第29話 もう1回、「1万円」を稼いだら
ケンタは予備校に向かいながら、さっき終えたばかりの仕事のことを考えていた。
もう一度、同じ仕事をしたら、もっと簡単に稼げるのに。
学べたことは大きかったが、時給が800円程度だったことには不満だった。
今なら1日で終わらせられるのに。そうしたら時給は1600円はいけるのに。
仕事の手順を振り返りながら、失敗した点や修正した方が良かった点ばかり
思い浮かんでくる。
予備校に早めについたケンタは、このままでは勉強に集中できないとばかりに
ノートに思いついた年賀状作業の修正点や改善点を書いていく。
一心不乱にメモをしていると、予備校の友人が声をかけてくる。
ケンタは、頭の整理と雑談に丁度いい、と年賀状作成のアルバイトについて話してみた。
親の年賀状作るなんて、つまんないバイトだな、というのが反応だった。
そう思うのが普通だよな、とケンタも頷く。
高校生が考えるバイト、というのは時間を売って、なるべく楽して稼ぐものだ。
綺麗なところで働いて、楽しい仲間たちができて、彼女でもできたらサイコー。
仕事は簡単で忙しくない方がいいし、漫画でも読んでて終わったらもっといい。
ケンタも、3日前まではそうだった。
だが、今は少し仕事に対して違ったイメージを持っている。
このギャップ、情報の伝わらなさは何かに似てるな、とケンタは感じる。
そう、インターネットやアプリに対する両親の拒否反応に似ているのだ。
情報や感覚ギャップのある所に、価値が生まれる。
これは何か価値を生むかもしれない。
まだ、仕事モードだったケンタの脳は、何かの機会を見つけたように思った。