この世界でイイノ20話 世界の恐怖
世界の恐怖
神奈ちゃんが自分の分身を改造するために手を動かしながら、
「……そう言えば、珠樹の行なったと言う召喚についてだが、あれは歴史に変化を与えた人間や、語り継がれる事になった人間や物が記録される場所、フォルダから呼び出したのだろう。元々珠樹の召喚はそういう場所につながりやすいのだろうな。さっきまで残っていた、イージスの盾や、チャンドラダヌスの矢筒なども、そこから召喚されたのだと思う」
成程、それなら納得……、あれ?
「ってフォルダってことは……」
「……その通りだ。この世界もまたデータってわけだ」
と小声で神奈ちゃんが答える。
「マトリョーシカみたいだね。世界が」
と隣で皐文ちゃんがぽそりと言う。
「その通り、まさにマトリョーシカだ」
私は聞いていて怖くなった。皆自分の世界が現実世界だと思っている。いや、そんなことも心配せずに普通に過ごしている。なのに、それらすべてが電気が落ちたらすべてが消える。そんな不安定な世界なんだと……。
「じゃ、じゃあ、どうすれば……」
その私の声に神奈ちゃんは首を振り、
「……こればかりはどうしようもない。いつ終わるか解らない世界。そんな世界で私達は過ごすしかないんだ。それこそどうにかしたいなら、神様に祈るしかない……。すまんこんな言い方をしてからだけど、本当にどうしようもないんだ」
事実を述べた後、すぐ自分の言っている事が、冷たい言い方だと、気づいた神奈ちゃんは、申し訳なさそうに謝った。
「神奈ちゃんが謝る必要ないよ。だって神奈ちゃんだって被害者だもん」
「……ありがとう」
「ところで、黒田さんたちはムンドゥスインマキナに来れないのかい?」
と皐文ちゃんが聞く。確かにその方が黒田さん達も長生きできるだろう。しかし、
「いや、私達はいけないね。この世界でやるべき事があるからね。どうしようもなくなったら行くさ。それにしてもあんたらこそ良いのかい? こちらの世界は本物、消えることのない安全な世界さ。あんたらなら地上にも出れるだろうさね。こんな機会逃して良いのかい?」
「うん、私達はこの世界が良いの。いつ消えるか解らないけど、友達がいて、家族がいて、今まで守ってきたこの世界が良いの」
「そうかい。自分の世界が良いと言えるのはいい事さね」
その会話が終わり、なんとなく思ったことがあった。
「代美ちゃんって確か霊を操ることができるって言ってたよね。今回なんでしなかったの?」
と素朴な疑問だった。
「ああ~、あのね~、契約してないから~、呼び声に少ししか答えてくれなかったんだ~。だから~できるのは千里眼だけだったんだ~」
「……その通り。ゾンビプロセスに命令を与える権限を、手に入れることが必要となるからな、後珠樹、話が変わるが、今までの私達で説明できないことは、お前のお兄さんがやったという事で話が繋がるんだ。ここなら監視の目がないから言うが、詩織と戦ってた時に探しに来てお前を助けたのも、魔法陣で詩織や、エスキを助けたのはお兄さんだ。他にもやっていただろうがとりあえずこの辺だな」
「へ? けど、お兄ちゃんは魔法なんて……」
「魔力量計測不能。魔力反応無し、気配を消せる。それが珠樹のお兄さんの能力だよ。お兄さんは無色、無音の魔術師だ。後は六角が助けに来た時に、一緒に助けに来てくれてたよ」
と皐文ちゃんが真面目な顔で私に告げる。




