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14話 帰還

 ソレイユの攻撃によりゴーレムは完全に機能を停止した。

 これで今度こそ起き上がることはないだろう。

 先ほどまで天高く伸びていた光も収束していき見えなくなった。

 ゴーレムとの戦いが終わり砂漠には静かな時が流れる。

 巻きあがっていた砂塵も徐々に降り積もっていき、視界が晴れていく。

 視界が開け始めると、シナアはソレイユのことを探し始めた。

 シナアの体には目立った外傷がないことから、ゴーレムの攻撃を受けることは無かったようだ。

 攻撃が当たらなかったのは、砂塵が巻き上がっていたおかげでゴーレムも視界が取れず、シナアを認知できなかったというのが大きな理由だろうが、獣人族特有の瞬発力や運動能力、第六感に近い感覚器官を持っているというのも生き残ることができた要因だろう。

 シナアは薄れてきた砂塵の中を歩いていく。

 すると、動かなくなったゴーレムのそばに佇むソレイユを発見した。


「ソレイユ。」


 シナアはソレイユの下へと駆けていく。

 ソレイユはシナアの姿を確認するとホッとしたような表情を浮かべ、


「シナアちゃん! 怪我はない?」


 とシナアのことを心配するように声を掛ける。


「私は大丈夫。ソレイユは?」

「私も大丈夫よ」

「怪我してる。手当した方がいい。」


 シナアが言ったようにソレイユは怪我をしているようだった。

 重傷ではないものの腕に切り傷のようなものがあり、血が流れている。


「これくらい大丈夫よ!」


 ソレイユは腕をグルグルと回し、ガッツポーズのような姿勢を取る。

 自分が平気なことを示そうとしているようだ。


「ダメ。早く帰ろ。」


 ソレイユのアピールを無視するようにシナアはソレイユに近づき、ソレイユの手を取る。

 そして、宿屋の夫婦が待つオアシスに向けて歩き出した。


「強引だよ~シナアちゃん」

「もう依頼も達成したから早く帰るの。」


 グイグイとソレイユを引っ張って行く。

 今までのシナアならソレイユにくっついているだけのことが多く、今のような行動を取るなんて考えられないことだっただろう。

 きっとシナアの中で何か心境の変化が起こり始めているのだろう。

 奴隷と主人の関係から。


 その後は特に問題もなく、オアシスまで辿り着くことが出来た。

 オアシスに到着すると、宿屋のおばさんを筆頭に多くの人が出迎えてくれた。


「あんたたち! ゴーレムを倒したんだね! ここに居ても分かったよ!」

「凄い戦いだったんだろ? ここまで地響きが来てたよ!」

「こんなにカワイイ二人組がゴーレムを倒しちゃうなんてビックリよ!」


 ソレイユとシナアはすっかりと囲まれてしまった。

 四方八方から称賛の声や質問が飛び交う。

 一度に大勢から話し掛けられた二人は照れたりするというよりも、どう対処すればいいのか分からず混乱している。

 そんなアタフタする二人を見かねて、


「ほら、困ってるだろ! あんたたち! 散りな!」


 と宿屋のおばさんが助け舟を出してくれた。

 流石は宿屋のおばさんと言った具合に周囲の人たちが離れて行く。

 やはりこのオアシスでは相当の力を持っているみたいだ。

 ソレイユとシナアは野次馬から解放されてなお、まだ呆気に取られている。

 おばさんはヤレヤレといったそぶりを見せると、明るく二人を迎えてくれた。


「二人ともおかえり! あんたたちならやってくれると思ってたよ!」

「ただいまおばさん!」

「ただいま。」


 ようやく二人はいつもの調子を取り戻したようだ。


「あんたたち全身砂まみれだねぇ! お風呂用意してるから入ってきな!」


 おばさんはそう言いながら二人の背中を押して自分の宿へ歩き出した。

 おばさんが強引なのはデフォルトのようだ。

 宿へと辿り着くとおばさんの旦那さんも優しく迎えてくれた。


「おかえり。無事で何よりだ」

「あんた。私は今から二人をお風呂に入れてくるからご飯の用意をしといてくれるかい?」

「そういうと思って宴会の準備は進めてるよ」

「さすがは私の夫だね!」


 この夫婦はもはや以心伝心の域に達しているようだ。

 長年連れ添った貫禄を感じる。

 そしてお互いを信頼し、尊敬し合っているようだ。

 とても素敵な夫婦である。


 ソレイユとシナアは大きな浴場へと連れてこられた。

 おばさんが気を利かせて貸し切りにしてくれているみたいだ。


「さあ、ゆっくりとお風呂に浸かって体を休めるんだよ!」


 おばさんは脱衣所に二人の着替えとタオルを置くと出て行こうとする。


「おばさん。」

「どうしたんだい、猫ちゃん?」

「ソレイユが怪我してるの。」


 シナアがソレイユを指さしながら言う。


「本当かい? 見せてみな!」

「大丈夫ですよ! ちょっと切れてるだけですから!」

「いいから!」


 おばさんはやや強引にソレイユの服の袖を捲る。

 すでに血は止まっているが生々しい怪我の跡が残っている。


「結構深いんじゃないかい? 痛いだろう?」

「もう血も止まってますし、大丈夫です!」

「回復薬は持ってなかったのかい?」

「これくらいの傷で使うのは勿体ないというか……」

「まったく! 年頃の女の子なんだから体には気を遣いな!」


 おばさんはそう言うと脱衣所を出ていく。

 暫くすると小瓶を持って戻ってきた。


「これ使いな! 遠慮なんかしなくていいからね!」


 遠慮するなと釘を刺されたソレイユは渋々小瓶を受け取るのだった。

 そして小瓶の中身を患部に掛けると傷跡が少し良くなったように見える。

 この世界の回復アイテムは、患部の細胞に働きかけて再生を促進する効果があるものが多い。

 一瞬で回復してしまう即効性の物も存在するが、それなりに高価なものになっている。

 そのため、世に出回っているものは遅効性のものがほとんどなのだ。

 今回ソレイユが使った物も遅効性の物であり、ソレイユが負った傷ならば翌朝には完治するだろう。


「ありがとうございました、おばさん!」

「砂漠を救った英雄には当然の対応さ!」


 そう言って今度こそおばさんは脱衣所を出て行った。

 脱衣所に取り残された二人は、


「それじゃあ、お風呂入ろっか!」

「うん。」


 と短い言葉を交わしてお風呂を楽しむことにしたのだった。

 大浴場が付いている宿屋はそう多くないため、広々とお風呂に入ることなどなかなかできない経験だ。

 二人はゆったりとお風呂に浸かり、体の疲れを癒した。


 一時間程度お風呂を堪能した二人は用意されていた服を着て脱衣所を後にした。

 脱衣所から出ると、ちょうどおばさんがやって来るところだった。


「ゆっくりできたかい?」

「はい! とっても気持ちよかったです!」

「お風呂気持ちよかった。」

「それは良かった! ちょうどご飯の用意が出来たから呼びに行くところだったんだよ!」


 おばさんに誘導され、宴会室に連れていかれる。

 中に入ると大勢の人と、豪勢な料理の数々があった。


「今日は宴会だからね! 二人とも楽しみなさいよ!」


 そう言われ席へと案内され、飲み物の入ったグラスを手渡される。

 宴会室の前の方におばさんが歩いていき、皆の方を向くと、


「二人の英雄に乾杯!」

「「かんぱ~い!」」


 とトントン拍子で宴会が始まった。

 いろんな人がソレイユとシナアに乾杯を求めてやって来る。

 二人は乾杯に対応し、大勢の人たちと楽しく談笑しながら御馳走を食べるのだった。


 そして楽しい食事を終えると二人は部屋へと案内された。

 辺りはすっかり夜になっていて、二人はもう寝ようということになった。

 お風呂で疲れを癒したとはいえ、ヘトヘトだったのだ。

 部屋は広々としていてベッドも二つある。

 どうやらおばさんが良い部屋を取ってくれたみたいだ。


「じゃあ寝ようか、シナアちゃん」

「うん。」


 二人はお互いにベッドに腰かけながら寝る準備をする。


「おやすみシナアちゃん」


 ソレイユはそう言って自分のベッドに横になる。

 ゴーレムとの戦いで相当疲れたのだろう。

 ソレイユは横になるとすぐに目を閉じる。

 すると、


「一緒に寝る。」


 とシナアがソレイユのベッドに入ってきた。


「どうしたの、シナアちゃん? 今日はベッド二つあるからあっちのベッドで寝てもいいんだよ? 私と寝るとまた抱きしめちゃうかもだし……」

「大丈夫。」


 シナアはそういうとソレイユの背中から抱き着いた。


「こうすればソレイユに抱き着かれない。」

「確かに抱き着けないけど……」

「ソレイユ、悲しそうだったから。守護者を倒した後。」

「……悲しそうだったかな」

「だから、こうすれば少しは気持ちが楽になると思って。」

「ありがと。優しいね、シナアちゃんは」


 こうして二人は一つの布団でグッスリと眠るのだった。


 シナアが言ったように、ソレイユは守護者を手に掛けたことに自責の念を抱いていた。

 自分に力があれば他の選択肢があったのではないか、自分に守護者を手に掛ける権利があったのだろうかと。

 ソレイユは悩んでも答えの出ない自問自答を繰り返していたが、シナアの優しさにスッと心が軽くなったような気がしたのだった。

 私は一人じゃないんだ、と。

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