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「ってなわけで弱っちいあんたとのコンビは解散」

「りがいのいっちで、あたしはこっちと手をくむよー☆」


 見上げるガブリエラとダニエラ。

 まだ状況を把握できていないのか、口を半開きに、目が点になっていた。

 ……もうちょい煽るか。

 わざとニタっとした笑みを浮かべて、ニジミに肘で合図する。

 それを受けてニジミはマイクを両手で持って


「あのね、いらいのほーしゅーよりも、ここで勝ってうばった土地を売ったほうが、おかねになるってクラウが言ったんだ」


 おいコラ。

 しれっと人の入れ知恵みたいに言いやがって。

 ニジミのマイクは終わらない。


「それに、ほんとうのこと言うと、ガブちゃんとダニエラさんあいてならとってもラクに勝てる。……って、これもクラウが言ってた」


 ゆーとらん、ゆーとらん。

 こいつ、からっぽの頭でけっこう煽るな。すべてニジミのアドリブだ。


 会場の空気が、──

 こちらを見る観客の視線が、──


 ──黒く淀んでいくのを感じる。


 もうちらほらとヤジを飛ばしたり言い返したりしている客もいる。

 クラウディアも最後にもういっちょと、ダメ押しの挑発を送る。


「有名なのかどうか知らないけれど、所詮は私ら助っ人頼みの弱小団体だったからさぁ。その長がなんぼのもんじゃいってわけ。姉妹喧嘩に付き合ってるのもアホらしいし、それにこんなに簡単にこの土地の支配権をいただけるチャンスがあるなら、利用しない手はないんじゃない? そもそも、こーんなお遊戯みたいなショーに湧く原始人が住民なら、支配も容易そうだもの」そう言うとクラウディアはすぅと息を吸った。「私たちは、ここにいるあんたたち全員と、レぇぇぇベルが違うのよ!」


 そう叫ぶと、

「クラウディア! ニジミ! テメェらこのやろう!」

 と、マスク越しでも怒り心頭と分かるマクベがリングに上がろうとする。

 しかしそれを制したのはガブリエラだった。

「……マクベさん、どいて」

 そう言って、静かに据わった目をして上がってくる。

 ダニエラも同じ方向からリングに上がって、ふたりが赤コーナー側に立つ。

 マイクをよこせと身振りをしてきたので、投げてやる。


「クラウディアさん、なに勝手にわけ分かんないことを言ってるんですか?」

「あら、理解が及ばない?」

「乱入して、そんな意味不明な条件が、成立するわけ無いでしょ?」

「じゃあ成立させればいいのね」

 

 クラウディアがニジミに目配せすると、ニジミはリング外に降りて、客席からふたりの老女の手を引いてリングに戻ってくる。

 その顔を見て、ガブリエラとダニエラの姉妹は、


「お祖母ちゃんと大叔母ちゃん!」

「お祖母さまに大叔母さま!」

 と、目を丸く見開いた。


「あのね、つい先日、私たちのこのひとの護送と護衛依頼を受けたんだけどさ、あとで振り込まれたお金が全然足りてなかったのよね」


 クラウディアがはじめてガブリエラを見たときに抱いた既視感は、送迎時に彼女たちの血縁にあたる、この老女を見ていたからだった。

 こちらの老姉妹はこの奉納試合に合わせて、別々に星間移動と護衛を依頼していた。ニジミが間違えたのは、偶然、同時期に同じ惑星で依頼を出していた妹の方をみつけたためだった。

 名字が変わっていたため、クラウディアも姉妹がいるとは知らなかった。

 調査して、ニジミをダニエラの元へ送り込み、確証を得た上で、クラウディアは前哨戦のあとで彼女たちと連絡を取り、契約書をハッキングで書き換えて、赤字分の補填を要請した。


「だからね、足りない分をどうしようかって言ったときに、姉の彼女が申し出てくれたの」

「彼女の肩代わりをすると、ここに一筆書いたのよ」


 答えたのは老姉妹の姉にあたる人物であり、ガブリエラたちの大叔母で、この団体の裏のオーナーの老女。急な展開に、会場のざわめきはやまない。

 この老姉妹も元・プロレスラーだけあり、昔とった杵柄、外野の雰囲気にいっさい動じる素振りもなく、ハキハキした声をマイクに乗せる。


「ここに土地の独立証明書類があります。私は、過去のこの土地の代表であり、この団体の責任を持つものとしてこの土地の所有権を有し、そして本日、その所有権を奉納試合の勝者に譲る念書も添えて、この試合の勝者に譲渡いたします」


 そして隣に立つ、ガブリエラの祖父母にあたる妹にマイクを渡し、彼女も通る声で孫たちに言った。


「私のヘマを取り返してほしいと頼むのは情けないですが、貴女たちは我がコート家の自慢です。この土地とリングに土足で上がる、浅ましい外敵を駆除して、私たちの誇りを守りなさい!」


 そう発すると、会場からは自然と、しかし一気に、彼女たちの家名である『コート』のコールが沸き起こった。


 プロレスファンとは、じつに訓練された生き物である。

 良くも悪くも、おもしろい流れと見れば瞬時に満場一致で可決させてしまう。

 まったくもって計画通りに転がっていくわ、とクラウディアは思った。


《なんという急転直下。途方も無い要求が、あっという間に正式な条件に、土地の運命を左右するビッグマッチに変わってしまったぁ! これにどう対応するんだ、コート姉妹っ!》


 その降りそそぐコールの中で、姉のガブリエラと妹のダニエラが、お互いに視線をぶつけ合う。


「私たちで、この土地とこのリングを守る」

「向こうが利害の一致のタッグなら、私達も利害の一致のタッグ。ですわね?」


 ふたりの握手で、会場には大爆発にも似た歓声が起こった。


《お聞きください。応援の数は100:0、土地を守るものと奪うものの数は、14,002 vs 2だ! その圧倒的な数の観衆を引き連れて独立維持に導くは、この土地の戦女神たちっ、姉のガブリエラ=コートと妹のダニエラ=コートです!》


 老姉妹はリングの外に出て、リングの中はレフェリー、クラウディアとニジミ、そしてガブリエラとダニエラの五人だけとなる。


《リング上、不敵な笑みを浮かべる美女。元・雨雲仮面はクラウディアと呼ばれていました。そして純朴な笑顔の子悪魔。元・キューティーレインボーはニジミ。彼女たちは本当にコート姉妹を倒して、この土地の支配者になってしまうのか……》


「どう? このシチュエーションもプロレスしてない?」と、クラウディア。

「悔しいけれど、この流れは満点ですね」と、ガブリエラ。

「あたし、本気でいくからねー」と、ニジミ。

「貴女の速度、いちど体験してみたかったんですの」

 と、ダニエラ。「さあレフェリーさん! 害虫駆除の時間です。早くゴングを鳴らしなさいっ」


 ダニエラの声に促され、レフェリーが腕を大きく上げて、


 ──ファイッ!──


 この日鳴らされた一回だけのゴングの音色は、一瞬で観衆の応援でかき消された。


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