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控室に戻り、マスクを脱ぐ。
「いちちちちちっ。あのバカ、ちったぁ加減しなさいっての」
コスチュームの下を見れば、チョップの張り合いで胸元が充血し、腫れて真っ赤になっていた。やけどのようなひりひり感は、布が擦れるたびに痛んでわずらわしい。氷嚢を押し当てると、じょじょに痛みはやわらいでいくが、皮膚のしたに残る痺れに似た煩わしさだけは、もうしばらく続きそうである。
「オメェ体力あるな」
マクベが代わりの氷をもってくる。「もう息が戻ってんじゃねえか」
「出てた時間が短いもの」
試合の大半を請け負ったガブリエラは、まだ息も絶え絶えだ。
ベンチの上で横になったまま目を閉じて、体中を冷やしながら天を仰いでいる。立ち上がるのすらもうしばらく無理だろう。
クラウディアは溶けた氷嚢の中身を頭からかぶる。そして氷を入れ替えて、氷嚢で患部を冷やしながら着替えて、控室のドアに手をかける。
「契約は完了したわ。それじゃあ最終戦がんばってね」
「おい、まだアイツラがなにかしてくるかもしれねえだろ」
「約束したもの。しないわよ」
そう告げて廊下を抜けると会場をあとにする。
完全に日が落ちて、涼風がそよぐ会場の裏側で、
「クーラウ♪」ニジミがいつもの服装で声をかけてきた。
「聞いてきた?」クラウディアが問うと、
「バッチリ☆」
ニジミは白い歯を見せて、指で輪を作ってみせた。
「じゃあ帰りながら聞くわ。……だけどその前に」
クラウディアがニジミの肩に腕をかけて、そのまま彼女の額に右手を添えて──
「いだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ」
「だーれーがー試合に出ていいって言った? あまつにゃ私にケンカ売るとはいい度胸してんじゃないの!」
「いだだだだだだっ! こめかみッ、あ、いまアタマの中でパキって音がした!」
ニジミはクラウディアの腕をバンバン叩いてタップする。
……さあて、もうひと仕事といきますか。
クラウディアは端末から通信を、ある人物へと送った。