第26話 「1万円」のサービス作業
ケンタの仕事で残るのは、年賀状の図柄をデザインし、図柄と住所を印刷することだけだ。
仕事の半分以上は終わったので残るは明日でいいだろう。
夕食時、ケンタは両親に年賀状の図柄はどんなものがいいか、たずねた。
両親の返答は「なんでもいい。」とのことだったので、これは簡単に済みそうだな、とケンタは思ったのだが、甘かった。
食後に、郵便局のサイトからアプリをダウンロードして年賀状の図柄をテンプレートからダウンロードしたケンタは、これで良いかとたずねた。
父は良いと言うが、母は他のデザインはないかと言う。
ならば、と別のデザインを2、3ダウンロードしてこれはどうか、と見せると色と配置が気に入らない、挨拶の文章がおかしいという。
ケンタはイヤな予感がしてきた。
ケンタは年賀状の図柄デザインをダウンロードしたテンプレートの中から選ぶ作業だと考えていたのでサービスをつけたのだが、仕事を頼む両親からしてみると、年賀状の顔である図柄がサービス作業だろうとなかろうと、一定以上の質を求めるのが当然である。
ケンタのサービス作業であったはずの年賀状図柄デザイン作業の見直しは、都合23回に及び、3時間の作業となった。
仕事としては、大幅な赤字である。
デザインのように、形や成果がお客の満足度で左右されるサービスは、最初に条件を詰めておかないと赤字になりやすい。
ケンタも、両親の「なんでもいい。」との言葉を、そのまま受け取るべきではなかったのだ。
自分に置き換えてみると、母の食事に対し「なんでもいい。」と答えていたが、いざでてきたものに対して文句を言うことは、少なからずあった。
ケンタは、今までの態度を少し反省した。