魔法少女でイイノ!! 18話 飯野の戦い
飯野の戦い
「此処には居ない。ってことは上だよね? 先に行った神奈ちゃんは大丈夫かな?」
サターンさんのエレベーターから解放された階より上に行く。そこは狭い部屋、そして、周りをよく見渡せる、天守閣だった。他の神奈ちゃんが空中で戦闘している音がする。しかし天守閣内での戦闘音はない。神奈ちゃんが先に上がって行ったはずだが、暗くて姿は見えない。
「来たか。いきなり要塞内部が日本の城になって驚いたが、面白いとも思い、天守閣に登ってしまった。で、君がこの城を出したのかい?」
やっと目が慣れてきた。月を見て、此方を見ないで正座して手を合わせている男は、そう訊いてきた。神奈ちゃんがいない。私は闇のサモンエッグを使い、刀を召喚して、構えながら、
「違うよ。これは私の仲間がやってくれたんだ。仲間が切り開いてくれた道なんだ。だから皆の為に、あなたを倒すよ! ところで、ここに来た女の子がもう一人いたと思うのだけど、どこ?」
「ああ、あの機械の少女か、あの子は手足を破壊したのち、まだ動いていたから、そこから投げ捨てた」
「私はあなたを許さない!」
「そうか……なら戦うしかないな。殺されるわけにもいかないしな」
そう言いながら男は立ち上がり、
「僕の名はバーブン。将軍バーブンだ」
「私は飯野珠樹! 魔法少女だよ!」
「君は魔法少女か……魔力はかなりあるが、体外放出魔力量は少しか。君は皆に夢や希望をふりまけたか?」
「そうだね、私は体外魔法も使えないし、皆に夢や希望をふりまけた気もしないけど……でも魔法使う少女、魔法少女だよ。私はあなたを倒す。私利私欲の為に! それでも魔法少女で良いの!」
「そうか、では戦うか!」
と虚空から剣を出した。私は、敵が構えるのを待たずに攻撃を仕掛けた。しかし、
「おおっと、さすがにそれでやられはしない」
と刀と剣がぶつかる。剣に触れずに、浮遊魔法で剣を飛ばして防御された。私は後ろに飛び退き、風のサモンエッグをばらまく。相手はその隙に、七人に増えていた。
「へ? どうなっているの」
「僕は昔から集団戦が得意でね、こんな魔法で、自分を増やし、集団戦に持ち込み、勝ってきた。そして気が付いたら、この地位になっていた。この分身たちは一撃で消えるが、君を倒すのに、分身全員は消えないだろう。さあどうする?」
私は一人に狙いを定め、攻撃しようとしたが、私から見て右隣の分身に防がれ、周り四方向を囲まれた。けど、
「今だよ!」
私の掛け声で、天守閣の周りをまわっていた、風鳥達が、一斉に私の周りの分身に体当たり、4人とも消えた。しかし、それを計算していたかのように。前と右から銃を構えている分身がいた。
「くっ!」
左前にとっさに左後ろへと動いたが、前からの弾に当たってしまい、右腕を負傷した。とても痛い! けど、神経系に魔力を回し、痛みを軽減する。
そこに今一番聞きたくない声が聞こえてくる。
「珠樹、悪いが消えてもらう」
お兄ちゃんの声だ。何とか前に走りだす。その間に毒のサモンエッグに薬を付け、蠍を召喚、そして、一か八かで、時のサモンエッグを掲げる。やはり時間が止まる。その隙に、分身に蠍を投げつけ、一体撃破。次を斬ろうという時間で、時が動き出した。
「あと一人か……成程なかなかやるようだね。しかし、飯野くん、来たからには働いてもらうよ」
「ああ、もう少しで、もう一人来る。それまで、自分が珠樹を抑えよう」
そう言って、瞬間移動でもしてきたかのように、目の前に現れたお兄ちゃんが、私の肩に触れる。すると、
「風圧? なんだこれは!」
とお兄ちゃんは一瞬で飛び退いた。そしてお兄ちゃんの後ろにいた分身も消えた。
「おい、バーブン殿、自分ごと斬るつもりだったのか?」
「ああ、隠しきれんから言うが僕は君を信用していないからね」
「……まあいい、それにしても、代美のやつ厄介な呪いをかけてくれたな」
確かにさっきのは矢だった。柱に刺さっているから断定もできる。私は何とか立ち上がり、反撃を考える。そして思いついたが、
「もう無駄です。珠樹、これは取り上げさせていただきます」
「詩織ちゃん! 離して! サモンエッグ返して!」
後ろから詩織ちゃんに地に組み伏せるように捕まり、サモンエッグの入ったウエストポーチを奪われた。そのサモンエッグの入ったウエストポーチはお兄ちゃんに投げ渡された。そして床が光りだす。どうやらもう、魔法陣は完成させていたようだ。なら私のとるべき行動は一つ。
「毒の手、砂の腕、発動」
小声でつぶやく。そして、腕が砂に、手が毒手になり、それは蛇のように、グネグネとバーブンの元へと向かって行く。
「何をする気か知らないが、その手に捕まらなければどうと言う事はない」
しかし、バーブンは足を使わず、上半身だけで回避しようとした。その手は上半身を狙っていたが急遽足を狙う。当たれば、いや、かすればいい。バーブンに少し当たる。するとバーブンは、苦しみだし、
「ぐあぁあぁあっぁぁあぁ、なんだこれは! 毒? 図ったな飯野!」
と言って溶けるように倒れてしまった。
「珠樹! 今すぐ手を元に戻しなさい!」
「あ、うん」
思わず元に戻す。しかし、その言葉に従う必要がない事を思い出して、もう一度変化させようとしたが、消去の魔法により、
「もう腕が消えちゃったか……。お兄ちゃん」
「なんだ? 遺言ぐらい聞いてやる」
「大嫌い!」
ああ、視界が消えていく。もう私は……。
私達の戦いは終わった。なんの信念もなく、覚悟もなく、ただ振り回されただけの戦いだった。最初は蘇らせたい、その後からは守りたい一心で戦ってきた私だったけど、何も守り通せなかったな。まあ今更言ってもしょうがない。だから私はここで消えるのかな。




