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翌日からガブリエラの護衛をすることになったわけなのだが……。
ジムの練習場、ウエイトトレーニングベンチに腰掛けながら、クラウディアがぼやく。
「よーく動くわね、あんたら」
リングの上ではガブリエラと、なぜかニジミも一緒になってトレーニングメニューをこなしている。宇宙船のなかで、いつも走ったりサンドバックを叩いてるニジミも、ガブリエラのトレーニングにはやや息が上がるようで、時間の長さだけでなく、強度の高さもあるのが分かる。
「ガブちゃん、体おっきいのに速いし、体力もあるんだねー」
ニジミに言われて、
「そりゃあプロですから」
と、ガブリエラはふふんと鼻を鳴らす。「でもニジミちゃんも体力ありますね。ほとんど汗をかいてない」
「そりゃあプロですから」
こっちも鼻を鳴らして、無い胸を張る。
「用心棒稼業も体力勝負だからね」
と、クラウディアも乗じる。「とはいえ、あなた達みたいに長時間も、投げたり投げられたりするなんてことはないけれど」
「私たちの試合は意地の張り合いですからね。ビッグマッチになると、どちらも引かずに、シングル、タッグ、どちらも三〇分、ときには一時間近くやってようやく決着ということもあります」
「うげぇ」
クラウディアが舌を出して苦い顔をする。
「お金払って観にきてくれたお客様は、試合を楽しみに会場にきてくれるんですから」
「そりゃそうだけど」
「しかも飽きさせない試合をしなきゃいけないわけですから、一時間省エネで動いてたらいいって話じゃないんですよね。感動してお家に帰ってもらわなきゃいけないんです。だからやっぱり、どこも手は抜けません」
そう言って、ガブリエラは力こぶをつくる。
「私にゃあその感覚はわかんないわ」
クラウディアは肩をすくめた。
「ところでさ」
と、ニジミが訊ねる。「マクちゃんは? おやすみ?」
「マクベさんは午前中は病院でメディカルチェックの予定です。あとで合流すると思いますよ。さて、クラウディアさん、すこしタッグ用の連携技を手伝っていただきたいんですが」
「横にいる子に言ってちょうだい」
アゴでニジミを指すと、
「うん、やるよやるよーっ」
と、ニジミが両手を上げてジャンプして答える。
「あー、その、マクベさんと同じくらいの身長がないと、本番でズレてしまうので……」
「それじゃああたしはダメだね。クラウの出番だ」
試合に集中させるという契約だし、まあ仕方がない。
「サービス料に上乗せだからね。あと、そんな難しいことはできないわよ?」
クラウディアがベンチから腰を上げる。
「大丈夫です。肩車の要領でこの人形を持ち上げていだだければ。私がそこにトップコーナーから攻撃しますから」
言われるまま、けっきょく夕方まで彼女の練習につきあわされるのだった。