2話 運命の出会い
私は冒険者をやっているの。
数ヶ月前に今までの生活を投げ打ち、一念発起して冒険者になった。
周囲からは反対されたけどね。
それ以来、マイペースに一人で世界を巡っているの。
私が仕事にしている冒険者というのは、世界中に浸透している職業の一つで、基本的には人々からの依頼を達成することでお金を稼ぐことになってる。
依頼の内容はモンスターを倒すことや、ダンジョン探索など、とてもロマンがあるものが多いんだ!
だから冒険者は人気の職業なの。
そして冒険者は困ってる人の役にも立てる。
私にはそれがとても重要なポイントなの!
むしろ、それがしたいから前職を投げ出してきたと言っても過言じゃないわ。
困っている人を助けたとき、
「ありがとう」
って言われるのがとっても嬉しくって、冒険者やってて良かったって思えるんだ。
私の前職については……まあ……今は思い出したくないかな。
悪いところではなかったんだけどね。
何はともあれ私は冒険者なのだ。
冒険者は自由だ。
自分で好きに行動できる。
自由サイコー!
冒険者になった私はいろんな地域を巡って仕事をこなしてるんだけど、今回は砂漠都市ハトラーダって所に来てるの。
ハトラーダはとても規模の大きな街。
私たちの住む大陸の東南側に砂漠地帯があるんだけど、ハトラーダは砂漠地帯野中で一番大きい街らしいわ。
砂漠なんて来る機会がなかったから最近知ったんだけどね。
でも最近砂漠にある街々は治安が悪くなってと聞いてる。
もともと治安が凄く良いわけではないらしいんだけど。
今からおよそ20年前に魔物と呼ばれる生物が世界中に溢れ出した。
数千年ぶりの魔王の再臨が原因と言われてるわ。
その日を境に、世界中ではいろんな被害や問題が起こり続けていて、現在に至るまでの20年という歳月をかけて徐々に治安が悪くなってるんだと思う。
世界の情勢が悪くなると、火事場泥棒みたいなことをする輩も出てくる。
いわゆる盗賊団っていうろくでもない連中のことなんだけど、そんな盗賊団の捕縛依頼なんかも冒険者ならではの仕事と言えるかもね。
なぜ盗賊の捕縛に国の騎士が積極的に動かないかというと、彼らは自国の主要箇所周辺の警護で忙しいから。
主要箇所が魔物に攻撃されれば治安の悪さとか言ってられなくなるだろうから、しょうがないことなのかもしれないけどね。
騎士は良くも悪くも国を護ることが優先なの。
国が優先だから、盗賊に困る人まで手が回らなかったり、辺境の村には救助にもいかなかったりする。
だから、そういう事態にも機敏に対応できるのが冒険者の良いところだと個人的には思うんだよね。
まあ、治安を守っても大した稼ぎにならないことが多いからやりたがる冒険者って少ないんだけど。
それでも大事なことだと思う。
さっきからなぜこんなことを考えているかというとね、何か考えてないと退屈だしボーっとしちゃうから。
私は生まれて初めて砂漠に来たんだけど、ホントに暑いんだよね。
噂では聞いてたけど、ここまで熱いとは予想してなかった。
日焼けするし、今にも倒れそうなの。
ここは本当に人が住む場所なの?
と疑問に思っちゃうくらい私にはキツイ環境だわ。
砂漠に住んでる人には失礼だけどね。
でも、砂漠も悪いことばかりじゃないと思う。
さっきから街の人とすれ違うんだけど、砂漠の服ってなんか良いよね。
独特のデザインで!
本当にカワイイよね、ターバン。
今回砂漠に来たのは仕事を受けるためだけじゃなくて買い物とか食事とかも楽しみたいなって考えてるの。
各地で羽を伸ばすっていうのも冒険者の醍醐味だと思うんだ。
だから後でお店を見て回ろうと思ってるの。
きっと素敵な一品に出遭える、そんな予感がするんだよね。
私の勘は良く当たるって友達とかからも言われてたし。
いろいろなことを考えながら歩いているんだけど、やっぱり砂漠の街だけあって街中砂だらけだ。
これぞ砂漠の街って感じがして良い雰囲気だと思う反面、やっぱりキレイな印象は受けないから治安が荒れてしまう要因の一つになってるのかもしれないと思う。
清掃してもあんまり意味ないんだろうけどね。
さっきからなんで私が歩き回ってるのかと言うと、食事が取れる所を探すためなんだよね。
この街に来る時に乗せてもらっていたキャラバンのおじさんに、
「美味しい砂漠名物食べれる所無い?」
って聞いたら、
「あるよ、旨い店が。目立つ店だからこの道を歩いてればすぐ分かるさ」
とか言われたから歩いてるんだけど全然見つからないの。
もしかして、もう通り過ぎてるのかな……。
それとも騙された?
グギュー
お腹が鳴り始めた。
女の子としてダメな気がする。
思い返せば、冒険者になってからだいぶガサツになった気がするな~。
最初の内こそ、ちゃんと宿屋に泊まって毎日お風呂に入ってたけど、今となっては野営にも慣れてきて、川や湖での水浴びにも抵抗なくなったし、なんなら数日水浴びしないこともあるし……。
まあ、砂漠では水が貴重だろうからそんなにお風呂入れないだろうし、今の性格もあながち悪くないのかも。
物事はポジティブに考えよう。
グギュルルル
またお腹が鳴った。
「お腹へったな~」
ついボソッと声が出てしまう。
それほどまでにお腹が空いているのだ。
というか正直限界だ。
人間、空腹には抗えないものがあるよね。
「お嬢さんお腹空いてるのかい? 良い店がアルヨ」
突然いかにもなおじさんに声をかけられてしまった。
「ホラ! こっちこっち!」
腕をつかまれて連れて行かれる。
こういうときって、抵抗した方がいいのだろうか?
でもお腹空いてるのも事実だし……。
「ココの店だよ!」
悩んでいる内に店に着いたみたいだ。
外見や看板などから察するに、どうやらご飯屋さんと宿屋がくっついた複合店みたい。
雰囲気は悪くないし店の外に居ても良い匂いが漂ってきて私の鼻腔を刺激する。
まだ今日泊まる宿も決めてなかったから一石二鳥ってやつなんだけど、ここまで案内してくれた胡散臭いおじさんのせいで、ぼったくられるのだろうか、ヤバイ人たちの溜り場なんじゃないか、と思考を巡らせてしまう。
「サア! 入った、入った!」
また腕を掴まれ、有無を言わさず店内に連れて行かれる。
かなり強引なおじさんだ。
店内に入ってみると、外からは分からなかったが結構繁盛しているみたいだ。
お客さんや店員さんもパッと見ヤバイ人たちには見えないから、恐らくここは普通の店なんだろう。
疑ってゴメンね、おじさん。
「良さそうな店だね! ありがとう、おじさん!」
「イイよ~。案内してあげたお礼に昼飯奢ってヨ!」
そういう魂胆だったのか……。
おじさんにお昼ご飯を奢ってあげるついでにこの街について色々話を聞いてみることにしよう。
そう考えて、おじさんと同じテーブルでご飯を食べながらこの街の見所やどんなお店があるのかなどを聞いてみた。
街についての詳しい話が聞けてとてもタメになったのだが、
「いろいろ教えてあげたから情報料キッチリ払ってもらうヨ」
と追加のお金を取られたのは言うまでも無い。
おじさんに聞いた話だとマーケットと呼ばれる、いろんな店が集まっている一角があるらしい。
なので憧れのターバンや、旅の役に立つものを買いに行こうかなと思いご飯屋を出ることにした。
ついでに今晩の宿はここで取ったから荷物は部屋に置いてきて今は身軽な状態だ。
運良く部屋が空いてて良かったよ。
その後マーケットへ向かったんだけど、さすが情報料を取るだけあり、おじさんの教え方が上手かったためマーケットには迷うことなく辿り着くことができた。
これは後で知ったことなんだけど、宿屋の店員さんに言えば街の地図とかパンフレットみたいなのが無料でもらえたらしい。
なんという無駄な出費。
おじさんへの情報料以外に高かったのに……。
「ほえ~ここがマーケットか~すごい活気~」
ハトラーダの街中もそれなりに活気が溢れていたが、このマーケットは人がひしめき合うという表現がピッタリなほどの人が居るし、一目で地元の人ではないと分かる衣装の人も大勢居ることから、おそらくここは世界的に有名な商業区画なのだろう。
むしろ、知らなかった私が世間知らずなのかも。
人混みを掻き分けながらいろんな店を見て回ったけど本当にいろんな店がある。
服屋に雑貨屋、食べ物の屋台、薬屋、武器屋、防具屋、怪しいお店、蛇使いの見世物なんかもあった。
いろんな店に入り、ビックリするような商品を目にしたりして、ワクワクドキドキしながらマーケットを歩いていると、
「オークション始まるよー! 良質な商品ばかりだよー」
と言う声が聞こえてきた。
オークション。
これは素敵な一品との出会いがあるかも。
是非とも参加しなければ。
ということで善は急げだ。
素早く人をかき分けながら声が聞こえた方に行ってみる。
すると、すでにかなり大勢の人が集まっていた。
このオークションがマーケット内でかなり人気があるコンテンツであることが一目で分かる。
「現在10万ナディです! これ以上はいませんか? ……10万ナディで落札です!」
どうやらすでにオークションは始まっているようで、商品が落札されたみたいだ。
次の商品はなんだろう、と考えながらステージを見ていると、
「お次の商品はこちら! 目玉商品ですよ~。なんと、獣人族の猫娘です!」
司会の言葉に耳を疑う。
今、何と言った。
どういうことだ、人身売買をしているとでも言うのか、こんなにも堂々と。
人身売買は犯罪行為のはずだ、許される訳がない。
この街の騎士団に報告しなければ。
いや、この際、私が壊滅させた方がいいだろうか、これも冒険者の仕事の一つかもしれない。
怒りのせいなのか自然と拳を握り締めていた。
そして、司会の言った通りステージ上に獣人の女の子が連れてこられる。
可哀そうに、いったいどんな子なんだろう。
ステージ上にはケモ耳をぴょこぴょこさせているちょっと小柄な少女が出てきた。
……天使だ、天使が出てきた、カワイイ。
一目見て分かった、これは運命なんだって。
私は彼女と出会う運命だったんだ。
「買った~~~~~!!!」
つい大声が出てしまった。