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聖なる怪物  作者: 髪槍夜昼
三章
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第六十四話


「…大聖堂の真下とは言われたが、階段の場所が分からねえな…と考えていたら」


大聖堂内を走っていたセーレは、目の前の光景に立ち止まる。


「全く、やることが派手だな。そこだけは昔と変わらねえ」


そこには円状に大きな穴が空いていた。


聖櫃とやらが存在する地下室まで続いているのか、底が見えない程に深い。


しばらく下を眺めた後、躊躇なくセーレはそこへ飛び降りた。


重力に従って落下しながら、身体の具合を確かめる。


(ふむ。やはり、力が戻っているな。法王が聖都に張っていた結界を維持できなくなったからか?)


悪魔であるセーレは聖都にいるだけで力に制限を受けていた。


その原因はヴェラの権能『神の番人』による結界の影響だ。


それが今は完全に無くなっていた。


ヴェラが瀕死の重傷を受けたことで、一時的に結界が解除されたのだろう。


今の聖都が無防備になることは危険だが、セーレにとっては好都合だ。


十全に能力を使えるのなら、レライハなどに負ける理由は無い。


「っと」


そんなことを考えている内に、底へと辿り着いた。


妙に広く暗い空間にセーレはゴモラの地下空間を思い出しながら、周囲の気配を探る。


(コレは…?)


周囲を調べたセーレは首を傾げた。


結界から解放された筈の手足に、正体不明の痺れを感じる。


まるで法術を浴びているかのような感覚だった。


大気だ。


この空間の大気そのものに、法力が宿っている。


(法王が言っていたのは、コレのことか?)


コレが聖櫃による影響だとすれば、その影響力は法王の権能並だ。


だとすれば、聖櫃とは…


「ようこそ。セーレ先輩」


考え込むセーレを出迎えるように、レライハの声が聞こえた。


その足下には人が一人入る程度の『箱』が置いてある。


淡い光を放つ長方形の棺のような物。


「それが聖櫃と言うやつか?」


「そうっスよ。と言っても、俺様も見るのは初めてだが」


聖櫃が放つ法力に目を細めながら、レライハは言った。


聖櫃を椅子代わりにしてへらへらと笑うレライハに、セーレは思わずため息をつきそうになる。


「セーレ先輩はコレが何か…」


「いつまで茶番を続けるつもりだ?」


「はい?」


問い詰める様なセーレの視線に、レライハは呆けたような声を出す。


その反応にセーレは苛立ちを抱く。


「俺が気付いていないと思っているのか? いつまでその『皮』を被っているつもりかと聞いている」


「………」


「…悪魔が使える悪法は一つだけだ。毒矢と変身。もし二つの能力を操る者がいるとすれば、それはどちらも『同じ悪法』だと言うことだ」


本来なら有り得ないこと。


だが、変身の悪法を持つ悪魔にだけは可能だ。


「貴様は傲慢のレライハに変身した『偽者』だ。信じられないことに悪法までコピーした、本物と寸分狂わない複製品」


今、セーレの目の前にいる悪魔はレライハではない。


本物のレライハは恐らく、既に死んでいる。


百三十年前にヴェラによって殺されたレライハが本物だったのだ。


ここにいるのは、その姿を奪い、名を奪った、出来の良い偽者に過ぎない。


「そもそも、奴は俺を『先輩』なんて呼ぶほど殊勝な性格では無かった」


「くくく…あははははは! それもそうだな! 演技の出来が悪かったのは素直に認めるぜ!」


その悪魔の纏う雰囲気が変わった。


ニコラウスに化け、レライハの姿すら偽りだった何者かは、ただ愉しそうに嗤う。


「何せ、レライハの魂は劣化が激しくてな。遺体に残った残滓を取り込んだが、記憶も人格も十分に継承できたとは言い難い」


「…貴様は何者だ?」


「―――我が名はオセ。新たなる七柱『虚飾』のオセだ!」


虚飾のオセ。


セーレはその名に聞き覚えが無かった。


少なくとも、セーレが七柱の一員として活動していた時代にはいなかった悪魔。


それはつまり、


「…人間上がりか」


「その通り。俺様は人間から悪魔化し、ここまで這いあがってきたのだ!」


堂々と宣言するオセは七柱と何ら変わらない知性を持っている。


本来、人間から悪魔化した下級悪魔が人並みの知性を得るには膨大な時間と魂が必要だが、オセはその悪法を使って成り上がったのだろう。


「もう殆ど覚えちゃいねえが、人間だった頃から俺様は望んでいた! 『進化』することを! より上位の存在へと! より高尚な存在へと!」


向上心、と言う言葉で片付けるにはあまりに狂気に満ちた感情だった。


ただ高みを目指し、それを得る為なら、他の何を捨てても躊躇わない。


名も、姿も、心さえも捨て、今より優れた誰かに『成り代わる』


「ただ化けるだけではなく、他人の人生を乗っ取るつもりか? 悪趣味だな」


「乗っ取りとは違う…!」


ズズズ…とオセの姿が歪む。


レライハを模倣していた皮が溶け、中から現れたのは豹の頭部を持つ怪人。


左右の眼の色が違い、右目は青色だが、左目は光のない黒色。


安物のスーツに身を包み、背は高めだが猫背気味。


右手には高価そうな指輪を付けているが、左手にはただの鉄の指輪を付けている。


今までに化けた様々な人間の趣味趣向が入り混じっている為か、全体的に左右非対称でちぐはぐな印象を受ける姿だった。


「『継承』とでも呼んで貰おうか。『オレ』は今まで化けてきた、あらゆる存在の記憶や能力を全て引き継いでいる!」


オセの手に黒く染まった弓が出現した。


「たかが人間上がりと侮らない方が身の為だぞ。強欲のセーレ!」


弦が弾かれ、虚空より黒い矢が次々と放たれる。


意思を持つかのように向かってくる矢を見ながら、セーレは舌打ちをした。


「チッ、この装飾過多野郎が。俺より強欲な悪魔なんて、初めて見たぞ!」


セーレは放たれた矢を全て握り潰した。


使徒相手なら致命傷だが、悪魔であるセーレに黒い矢は何の効果も無い。


そんなことは、オセ自身もよく分かっている筈。


「『魔弾バール』…」


オセの声が聞こえた。


聖櫃から漏れる法力さえも一時打ち消す程の魔性が部屋中に満ちる。


「『ミール』」


「な…!」


セーレは思わず言葉を失った。


現れるのは、矢の形をした魔弾。


(嘘だろ…!)


九十の魔弾を操ったアンドラスより更に上。


文字通り、桁が違う『千』の矢だ。


魔弾を一度に展開できる数には個人差があるが、これ程の数は見たことが無い。


「放て」


足を止めてしまったセーレを見ながら、オセは冷酷に告げる。


その手の中にある弓が弾かれた瞬間、全ての矢がセーレへと襲い掛かった。

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