この世界でイイノ1話 神奈の消失
神奈の消失
「神奈ちゃんだよ私たちの友達の!」
「そうだよ! 代美! 神奈を忘れたのかい?」
私と皐文ちゃんは代美ちゃんに怒りながら訊ねる。
「そ、そう言われても~」
と代美ちゃんは困惑の声を出す。すると、詩織ちゃんも、
「ほかにも友達がいたのですか? ですが、代美も知らないというのは……」
「へ? いや詩織も知ってるだろ?」
「そうだよ! こんな時にふざけないでよ」
しかし、周りを見渡してもサターンさんと小部屋ちゃん、縛られている、白い軍服の人以外は皆不思議がっている。
「ふざけているのはあなた達ではありませんこと?」
と小麦ちゃんも覚えていない様子だった。
「ど、どうなっているの? 神奈ちゃんは居ないの?」
私は愕然として、膝から崩れ落ちた。しかし皐文ちゃんは、
「サターンと小部屋は何か知ってそうだね」
と目ざとく何かを察したようだった。
「ああ、我とサンは覚えている。そしてこうなった原因も分かっているが……。どうしたものか、我らだとその現象について言うわけにはいかないからな……」
と少し暗い顔をしている。どうやらサターンとサンのいえない事なのだろう、けど何とか聞き出したい。そう考えていると、
「自分が説明しようか?」
と後ろから声が聞こえる。私にとっては久しぶりの声だった。
「お兄ちゃん?」
そこには私のお兄ちゃんが立っていた。しかし、サターンさんとサンさんは警戒して、
「お前、何者だ? 気配を全く感じなかったが」
「自分は珠樹の兄だ。君たちの言えない事を知っている。ただ自分では証明まではできないがな。それに皆に話してほしくないと言うのなら珠樹と皐文ちゃん、代美ちゃんにだけ話そう」
その言葉にサターンは悩んでいるようだったが、小部屋ちゃんは、
「いいよぉ、じゃあその三人にだけ言ってぇ」
「解った」
そう言うとお兄ちゃんは私たちを手招きして、岩陰に連れていく。そして皆からこちらが見えないことを確認すると、スマホを取り出して、
「これは映像記録だ、映っているこの子が多分神奈ちゃんだろう?」
どうやらお兄ちゃんも覚えていないようだった。そしてスマホに映っている映像には、お兄ちゃんの言う通り神奈ちゃんが映っていた。どうやら何か研究しているようだ。
「お兄ちゃん、この映像は?」
「ああ、いつの間にか自分のファイルに入っていたんだ」
そして、研究を映し出す。研究は宙にウインドウを出して、そこで操作する。すると炎が机の上に出た。
「これはホログラムかな?」
と皐文ちゃんが言うとそれは神奈ちゃんが近づけた紙に燃え移った。
「へ? これホログラムじゃないの~? つまり~炎をウインドウの操作で出したってこと~?」
そして、どう見ても神奈ちゃんが気付くであろう場所から撮影されている。となると、
「これは神奈ちゃんがお兄ちゃんに送ったのかな?」
と私が言った瞬間、神奈ちゃんはウインドウの炎マークを動かして、ごみ箱に入れると、その炎が消えた。私たちは目が点になった。
『……やはりこういう結果になったか。くそっ、こんな結果認めたくない』
神奈ちゃんがそう叫んだあと、小声で、
『やはりこの世界は、作られたものだったか』
その後私と皐文ちゃんがドアを開けて、倒れたところで映像は終わった。
「つまり……これって、どういう事?」
私たちは三人とも理解が追い付かなかった。作られた世界? ウインドウ操作で火が出る? しかもそれはごみ箱で消える? それらはホログラムではない……。そこにお兄ちゃんは、
「これによって、いろんなことが可能になるが、少し、いやかなりショックだろう。だから、自分の胸の内に秘めているつもりだったのだが、君達の様子から察するにこの情報が必要なのだろう」
そう言うと、お兄ちゃんは背中を叩いて、
「あの二人に言ってこい。君たちなら失ったものを取り戻せるだろう」
「分かったよ」
そう言ってみんなの元に戻ると残っているのはサターンさんと小部屋ちゃんの二人だけだった。
「で、分かったぁ? 私たちの秘密にしていることぉ」
「こ……、この世界は……データでできているってこと~? つまり世界はパソコンの中にあるってことなのかな? それで~これはあくまでも予想なんだけど~、この世界を作った元の世界に転送されたってところかな~?」
そう代美ちゃんは率先して言ってくれた。ってそういう事なんだ。ここはパソコンの中の世界なんだ! つまりゲームみたいなものなのかな?
「正解だ。そして我らはこの世界が元の世界を真似て、時代再現していた頃からいる。我は戦国を生きた者、サンは弥生時代、そしてマーキュリーは明治から昭和の時代を生きた。と言うかそこで元になった世界の有名な人物を演じた人間だ。そこで世界の真理に気が付いて、この存在、エルピスになった者たちだ。世界の守り人だ。そして我らはある権限がある。その権限をマーキュリーが行使した。元の世界、つまりこの世界を作った世界に問題解決できる人材として召喚されたということだ。君たち三人をその世界に送りたいのだが、一つ問題があってだな、この権限は一人一回なんだ」
「へ?」
「我が提案するのは、もう一人探すか、一人が行かないという選択肢しか……」
三人は悩む。神奈ちゃんのことを忘れている代美ちゃんも神奈ちゃんを助けたいのかなと、
「代美ちゃんどうする? 私達だけで行こうか?」
「ううん~、あたしも行くよ~! 忘れていても親友だもん!」
「じゃあ……探しに行こう! 僕たちの話を聞いてくれそうな守護者は誰かな?」
そう聞くとサターンさんが即答した。
「我が主、ヴィーナス様が聞いてくれる。あの人は優しいからないる世界は……」
しかし、小部屋ちゃんは違うことを考えていたようで、
「いや、できるよぉ、ヴィーナスを探さなくてもぉ。ラ・ムーの力を借りれば行けるわぁ」
「ラ・ムー?」
私たちは首をひねる。しかし、サターンさんは理解している様子で、
「サン、あいつが手を貸すか? 我にはそうは思えん。それどころか強制設定を組み込みそうなんだが」
「それはないわよ。彼もこの世界を守る役目があるんだものぉ」
サターンさんは悩んでいる。少し経つと、サターンさんが頷いて、
「解った。ならば、奴にも手伝ってもらうか。しかしなぜ彼は沈んだ大陸にいたんだか」
その言葉に代美ちゃんが、
「もしかして~、ラ・ムーって沈んだ大陸の王~? そういえば~、沈んだ大陸の王って~、詩織ちゃんが、雇い主さんに引き渡したんだよね~、今どこにいるの~?」
そう代美ちゃんが聞くと、
「ああ、それなら、詩織に連絡してもらうように頼むか」
サターンさんは詩織ちゃんに連絡しに行った。するとお兄ちゃんがこちらに来て、
「珠樹、珠樹にかかっている呪いなのだが、向こうの世界に行くと呪いは消えるだろう。だから向こうではおそらく魔法は使える。そうなると使い方に悩むだろうから教えておく、人には得意不得意がある。珠樹の得意な魔法は召喚と補助だ。つまり珠樹のイメージするべきは、強い味方、最強の味方をイメージするべきだ。それに珠樹の場合自分を強くするなんてイメージできないだろう?」
「確かにそうだけど」
「だからこそ、自分を助けてくれる最強の味方をイメージするんだ。解ったか?」
「うん!」




