その3 再開
ゴァーッ!
「エルダードラゴンです!逃げですよ!」
「おれにはこの対ドラゴン兵器が..」
「バカいいなさい!さっきの怪物なんか倒すまでに何回切りつけたとおもってるんですか⁉︎」
逃げる。
「アルス!可愛いウサギさんですよ!」
「それ首飛ばしてくる奴だァァ!近づくんじゃあねぇぇ!」
逃げる。
「重騎士の群れだぁぁ!」
更に逃げる。
「グルルル...(逃がさんお前だけは)」
「白虎に見つかりました..逃げられません」
「甘ぁぁぁぁぁい!」
「おれ達にはぁぁぁぁ!」
「”対戦車フルメタルボム”がぁぁぁぁ!」
「あるんだぞぉぉぉぉぉ!」
「「死にさらせぁぁぁぁぁ!」」
ドーン!ドーン!ドーン!
時々狩る。
ーーー
「ちかれた..」
「冗談じゃありませんよこれ...」
絶え間無い連戦で疲弊し切っていた。ダンジョンの進行状況は半分にさえ達していないのに対して、カバンの中身を見ても、潜入時の半分を超えるアイテムを消費してしまっている。
「あいつの有り難みがよくわかるよ...」
そんな二人に追い打ちをかけるように、また足音が聞こえてきた。
「おいおい、しかも心なしか別の方角からも聞こえた気が..」
「しかも..すごく邪悪な気を感じます」
不安は的中した。
前方からは瘴気を撒き散らす”巨人ゾンビ”が二体、
そして、後方からはその邪悪の発生源である、風の魔神”パズス”がアルスとシオンを捉えた。
「お伽話で見た事あるぞコイツ..」
「あのゾンビ一体に全滅させられたパーティも聞いた事ありますよ」
考え得る中でも最悪のサイドアタックだ。当然この中の一体も対処する術は無い上、包囲されている。
「最早これまでか、シオン、アレを」
「...」
「背に腹は変えられませんね...!」
ためらいを見せつつも、シオンは「最終手段」とする大呪文を詠唱する。その効力は、「あらかじめ設定したホームポイントへの移動」。迷宮からの離脱も兼ねるという事だけを述べれば非常に便利な呪文だが、次の一文を付け加えれば、この呪文の認識は180度変わるだろう。
・・・・
「移動するのは自身と対象の肉体のみ」
しかし、呪文が成立するよりも早く、二人は奇妙な空間に包まれた。周囲にバチバチと電流が走る。
「あっ...(察し)」
「キャストが..早い...」
空間は圧力を掛けられて徐々に縮小されてゆき、
それを解き放つように、中心から大爆発が起こった。
「のあぁぁあ!」
「ぐっ..!」
”パズス”は魔道を極めている有数の魔物。現時点のシオンでは周回遅れだ。
煙が晴れると、倒れ伏している二人の姿が見える。最早立ち上がる気力は無く、全滅まで秒読みの状態だ。
「死ななかっただけ....ラッ..キー...だ...が...」
「詰み....ですね...」
まだ”巨人ゾンビ”達の行動が終わっていない。その一匹が大きく息を吸い込んだ。
猛毒ブレスの構えだ。
悠然とそびえ立つ怪物を前にして、終末を悟るアルス。恐怖を誤魔化すためか、彼の腕を両手で力無く握るシオン。
しかしながら、ブレスは吐き出されず、そのまま動かなかったが、程なくして
巨人の首の上半分がスライドされていった。
「「!」」
それだけではない。胴体や脚部に至るまで「線」が入れられ、巨人は力加減を間違えたダルマ落としのように崩れ落ちていく。隣も同じだった。
そして振り返ると、一目散に逃げ去る魔神が見えた。
最初にここに突入した時を思い出した。おれはこんな芸当ができる奴を一人だけ知っている。
「すまない。元仲間なんだ。許してくれ」
「タロー...!」
おれ達は目的地に到着したらしい。玉座でなく、2Fで。
その3に続きます→