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プロローグ 始まりの出会い

今度こそエタらない

『勇者よ、目覚めの時です。今一度彼の地に降り立ち、世界から絶望を払う希望となるのです』


 透き通る声が耳を通り、頭にまで響いて来る。


 開いた視界に映された光景を見るに、その声は俺ではなく、俺の幼馴染の黒髪ショートヘアの式乃(しきの)に掛けられているようだけど、これはどういう状況なんだろうか?


 背から六対十二枚の純白の翼を生やした、女神のように美しい薄衣の女性に真剣な表情を向けられる友人の姿を見て、疑問に思う。


 と、そんな思いが外に出たのか、二人の視線が急に向けられた。いきなりのことに俺は驚き、数瞬固まる。


『――あら?貴方一体どなたかしら?』

「えっ?御影(みかげ)君、なんでここに居るの?」


 だが、脳裏に直接響くかのような女神様の声と幼馴染の少女の耳障りの良い声を聞き、すぐに我を取り戻す。


 動揺を押し隠しつつも俺は答え、そのまま質問を返した。


「…いや、知らない。ここはどこなんだ?式乃」


 まずは現状把握、記憶を探ってもここに来る前後の時系列は、ただ少し入り組んだいつもの帰宅路を辿って下校していただけ、そこから今の状況が窺えない以上、せめて場所だけでも把握したい。


『勇者よ、彼は知り合いなのですか?』

「うん、そうだよ。彼は御影 絶華(ゼッカ)、僕の数少ない友達の一人で信頼できる人だよ。…それで御影君、ここはこの女神様の領域で、正確な場所は定められてないんだ。だから、どこって質問には答えられないかな?」


 聞いていた心音に嘘を吐くとき特有の乱れはない。だからこそ俺は、疑問に首を傾げた。


 それを見て苦笑する式乃の姿にさらに首を傾げる。


 座標的にはどこにもない固有の空間ってことなんだろうけど、どうにも受け入れられない。過去に身を置いていた組織によって、魔法の存在とそのある程度の知識を知るだけにその思いは一入(ひとしお)だ。


「まあ、あんまり理解する必要はないよ。普通の人である限り、固有結界とは無縁だから」

『紛れ込んだのか、無意識のうちに入ってしまったのかは知りませんが、私の領域に入って平気な人が普通の人と言えるのかは知りませんがね』

「…あはは、確かにそれはそうかも知れない」


 女神様の鋭い指摘に苦笑いを浮かべて顔を痙攣らせる式乃、否定するには余程な事態なのか、正直過ぎる女神様にそうするしかないようだ。


 まあ、俺にはその意味はいまいち分からない。さすがに情報不足だ。


 …とはいえ、女神様に一つ同意出来る事がある。


 だって、2メートルは離れたところから話している相手の心音を正確に聞き分けて嘘を見抜き、一週間くらいの記憶なら米粒一つに至るまで詳細に思い出せる俺が、普通の人と言えるのだろうか?


『それで、どうしましょうか?』

「どうしましょうか?って、なに…あ、いや、そういえば、女神様ってこの空間丸ごと向こうの世界に飛ばしてるんだっけ?だから御影君が入っちゃったからどうしようって?」

『ええ、領域を一度解除しても良いんですが、それだと再展開までに最低でも一ヶ月は要するんですよ。向こうはあまり余裕のある状態じゃないので勇者にはさっさと向かって欲しいんですけど、だからって無関係な人を巻き込む訳には行けませんし、困ってしまいまして』


 そうやって俺が思考を巡らせているうちに女神様たちは本気で困った表情を浮かべて言葉を交わす。


 話を聞く限り、式乃を早急にどこかに送らないといけないがそれだと俺までついていってしまうみたいだ。だが、それを解決する為にはこの領域を一度解除しないといけず、再構築には時間が必要な為、転送先が一刻を争う今の状態では、二の足を踏んでいるらしい。


「精霊王様のだれかが協力してくれれば、ここから一度精霊界を経由して現世に戻れるだけど、今は闇の精霊王様以外、光の精霊王様も含めてみんな契約者を見つけて出払っちゃってるから…」

『ですけど、彼女(闇の精霊王)が協力してくれると思います?同格である光の精霊王ですら畏敬する稀代の傑物ですよ?』

「確かに…、なにか、御影君に闇の精霊王様が気にいる要素があればまだ希望はあるんだけど…」


 と、その時だった。




『あら、呼んだかしら?』




 俺の真後ろから壮絶な威圧感を伴って覇気の篭った、しかし鈴の音が鳴るような美しい女性の声が聞こえて来た。


 咄嗟に振り返ってバックステップ、右腕をポケットに突っ込み、右袖に仕込んだ小型ナイフでポケットの底を切って、右腿に括り付けて仕込んだ小太刀の柄に手をかけた。


『ふふっ、そんなに警戒しなくても良いのよ。私に敵対の意思はないから』


 そんな俺の視界に映るのは、夜の闇を切り取ったような艶やかな黒髪に、紫水晶(アメジスト)のような妖しい色合いを含む瞳を持った美の化身のような少女が余裕のある笑みを浮かべている光景、それは真っ白なこの空間において、絵になりながらも異質な光景だった。



お読み頂きありがとうございました。

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