この世界でイイノ3話 珠樹の兄
珠樹の兄
「しかし、お前は何者なんだ? 確か珠樹の兄だったな」
我は、珠樹の兄を名乗る者に聞く。
「その通りだ、そして正義感の強いただの一般市民だ。」
と答えた。しかし我は納得せず、
お前嘘つくのが苦手だな。何故ならお前、神奈の事を覚えているだろう? それにあの映像お前が撮ったものだろう。記憶が消されているのなら、あの短時間に動画を見つけ出せまい。我も偵察用のゴーレムで動画を見ていたからわかる」
と言葉を返す。すると珠樹の兄は、
「成程、自分も動揺しているようだ、嘘を見破られるとはな……。だが、自分はこう答えるしかないな。影の薄いだけの一般人と」
「そんな回答で……!」
そこまで言いかけると、サンが、
「はい、そこまでぇ。その回答で満足しとかないとぉ」
と我の口をふさいだ。少しの沈黙、そして、
「すまないな。これしか答えられなくて」
と言うと、珠樹の兄はとぼとぼと珠樹の家の方に向かって行った。
「あれはぁ、私達でも負けかねない相手だよ」
と久しぶりにサンが素に戻ったのを見た。そして、あの男が見えなくなったのを確認してから、
「奴はそんなに強いのか?」
その言葉にサンは首を横に振り、
「読めないのがぁ、怖いところなんだぁ。あいつ、魔力は感じないわよねぇ。人が、持っている最低限の魔力すら感じないわぁ。でも偵察魔術を使っているだろうしねぇ。そこから察するにぃ、飯野さんはぁ、ヴィーナスと同じぃ、感知不可の魔術師だねぇ、基本なんにでもこれが出るこれが来ると解る行動ってあるでしょう? 例えば、刀なら振り上げる。銃なら構える、鞘から剣を抜く動作だって、銃のトリガーを引く、それらが目に見えない聞こえない、知覚できないそれが多分あの男の能力だねぇ」
「成程、我が主と同じ力なのか……。それにしても我が主がヴィーナスとはどうなのだ? 我が主はどちらかと言うとムーンであろう?」
「多分あの時代でアレだけ金を貯め込んでいたからだよぉ」
確かに主はかなり貯めてたな。我は頷いて、話題を変える。
「あの三人無事神奈を助けて戻ってこれるだろうか?」
とあの子らの心配をするすると、
「リアルワールドの人たちが神奈を利用しようとするかもしれないから、少し遅くなるだろうけど、大丈夫だよ。あの子達なら」
と真面目に答えたサンにびっくりしながらでも、
「そうか」
と返すだけにした。




