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やってきたのは、最後の試合でガブリエラたちと戦ったチームのリーダーであり、ガブリエラの妹、ダニエラ=コートだった。
彼女もこの団体の人気選手のようで、試合中の歓声はガブリエラよりも多かった。
その理由は、彼女がうしろには連れ立つ選手の多さとその見た目が、言外に匂わせていた。
メンバー全員の容姿レベルがかなり高い。
マスクをかぶっている選手もいたが、隙間からのぞくパーツと輪郭で、容易に美人だなと想像できた。そしてまた、全員の体型も背丈の大小はあれど、ひきしまった筋肉にうっすらのせた脂肪が、厚みと絶妙な色っぽさを作り出していた。この日うらぎったメンバーも、並んでみるとビジュアル的にはダニエラ側にいたほうがしっくりきてる。……ガブリエラには申し訳ないが。
ダニエラはズケズケと控室に入ってきて、室内を見回す。
「いいですわねー、聖鬼軍さまは控室が広くて。わたくしたちってば、今日もまたひとり大事な仲間が増えてしまいまして、控室が手狭になってきましたの。そうですわ、近々ここを使うのもいいですわねえ」
わかりやすい挑発だった。
「ンだとぉ?」
そんな挑発に反応するのは、もちろんゴリラことマクベ。
「んだとぉ~?」
……と、ウチの三歳児。
「マクベさん、落ち着いて」
「あんたも落ち着きなさい」
ガブリエラとクラウディアは、たがいに相方を制する。
「あら、そちらはお姉さまのお友達かしら? いかがでしたか。私たち『堕天使隊』の強さと美しさに満ち満ちた試合は、楽しんでいただけましたでしょうか? そうですわ、お近づきのしるしにこれを」
渡されたのは中身の入ったプラスチックボトル。
「これは?」
「特製の美容液ですわ」
「……はぁ」
「我々のユニットである、『堕天使隊』は、強さとおなじくらいに、女性の美しさ、可愛らしさ、愛らしさをモットーとしておりますの。プロレスも変わっていかなくてはいけませんからね。ああ、ご安心を。敵対するお姉さまのお友達だからといって、変なものを渡したりはしませんので。その美容液の効果は、今朝の最終試験を合格した、最新のものですから。効果もばっちり、保証しますので、ぜひ、お試しくださいな。うふふ」
区切りを入れて強調する話し方のダニエラ。
「ああそうですわ、せっかくだから貴女たちも、わたくし達の応援に回りませんこと?」
「は?」「ほへ?」「……」「てめぇ」
それぞれのリアクションを無視してダニエラは説明を続ける。
「お姉様のお友達ということは、お姉様の魅力を分かっている人間でしょう? だとしたら、わたくし達を応援なさいな」
「どういうこと?」
言ってる意味がわからない。
「ダニエラ、その人達はあなたたちから私の護衛をしてくれる人たちよ」
「なっ!?」
「まだ決まったわけじゃないけどね」
「この……お姉様の尊さがわからないクソ愚か者がっ!」
……え?
なんで私、怒られた?
「ごめん、ちょっと説明不足なところが多すぎて。イチから説明してくれるとありがたいんだけど」
「ふぅ、仕方がありませんわね」
と、ダニエラがため息をひとつ吐く。「我々、『堕天使隊』、またの名を『ガブリエラお姉様しゅきしゅき大しゅき、銀河ナンバーワンアイドルにまで押し上げ隊☆』と申しまして──」
恥ずっ!
見ればガブリエラも申し訳無さそうに赤面して、体を小さくしている。
「目的は、お姉様を全宇宙一の女神にすること。ここに尽きますわ。俳優、歌手、タレント、モデルはもちろん、やはり愛され尊みアイドルとして全人類から崇拝されるために、我々は命をかけ、心血を注いで、サポートするっ。そんな完全無欠の親衛隊ですわ!」
やばい。
もっと意味がわからない。