表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖なる怪物  作者: 髪槍夜昼
一章
PR
17/108

第十七話


それは白金色プラチナブロンドの髪を持った少年だった。


髪は男にしては長めであり、前髪で左目が完全に隠れている。


目の色は髪と同じ白金色で、背は低く、女性の様に華奢で柔らかそうな体つきをしている。


首からは十枚の銀貨を繋げた首飾りを下げており、歩く度にチャリチャリと音を発てる。


年齢は十八歳くらいで顔立ちは格好良いと言うよりは綺麗と表現されることが多そうな美少年だ。


「ば、バジリオ様…」


「コレは何の騒ぎだ?」


外見にそぐわない平坦な声でバジリオは言った。


自分よりも年下に見える少年の眼光に、仮面の男達は恐怖したように狼狽える。


「し、侵入者です! それを今、排除しようと…!」


「バジリオ様の手を煩わせる相手ではありません! どうか、お戻り下さい」


震える男達の声を聞き、バジリオはマナ達へ目を向けた。


力無く倒れるセシール、怯えたエリ、二人を庇うマナの順に見た後に、再び男達を見る。


「相手は女子供ばかりじゃないか。しかも、ケイナン教会の人間だ」


「は、はい。ですが、我々の計画の邪魔をする者は全て排除します。バジリオ様の騎士として!」


「…そうか。僕の騎士として、か。嬉しいことを言ってくれるじゃないか」


懐からナイフを取り出し、騎士のように構える男を見て、バジリオは薄い笑みを浮かべた。


冷え切った銀貨を思わせる白金の目が男を見つめていた。


命令コマンド『そのナイフで自分の足を突き刺せ』」


「え、は…?…が、あああああああああああああ!」


男はバジリオに言われるままに、手にしたナイフを自分の足に突き立てた。


深々とナイフが刺さった太ももからはドクドクと血が流れ、その激痛に男は絶叫する。


苦悶の表情を浮かべながらも、男は何故かナイフを抜こうとせず、血を拭おうとさえしなかった。


(この人、今何をしたの…?)


絶叫する男に薄ら笑みすら浮かべるバジリオを見て、マナは警戒を強める。


一見、非力で無力に見えるが、実際はこの場にいる誰よりも危険な男だ。


「ば、バジリオ様! 何故…!」


「言った筈だ。僕の騎士を名乗ると言うなら、それに相応しい振る舞いをしろ、と」


バジリオが男から視線を逸らすと、男は慌ててナイフを引き抜いて泣きながら傷口を止血した。


「婦女子に向かって必要以上に暴力を振るう。品のない欲望を口にする。どれも騎士の振る舞いとは到底思えないな」


傷口を抑える男に治癒を施していた仮面の男に向かって、バジリオは冷ややかな目を向ける。


彼らとマナの会話を全て聞いていたのだろう。


その白金の眼には侮蔑が宿っていた。


「暴力は必要だ。だが、それを愉しむようになってしまったら、ただの悪鬼だ。人間は理性を以て暴力を支配する物だ」


バジリオはそう言うと、静かにマナの下へ近づいた。


「ッ…!」


「心配するな、何もしない。僕達の間には多くの誤解があったと僕は思っている」


敵意がないことを表すようにバジリオは両手を上げた。


それでもマナは警戒した目を止めることは無い。


「自己紹介をしよう。僕はバジリオ。ケイナン教会の使徒だ、同教の娘よ」


「…マナ=グラース。私も教会の使徒です」


「何と。これほど若い使徒がいるとは聞いていなかった。長く聖都に帰っていなかったからな」


少し驚いたように目を開き、考え込むように顎に手を当てる。


「使徒バジリオ、聞かせて下さい。この村に圧政を敷いたのは何故ですか?」


「部下から聞かなかったか? 兵士、それに騎士を作る為だ。徴兵と言うやつだよ」


「…彼らは私達の信徒ではないんですよ。ただ日々を静かに暮らしていただけの罪なき人々から平和を奪うことを徴兵とは言いません」


マナは背に庇うエリを一瞥しながらそう言った。


何の罪もないこの子が、父親と引き離されることなどあってはならない。


しかし、バジリオはマナの発言に訝し気な表情を浮かべた。


「彼らに罪が無い? ただ静かに暮らしているだけ? それこそが彼らの罪なのだよ」


「どういう、意味ですか?」


「悪魔が蔓延るこの終末の世に於いて、救いを齎さない異教の神を信じ、ケイナン教への協力を拒む。悪魔に抗う力も、意思もなく日々を生きる怠慢。それはこの村全ての罪だ」


吐き捨てるようにバジリオは言った。


その眼には先程よりも深い侮蔑が宿っている。


「人間には価値がある。命には意味がある。だが、それを無為に破棄しようとしている愚物には何の価値も意味もない。なら、僕が活用してやる」


ケイナン教の神を信じない者に、神の存在を教え、


悪魔と戦おうとしない者に、悪魔と戦う力を与える。


「僕は使徒だ。その僕が愚物達に価値を与えてやる。僕の命令の下で戦い続けることこそが彼らにとって最上の喜びだ」


それはあまりにも傲慢な発言だった。


自身の絶対的な善を信じているが故に、他者の意思を無視している。


本気でバジリオはこの村の人間は、自分に使われる為に生まれてきたと信じている。


元々は確かに善であったのだろうが、心が捻じ曲がっている。


「…あなたは間違っています」


「何?」


「確かに悪魔と戦うこと、人々を守る為に戦うことは善行です。ですが、それは誰かに強制される物ではありません」


マナは真っ直ぐバジリオの目を見つめた。


「戦う力のない者。戦う意思のない者。そんな、ただ平穏な日々を愛する者達を救う為に私達は使徒になったのではないのですか?」


使徒とは、人間を越えた存在だ。


良くも悪くも、人間とは異なる存在だ。


それをバジリオは人間を支配して導く者であると認識したようだが、マナは違う。


使徒とは力無き人々を守る者であり、争いを掻き立てる者ではない。


「見解の相違だな。僕の邪魔をすると言う訳か」


バジリオは部下に向けていたような冷ややかな目をマナに向ける。


「マナ様には手出しさせないぞ。この悪党…!」


その視線を遮るように、倒れていたセシールが立ち上がった。


休んでいたことで多少回復したのか、顔色が良くなっている。


「お前は、何だ?………この感覚、悪魔が混ざっているな」


バジリオは興味を抱いたように、セシールの目を見つめた。


全てを見透かすような白金の視線に、セシールの頬に一筋の汗が流れる。


「…なるほど、半魔か。聞いたことはある。悪魔に襲われた女に、悪魔の仔が宿ることもあると」


汚らわしい物を見るような眼でバジリオはセシールを見た。


「醜いな。悪魔の血を引く者が聖職者を語るなど…」


「…ッ」


ギリ、とセシールの口から音が聞こえた。


ナイフを握る手に力が込められる。


「やめておけ。たかが小娘二人、この僕に勝てる筈もない」


「…二人だけではない」


セシールを深く息を吐いて、怒りを鎮めながら呟く。


「この村には使徒コマンダンが来ている。例え私達をこの場で消しても、お前は終わりだ。すぐにでも聖都から大勢の人間が派遣されてくる」


あの中年に頼るのは癪だが、ハッタリに使わせてもらった。


バジリオはマナとセシールさえ口封じすれば、それで済むと思っている。


その考えを否定してやれば、こちらのペースに持ち込める。


そう判断したセシールの目に映ったのは、笑みを堪えるようなバジリオの顔だった。


「使徒コマンダン、だと? それが、お前達を助けてくれると? は、ははははははは! どうせ吐くならもう少し上手い嘘を考えろよ!」


堪え切れない、とバジリオは腹を抱えて笑った。


目尻に涙さえ浮かべ、大笑いしながらセシールを見る。


「―――僕はバジリオ」


改めて、その名を告げる。


「『神の命令』の名を持つ使徒。バジリオ=コマンダンだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ