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8話 アンサラー

 ゾンビの大軍を相手し続けてかなり時間が経った。

 どれだけ倒してもネクロマンサーによって蘇生させられてしまい、勝利の兆しが見えない。 


 罠は承知の上で魔法を使ってしまおうか?

 地下墓地が崩落する危険性を承知の上で全力で攻撃してしまおうか?


 ついそのような思考が頭をよぎってしまう。

 それほどまでにこのままゾンビたちの相手をし続けるのは骨が折れることだ。


 シナアちゃんどこにいるの……。

 ネクロマンサーとの戦闘の前にシナアちゃんと別れたところを確認したけど、そこにはいなかった。

 隠れているように言ったからどこかに隠れているのだろうか。

 何にせよ無事でいてくれるならそれでいいのだが。


『集中しないとやられてしまうぞ? それとも降参するか? 降参するなら命は奪いはしないぞ、我の傀儡になってもらうがな!』

「あんたの傀儡になるくらいなら死を選ぶわよ!」

『まあ、死んでも構わんが、どちらにせよ我の傀儡になる運命からは逃れられないのだよ。我はネクロマンサーなのだからな。貴様に与えられた選択肢は生きて我に仕えるか、死んで我に仕えるかの二択だ。』


 確かに今のままじゃ遅かれ早かれあいつの従順な僕になる運命だろう。

 一旦態勢を整えるために逃げるという手段も考えられるが、次来るときに新しい罠が増やされてしまえば元も子もないし、こいつを野放しにすれば街にも相当な被害が出ることになるだろう。

 

 この場所から出さえすれば魔法だって使えるし、本気で攻撃できるのだが、誘導しようにもあいつがこの場所から離れる気配がない。

 当たり前といえば当たり前なんだけど。


 どうすればいいんだ。

 頭を働かせろ、今までの知識や経験を総動員して現状を打開できる策を考えるんだ。


 この部屋の天井を狙って攻撃すればこの部屋だけ崩落するのではないか。

 そうすればあいつはこの部屋から出てこざるを得ないはずだ。

 それに罠も破壊することができる。


 一つの策を思いつき天井に視線を向ける。


『この部屋の天井を狙っているのか?』

「……!?」

『まあ、この部屋から我を追い出すには一番良い策だろうからな。攻撃してみるがいい、対策などいくらでもできる。』


 どうやら天井には対策を施しているみたいだ。

 そうなるとこの部屋は堅牢な保護がなされているのだろう。

 床も、壁も対策されているに違いない。


 こうなってしまうと部屋をどうこうすることは得策ではないな。


 次の策を考えなければ。







 不思議な短剣を見つけことをご主人様に知らせないと。

 ご主人様と合流するため私は地下墓地を走っている。

 

 しばらく走るとさっきの祭壇の部屋に着いた。

 ご主人様はゾンビたちと戦っているみたいだ。

 でも、苦戦しているみたいで、思いつめた表情をしている。


「……ソレイユ。」

「ひゃぁ!? シナアちゃん!? 無事だったのね! どうしたの?」

「これ見つけた。」


 短剣をご主人様に手渡す。


「短剣? いや、ただの短剣じゃないみたいだね。凄い魔力を感じるよ!」

「じゃあソレイユにあげる。」

「ううん。この短剣はシナアちゃんが使って! 冒険者になっていつまでも丸腰っていうもの心もとないし、きっとその短剣もシナアちゃんに使ってもらいたいんだと思う。」


 ご主人様に短剣を手渡された。

 短剣が使って欲しいと思ってるなんてよく分からない感覚だけど、初めてこの短剣を手にしたとき頭の中に情報が流れてきたし相性は悪くないのかもしれない。


 大切にしようと心に決め、短剣をしっかりと握りしめる。


「シナアちゃん、私の後ろに隠れててね!」

「……わたしも戦う。冒険者だから。」

「……そう。じゃあ背中は任せるわね!」

「うん。」


 ご主人様と協力してゾンビを攻撃する。

 アンサラーという名の短剣はかなり長い期間保管されていたにも関わらずとても切れ味が良い。

 保存方法が優れていたのか、この短剣自体の能力かは分からないが。


 スパスパと敵を切り伏せていくが、次々とゾンビが押し寄せてくるため無駄な労力を使っている感覚に陥る。

 ご主人様が手こずるのにも納得だ。


 こういう場合は敵の親玉を倒すことが優先だと思うが、親玉であるネクロマンサーの周辺は屈強な体に武装を施したエリートゾンビによって警護されている。


 あの状態ではネクロマンサーの首を取る前にこちらが殺されてしまうだろう。


 結局状況を打開することができず、私とご主人様はゾンビから距離を取る。


『戦力が二人になったところで、我には勝てんよ。いいかげん諦めるのだな。』


 ネクロマンサーの言葉にご主人様は歯ぎしりをたてる。

 勝つ算段が思いつかないのだろう。

 

 このまま何もできないまま、おめおめと逃げ帰ることしかできないのだろうか。


 私たちの中に負けという感情が渦巻き始めたとき、私の握りしめるアンサラーから意思のようなものを感じた。


『この空間に張り巡らされた呪縛を切断しろ』


 と。


 どういう意味なのかよく分からなかったが、アンサラーの意思に呼応するように私の視界に今まで視えていなかったものが映りこんだ。


 これは攻撃魔法を感知すると発動するトラップのようだ。

 部屋の壁や床にいくつか設置されており透明化の魔法で見えないようにしてある。


 このトラップのせいでご主人様の魔法が縛られているんだ。


「ソレイユ。」

「どうしたのシナアちゃん。何かいいアイデアでも浮かんだ?」

「わたしがソレイユの魔法を使えるようにする。だから、ゾンビたちの注意を引いて。」

「えっ? それはどういう……」


 ご主人様の言葉を聞き終わる前に私は行動に移った。

 この部屋にあるトラップは5つ。


 まずは一番近くに設置してあったものにアンサラーを振り下ろす。

 いとも容易くトラップの無効化に成功し、改めてこの短剣の凄さを実感する。







 敵もいない空間に武器を振り下ろすシナアの不可解な行動を見てネクロマンサーは動揺していた。


『(あの獣人の小娘は何をしている……まさかトラップを破壊しているというのか? いや、あれは知覚できないように完璧に隠しているはずだぞ!?)』


 動揺するのも無理もなかった。

 トラップの隠匿に使われた魔法はかなり高度なものであり、視覚で見えないことはもちろん、仮にその場所を通過しても触覚が存在しない。

 言うなれば別の次元に隠してあるような状態だったのだ。


 完璧な隠匿方法をいとも容易く見破られたなど信じたくはなかったのだ。

 だから行動が後手に回ってしまった。


 シナアは二回三回と虚空を切りつける。

 ここまで来るとトラップの位置がばれているという事実を認めざるを得ない。


『この小娘がぁぁー!』


 シナアが4つ目のトラップを破壊した時、ついにネクロマンサーは動き出した。


 しかし、激昂したネクロマンサーの眼前を剣が通過していく。


「あんたの相手は私がするわ!」


 ソレイユが武器である剣をネクロマンサー目掛けて投げつけたのだ。

 否が応でもネクロマンサーの意識はソレイユに向いてしまう。

 この一瞬の時間があればシナアが最後のトラップを破壊するのには充分だった。


「ソレイユ、終わった。」

「ありがとう、シナアちゃん。これでお終いよネクロマンサー」

『神聖なる神々の息吹 ――セイクリッドデトネーション――』


 地下墓地全体を覆いつくすほどの輝きは瞬く間にゾンビたちを消散させ、


『グゥァァー! ……我が……こんなところで……負けるなど……ありえな……』


 最後の言葉を残したネクロマンサーも消し去った。


『ありがとう。私たちを解放してくれて。』

『感謝する、旅の者よ。』

『これで私たちも旅立つことができるわ。』


 そして、ネクロマンサーによりこの地に縛り付けられていた魂たちも新しい世界へと旅立っていった。


「依頼完了! シナアちゃんのお手柄ね!」

「魔物を倒したのはソレイユ。だからソレイユのおかげ。」

「ウフフ! じゃあ二人のお手柄ってことでいいわね! 異論は認めないわ!」


 こうして砂漠に眠る地下墓地での戦いは終わり、砂漠を脅かす脅威が一つ去ったのだった。

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