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 それでもダニエラの説明は続く。


「私の予想では、いまデビューすれば、少なくとも二〇年連続で、『恋人にしたい女優ランキングNo.1』、『奥さんにしたい女優ランキングNo.1』、『お母さんになってほしい女優ランキングNo.1』『一生一緒にいてくれやランキングNo.1』は堅いですわね」


 D●Hかな?


「だからこそ、一日も早く引退なさって、アイドルになるべきお方なんですのっ!」


 そう言うと、後ろの取り巻きたちも「「「「おぉー!」」」」と拳を上げて叫ぶ。

 さらに、赤面して小さくなるガブリエラに、「うるせぇこの裏切りモンどもがぁ」と、怒鳴るマクベ。

 ……裏切ってんのかなー。


「愛されてんじゃん」

「そのとおりですわっ。ご理解いただけたならさあこちらに!」


 いや、行かんけども。


「だからっつって、試合の外でも妨害していいわけねえだろ! なあガブ!」

「そう、ですね」

 すこしだけガブリエラが赤面から回復する。

「あら、そんな事ありましたかしらぁ?」

 ダニエラは髪をかきあげながら白々しくとぼける。

「私は、覚えているから」

 と、ガブリエラは苦い顔をする。「先週、マッサージを受けている最中にあなた、こっそりと私の爪に猫ちゃん柄のマニキュアを塗ったでしょ」


 ……ん?


「剥がれるのが怖くて、しばらく試合で、投げ技と関節技を使えなかったわ」


 ……んん?


「この前は外食先で、ご飯に何かを混ぜ込んだわね」


 毒物っ!?


「飲み物をのんだあと、口からナッツ臭がしたわ」


 青酸カリ!?


「翌日、ちょっと肌がきれいになってた」


 ……ココナッツオイルかな。


「今朝は、宿舎から出た直後に、得体のしれない液体が入った水風船を投げつけられ、今日一日、肌がこんなにツヤツヤのもち肌に……」


 ……たぶんそれ美容液だわ。

 クラウディアは渡されたボトルを見下ろす。

 さきほどダニエラが言っていた試験の合格とは、姉の肌に対しての結果のことだろう。


「試合後の汗のせいかと思ったけど、どうりで今日のあんたの肌、べらぼうに調子良さそうだと思ったわ。昨日見た顔の擦り傷だって、すっかり消えてなくなってるし」

「あああっ! やっぱり気づかれてしまった!」


 いや、どこにショックを受けているのか。

 そのへんもふくめて説明してくれ。


「お姉様ったら、いつもご自分の美しさをおろそかになさるのよ?」


 ダメでしょ? と、目で同意を求められてもなぁ……。


「だからこそわたくし、今週末のメインイベントをこころから楽しみにしてますの。賭けたそのベルト……よりも、レスラー、ガブリエラ=コートのプロレス人生、どちらもきれいに刈り取ってみせますの」

「そうは……させない」

「んふふ、崇高な目標のためにはわたくし手段は選びませんの。それではまた、会場でお会いしましょう。アディオス♪」


 そう言い残して、ダニエラは去っていく。

「……私も帰るわ」

「あたしもー」

 珍しくニジミも同意した。


「ああっ、待ってください!」

「いやもう好きにしたらいいでしょ。美人レスラーになりなさいな」

「バカか、ガブの困ってんのはそこじゃねえよ!」

 話は最後まで聞け、と怒鳴られる。

 いつも話の途中で口出ししてきそうな人間に言われるのは少々(しゃく)だが、正論である。


「ちゃんと理解できる理由だったら聞いてあげる。けど理解できなかったらすぐ帰るからね?」そう言って釘を刺す。

「私は、根性のぶつかり合いをするプロレスを守りたいんです」

「ああ、そっちの理由はついていけそうだわ」

 クラウディアは正直な感想を述べた。

 だろ、という顔をして、マクベも語る。

「プロレスに大事なのは根性と技と筋肉。心技体だ。だがいちばんはやっぱり根性だな。アイツラにはそれがねえ。チャラチャラしたプロレスばっかりしやがる。品もねぇ」

「その……しゅきしゅきもにょもにょはともかく、『堕天使隊ラス・エンヘル・カイド』人気は、プロレスの真剣勝負が薄れてしまう危険があり。なんとか食い止めなければ行けないと思ってまして」

「試合中の反則に歓声が上がるとかおかしいんだよ。もちろん醍醐味でもあるけどな、それがデフォルトのプロレスってのが気に食わねえんだ」


 そりゃあスポーツマンシップに則ってないものね。

 プロレスにそんなものがあるのかどうかは知らないが。


「……そこで、今回の奉納試合です。じつは町のしきたりに沿って、引き分けになるのが暗黙のルールで、だからこそ互いの引退を賭けるという条件マッチを組めたのですが、私は今回、その禁を破るつもりです。おそらくダニエラもでしょう。だからこそ、勝って、あの子を引退させて、私はこの団体とプロレスを守りたいんです」


 よかった。

 こっちはまともな理由だった。


「だいたいおかしいじゃないですか、私が宇宙一のアイドルだのなんだのって」

「あ、あんたはそう思うんだ」

「ええ、宇宙一かわいいのはダニエラです」


 ……ん?


「堕天使なんてユニット名につけてますが、あの子こそ、この世に表れた最後の天使です。あっ、そうか現世に降り立ったという意味で堕天……っ! よかった。あの子は自分の魅力をきちんと理解していたようです。ねっ?」


 だから、その手の件で私に同意を求めんでくれ。


「もうそのへんのことは姉妹でやってて。んで、私らの契約の話をしたいのだけど、つまりは『無事に最終戦を迎えられるように、アイツラの妨害から守ってくれ』ってことでいい?」

 問うと、ガブリエラはコクリとうなずいた。

「先程もダニエラが口にしたように、場合によっては過激な手段を使ってくる可能性もありますので」

「了解。あとは報酬だけど、ちゃんと払ってくれるのよね?」

「最終戦で私が勝ったときに、一千万ユニをお支払いします」


 ぜったい引き受けようと、クラウディアは内心即決した。


「ふぅん。まあ、さすが、全惑星有数団体のトップ選手ね。そうね、まあ、悪くはないわ」


 努めて冷静に、興奮が顔に出ないように意識する。

 ……が、クラウディアはこの惑星に来ていちばん興奮していたのはまちがいない。

 この私に、カネの雨が降るぞぉー!!

 クラウディアは両手を広げて天を仰ぎ、雨を浴びるようなポーズを繰り返した。


「ふ……ふふふふ……」

「あの、クラウディアさん?」

「あ、いえ、なんでもないわ。ところで集中できたらあんたは勝てるのね?」

「やる前に負ける事を考えるバカじゃありません。勝ちます」


 よし、これでレストランのツケも、宇宙船の燃料代もまかなえる!


「引き受けていただけますか?」

「ええ。あなたにとって大切な信念と、この団体のためを思ってがんばろうとするわけでしょ。それは人として引き受けないと恥ずかしいわね」

「クラウのおめめ、お金マークだ」


 横からニジミがいらんツッコミを入れてきた。


「まあ大船に乗ったつもりでいて。なんなら多少の闇討ちくらいはやるわよ」

「いえ……さすがにそれは」

「オメェ、昨日からつくづく思ったけど、根っからの悪役ヒールだな」

「だからクラウはあたまいいぶん、せーかくが──ぐぎゃぁぁぁぁ!」

「いいからあんたは黙ってなさい」

 クラウディアの指がニジミの顔面にめり込んだ。

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