その2 いざ魔王城へ 1F
「これと、これも買って..と」
ハッキリ言って自分達の実力では、魔王城の怪物共には勝てない。だから今は、こうして城下町でのショッピングをしている。逃げる為のアイテムを主に据えて、時々迎撃手段も備えておく。
「アルスー!」
シオンも来た。彼女にも色々買い出しを頼んである。
「とりあえず揃えてきました」
「ひぃふぅみぃ..これくらいでいいかな」
ひとまず買い物は終わった。不十分だとは思うが、一応魔王城の構図はある程度マッピングしてはいる。通ってない部分もあるだろうが..
「行くか。シオン、アレを」
シオンはカバンから一つの笛を取り出した。たて笛のような形状だが、末端部分はドラゴンの首をかたどっている。
彼女はそれを吹くと、少し待ってから雄叫びが聞こえ、やがてそれは姿を現した。
ドラゴンは足を地につけると、こちらの方を向き、首を振って合図を出した。それを確認すると、アルスとシオンはドラゴンの背に乗り出した。
「魔王城まで頼む」
了承をしたのか、一声鳴くと、翼を振り始める。出発だ。
「待ってろよ...」
この遠征がどのような結末を迎えるのかは分からない。道中で敗走するのならともかく、本当にタローは魔王になったのか?あの時何を考えていたのか?もし彼が魔王で、邪悪な心に染まっていたら、おれは一体何をすれば良いのだろう。
「大丈夫?思い詰めてるようですけど」
「平気だよ」
「ボクだって不安ですよ」
「知らない方がいいじゃないか、知ってしまえば行き場の無い気持ちになるんじゃないかって」
「でも、3人だったあの時に戻りたいけど、対等な立場になりたい」
「もし戦うことになったとしても、あいつを倒せば、今以上になれると考えてます」
「戦いたいのか?」
「できれば避けたいです。競いあいたいという気持ちはありますけど」
彼女は妙にプライドの高い部分があり、今までパーティに貢献できていなかった事に負い目を感じている。おれもそう感じているが、彼女の方がちょっと強い。
「あっ、見えて来ましたよ!魔王城です!」
「気ィ引き締めていかなくてはならないな」
「ドラゴンさんその島で止めてください」
魔王城は厳しい山岳地帯の中央の窪みに構えられている。徒歩は勿論のこと、船での行き来は不可能だ。魔王城に向かうには、他にも気球なんてのもあるが、これは魔道士がいて且つそいつが魔道で風を操れなければロクに操作もできない代物だ。飛空艇?贅沢言うな。
ドラゴンが再び地に降り立つと結構な衝撃が襲った。文句を抑えつつ降りると竜は空に帰っていった。
「あいつも戦ってくれたらなー」
「バカ言ってください。あの子が倒れたらもう帰れませんよ」
「冗談だよ」
少し歩くと巨大な建造物が顕になった。上を眺めていると何かが飛来してくる。
「来たぞ!あいつは..」
キシャァーッ!
”氷鳥”だ。幸い1匹のみだが、厄介な能力がある。
「即死呪文です!気を強くもって!」
氷鳥からまがまがしい髑髏状のオーラがアルスへ放たれた。
「ぬッ...うぅ...!」
全身が冷たい感覚に覆われる。そしてそれは心臓部まで手が伸びるが、アルスはそう思わないようにする。
「フンッ!!」
なんとか払いのけた。これでも4割方死んじゃうんだよね。
「とりあえず”魔封じ”呪文です!」
「ッ!〜〜ッ!」
”魔封じ”も何とかヒット。おれはこれで削ろう。
「いかずちよ!いかずちよ!我が叫びを聞け!いかずちよ!」
”いかずちの杖”を振りかざすと、鳥の頭上にドーンと雷が落ちる。飛行物にはこいつは流石に効くだろう。
いかずちの杖も結構なレアアイテムだが、中には雷じゃなくてしょっぱい竜巻が出てくるようなパチモンもあるんだよなぁ。
「ふざけないでください」
「はーい」
その後二度程杖を使うとようやく落ちた。
鳥なんでおやつタイムといきたいが、真っ黒焦げでは加工出来ない。食べたいならば杖は1〜2発で済ませてあとは打撃などで倒したい所だが、当たんないんだよなこれが。
しかし、比較的ラクな魔物でも手順を間違えるか、運が悪ければ全滅も有り得るし、ここは室外だ。ましてや城内で何かと出くわそうものなら、確実に逃げ回らなければいけない。おれ達はそのレベルなのだ。
「入りますよ」
「ああ」
大きな城門を開くと、また巨大な廊下がこちらを迎えた。それだけで魔王はどのような怪物を飼い慣らしているかを伺い知る事ができる。そして二人の身体は城内へと完全に入り込んだ。背後に扉が閉まる音が聞こえる。
ここからが本当の地獄だ...
「9割方は逃げないといけない..」
「ですね」
アルスは”オートマッパー”を開いた。かつて通ったであろうルートが示される便利な機械だ。
「最初の階段は結構近いですね」
「..なんか唸り声がしない?」
「まさかいきなりですか?」
先を進むと巨大な多頭竜がたむろしているのが見えた。所謂八岐大蛇だとかヒュドラとか言われるアレだ。
怪物は二人を認識するなり襲いかかってきた!
にしては彼らの表情は涼しい。
「こんなヤツはねぇ、睡眠が効きやすい典型例なんですよッ!」
「そして”ドラゴンキラー”でメッタ斬りよォッ!」
「ヒャッハーッ!」
オロチだかヒドラだかをやっつけた!
「ビビらせやがって..」
「でもそれくらいの方がちょうど...」
シオンの声は鈍い音に遮られ、閉ざされた。
「え...」
シオンのお腹の所から尖ったモノが突き出ていた。それを辿って見ていくと、青い悪魔が顔を覗かせていた。上級のデーモンだ。
悪魔は爪を引き抜くと、彼女は倒れ伏した。そして悪魔は次の呪文を詠唱している。恐らく最上位の氷呪文。被弾すれば今度はアルスだ。
叫んでいる場合ではない。
「けむり玉ッ!」
アルスは白い玉を地に叩きつけると、その名の通り、すぐに白い煙が周囲に充満した。そしてシオンを抱え込み、この場から逃げ去った。
「(もっと!もっと遠くへ!)」
とにかくデーモンの視界から離れねば。何も考えずにアルスは走り続けた。
唸りが聞こえないとわかると、ひとまず危機は去ったと確信した。
「逃走は成功だな。他は祈るしかないが...」
「とりあえずハッパハッパハッパ!」
かばんをガサゴソと探しまくる。その姿はまるで慌てふためくネコ型ロボットのようだ。
「(あった!)」
葉っぱを手に取るとすぐにそれをすり潰し、シオンの口に与えた。
すると傷が塞がったのか、流血が止まり、目元も動き始めた。
「よかった...」
「ごめんなさい..ボクの注意不足で...」
「気にするな」
蘇生作用のあるすごい「葉っぱ」だが、一パーティにつき一枚しか採取ができない代物だ。なので、また先程のような事故が起こればリカバリーはもうできない。
「今の位置を確認しないと..」
再びオートマッパーを取り出した。
「意外と階段が近いぞ。怪我の功名ってやつだ」
「考えないで逃げたんですか?」
「うるせー!」
その後、二人は無事に階段に辿り着いた。しかしこれでゴールインではない。魔王城は広いのだ。
「強い奴きませんよーに!」
「先制攻撃されませんよーに」
二人は祈りながら駆け上がった。
その3に続きます➡︎