に届いた。
さっきのは夢・・でも、寝る前のことが思い出せない。なにしてたんだったかな・・
起き上がって周囲を確認すると、どうやらここは山の中腹らしい。道理で背中に感じる地面が斜めってるわけだよ。
服は学校の制服で、下は運動靴。こんな格好で寝るとも思えないし、事故にでもあったのかな?
その思考に至っても、やはり恐怖や後悔の念は浮かんでこない。それどころか前世?のことの大半を忘れてしまったみたいで、困ったことにほとんど思い出せることはない。
「喉、乾いたな」
炎天下というほどではないにしろ、日差しを直に浴びるここは割と暑い。とりあえず水を見つけて、喉の渇きを癒し、これからのこととかはそれから考えよう。
特にアテもなく歩くわけだけれども、幸いそんなに高い山ではなさそうだし、下っていけば何とかなると思う。
ーーーーー
少し下っていくと、泉のようなところに出た。やはり行き当たりばったりでも案外なんとかなるものだ。
とりあえず、手ですくってがぶがぶ行く。腹壊したらどうしようとかも、飲み始めてから思ったが、まあ何とかなると思う。
水がうまいと感じたのはいつぶりだろうか。記憶がほぼないからわからないが。
しばらくその泉のそばで思考を巡らせる。
ここは、遠い異国か異世界かのどちらかじゃないだろうか。ここに来るまでに見た木の中に、明らかに見たことのないものがあった。あまり植物には詳しくないが、昼間から七色に葉っぱを染める木はさすがに日本にはないだろう。
すると、転生だろうか。
少しワクワクする。魔法とか、使ってみたい。
いろいろ考えながら、ボーっとしていると、誰かが泉に近づいてきて、
「おや? こんなところに人がいるなんて・・どうされましたか?」
話し掛けられた。
明らかに日本語ではない。でも、意味が分かる。異世界というのは確定的みたいだ。
「あ、ええと・・道に迷ってしまって・・」
「!?」
意味が分かるから伝わると思って、日本語で話してしまったのだが・・不味かっただろうか。
少しひやひやしながら、男の人の言葉を待っていると、
「なるほど、日本人ですか。あなたも転生なされたんですか?」
「そうみたいですね・・『も』ということは、あなたも?」
「ええ。ああ、自己紹介がまだでしたね。私はユウト。向こうでの名前は、前川悠人です」
流暢な日本語が返ってきた。
どうやら、俺以外にも転生者がいるみたいで、少し安心した。
「俺は、秋田小里って言います。なんか、女っぽい名前ですけど、この通り男です」
「コザトさんですか。よろしくお願いします」
「こちらこそ。わからないことが多いので、いろいろ教えていただけるとありがたいです。」
右も左もわからないなか、同郷の人がいるのはありがたい。迷惑でなければ、しばらくお世話になりたいと思う。
「立ち話もなんですから、うちに来てください。すぐ近くなので」
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ユウトさんの家は、泉から少し歩いたところにあった。森が開けており、ちょっとした広場のような感じだ。
「日本の家と比べれば、粗末なところですが」
「いえ、立派ですね。お一人で作られたんですか?」
「そんなまさか。知り合いの大工に手伝ってもらったんですよ」
ユウトさんの家は、丸太を組み合わせたロッジのようで、かなりの大きさがあった。
「今、お茶をいれますね」
「ありがとうございます」
内装も質素ではあるが、一つ一つの家具に手がかかっていることを感じさせる、暖かなものだった。
「なにもわからず、不安だったでしょう。どうぞ、なんでも質問してください。基本的には答えられると思いますよ」
ユウトさんには申し訳ないけど、これから質問攻めを開始したいと思う。