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1話 運命は動き出す

 薄暗くどんよりとした空気に包まれた空間が私の生きるスペースだ。

 四方を石造りの壁と鉄格子に囲まれており、鉄格子の向こう側には通路がある。

 その通路には頻度こそ多くないものの人間が通るのだが、性別や身分など様々な人間が通って行く中で、皆一つの共通点があるのだ。

 それは、気持ちの悪い視線を私に向けるということ。

 値踏みをするかのように私の全身を舐めるように見回してくるのである。

 その視線や表情から、この場所に来る人間は私を一人の人として見てはいないことは明らかだ。

 私はただの商品なのだから。


 初めのころは嫌で嫌で仕方が無かった。

 でも、最近では考えるだけ無駄だと考えることにしている。

 そうでもしないと、頭が狂ってしまいそうだから。

 いや、もしかしたらすでに狂っているのかもしれないけど。


 ここでの生活はとにかく酷いものだ。

 食事は一日に一回。

 それもまともな食事ではなく、腐っているようなものばかり。

 本来なら口にすることに嫌悪を覚えるようなそれも、空腹というものには抗えず食べるしかない。

 ただでさえ少ない食事なのに、食事を抜かれる時だってある。

 躾の一環だと言って。


 水浴びは週に一度、それも監視されながら行う。

 肌を見られることが恥ずかしかった時期もあったな。

 それも遠い昔のように思えるけど。

 今では、気持ちの悪い人間たちが集まり鑑賞会のようなものが行われることすらある。

 触られることもあるのだ。

 見世物にされているということだろう。


 ただ、運が良いと言っていいのか分からないが、一線を越えるようなことはまだない。

 あくまでも私が商品だからだろう。


 そして私が日々の大半を過ごすこの部屋には窓がない。

 常に薄暗いこの部屋では時間の感覚すら分からなくなってくる。

 時間の感覚を失い、まるで時間が止まってしまった無間の牢獄に閉じ込められているかのようだ。


 室温が高くなってきているから今は昼ごろだろうか……。

 通りから人間の声が聞こえるから、夜ということはないだろうな。

 こんな風に周囲の状況を分析して予想することしかできない。

 私の唯一の楽しみだ。

 

 そう言えば最期に日の光を浴びたのはいつだっただろう。

 またお日様の下で日向ぼっこでもしたいな。

 私がそんなことを考えていると、


「今日こそは売れろよな~」


 と鉄格子の向こう側の通路から声を掛けられる。

 いつの間にか人間が来ていたようだ。

 しかし、この声にはもう聞き慣れた。

 そして、この声を聞く度に怒りを覚える。


「お前がここに来てから半年。いつまで居座るつもりだ~? それとも居心地良くなっちまったか? ギャハハハ!」


 笑い声が空間に反響している。

 何が面白いのだろう。

 私には全く理解できないな。

 目の前で下卑た笑みを浮かべているのは奴隷商人の……名前は覚えてないけどクソやろうだ。

 私の人生をメチャクチャにしたやつだ。


 半年前、私の人生は大きく変わってしまった。

 今、目の前にいる男に捕まってしまったのだ。

 そしてその日から、奴隷として、商品としての生活を強いられている。


 半年前のあの日、故郷にあるいつも通っている道を歩いていたら馬車を引いた商人に出会った。

 その商人と言うのが目の前にいる男だ。

 私の故郷は亜人族だけが生活する領域で、人間はほとんど住んでいない。

 そのため、その道を人間が通ることなど滅多にないことだった。


「面白い商品があるんだ、見ていかないかい?」


 男は私に対してそう声を掛けてきた。

 滅多に見ない人間、それも面白い商品があると言われ好奇心からつい近づいてしまったのだ。

 今思えばもっと警戒するべきだったと後悔している。

 私が商品を見ようと商人に近づいた時、いきなり良く分からない煙を浴びせられ意識がプツリと途絶えた。

 その後、気づいたら首に鎖を繋がれた奴隷になってしまったというわけだ。


 いや、厳密に言えばまだ奴隷にはなっていない。

 私は商品なのだから。

 誰かに買われるまでは奴隷ではないはずだ。


 最悪だった。

 このまま誰かの奴隷になるくらいなら舌でも噛み切ろうかと何度も考えた。

 でも、結局行動に移すことが出来ていない。

 自分の命を絶つ。

 考えるのは簡単だが、いざというときなかなか行動できないものである。

 死ぬのは怖い、生きていればまだ希望はあるんじゃないか、そんな思考が頭の中を巡るのだ。

 助けなんて来るはずはないのに。


 そのような理由があり、私は死ぬことも出来ず、商品として半年間この場所にいるのだ。


「……い……おい! 聞いてんのか! 奴隷!」


 私が物思いにふけっている間、クソやろうは話し続けていたみたいだ。


「……何か用事でもあるの」

「聞いてなかったのか!? この売れ残りが! もう一度だけ言うから良く聞いておけよ。この後、お前をオークションに出品する。初期金額は設けないから、確実に今日売れるだろうな。せいぜい良いゴシュジンサマに買ってもらえよ? 俺も商品には幸せになってもらいたいからなあ!」


 そう言い放つとクソやろうは檻のそばから離れて行った。

 先ほど言っていたオークションとやらの準備でもあるのだろう。

 あいつが何をするかなんて知ったことではないけど。


 オークション……。

 私がオークションに出品されるというのは初めてのことだ。

 今まではこの檻の中に閉じ込められ、直接店に訪れた人に対してのみ売り込みをされていたらしい。

 しかし、運が良いのか悪いのか私が売れることはなかった。

 そうとう高額で取引されていたのかもしれない。

 私のような獣人というのはここら辺では珍しいらしいから。

 自分の値段がいくらだったかなんて知らないし知りたいとも思わないけど。


 それが今回はオークション、それも初期金額ゼロならアイツが言っていたように今日誰かに買われるのだろう。

 極端な話しこの世界で使用されている通貨の最低単価である1ナディでも売れるわけなのだから。


 今日でここともお別れか。

 いざ離れることになると思うと、こんな最悪なところでさえ名残惜しく感じてしまう。

 いったいどんなヤツに買われるのか今から不安で不安でしょうがない。

 せめて今より良い待遇でありますように……。

 私にはそう祈るしかなかった。


「おい! 奴隷! お前の出番だぞ!」


 クソやろうからお呼びが掛かった。

 ついに私の順番が回ってきたみたいだ。

 檻の扉が開けられ連れていかれる。

 私の運命を大きく左右する大舞台に上がるときが来たようだ。

この度はお読みいただきありがとうございます!

よろしければ時話以降もお付き合いいただけると幸いです。

今後ともよろしくお願いします!

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