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「まさか、こんな仕事だなんて……」


 憂鬱なため息を漏らしながら、四角く区切られた場所の中で、クラウディアはタイマーをセットした。今日で何人目だろうか。そしてこの町はよっぽどコレが好きらしい。しかも今回の相手は女性ときた。

 男相手よりはまだマシか。

 相手をする女性はすこしはなれた場所で立ったまま、いつでも飛び込めるように荒い鼻息を立てて、クラウディアを睨んでいる。今日こそは、今日こそは……と、ぶつぶつつぶやいていて、そこは少々怖さもあった。


「はい、こっちはいつでもいいわよ」

「早く始めなさいっ」

「はいはい」


 かたやもう一方の場所では──


「んしょ、んしょ」


 ニジミがまったく同じ形で区切られた四角いエリアの中で、柔軟運動をしていた。ニジミの相手は大柄の男。はじめはメリカも心配して断ろうとしたが、ニジミがOKを出したので、こうして向かい合っている。


「こっちもいいよー」

 ニジミは、はなれた場所にいるメリカに声をかける。

「それじゃあいくわよー!」


 メリカが合図を出すと、彼女たちを囲んで見上げる群衆が声を上げた。


 そして、

 カァァァァン! 

 試合開始のゴングが鳴った。



「痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!」

 バンバンバンバンバンっ!

 関節技を極められて、挑戦者の女はあっさりとリングのマットを叩く──。

「……もうちょっとくらいがんばりなさいよ」

 クラウディアは多少の弾力があるマットの上で、つまらなそうに技を解いた。



「ぐふおぇっ!」

 ニジミの繰り出したドロップキックでコーナーマットまで吹っ飛ばされ、大男はそのまま動かなくなった。

「あれれ……」

 ニジミは三本のロープで囲まれた四角いリングの上で、バツのわるそうな顔をした。

 どちらもほんの数秒間の出来事だった。



 メリカの経営するレストラン『プロレスディッシュ』の地下一階では、毎日挑戦者を募って、夕方の素人プロレスが催されていた。

 クラウディアとニジミがリングに立ってたった二日。

 町全体にはこんなウワサが流れはじめる。


 ──プロレスディッシュのリングの上には、大小の鬼が二匹、棲んでいる──


 当の鬼たちの耳に、この噂はまだ届いていない。



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