第15話 転んでもただでは起きずに「1万円」を稼ぎたい
ケンタは、母の失敗から事前説明と契約の重要性を学んだ。
人の心は移ろいやすく、お金が絡むと人情は簡単に忘れさられる。
それに自分に交渉力がないのもいけなかった。
学費、クリスマス、正月の小遣いと、親から見ると出費の続くイベントの最中に、更なる小遣いが欲しいとの要求が通る可能性は低かったのだ。
ケンタは考える。そもそも、自分は交渉や言い方を考えていなかった。
お金が節約できるんだから、いいじゃないか。という気持ちが発言に表れていたのを母は敏感に察したのだろう。
小遣いが欲しい、と言い分はいかにも幼なかった。
将来に備えてビジネスの経験を積みたい、という言い方はどうだろうか。
いずれにせよ、母との交渉は一旦、撤退した方が良い。
なに、チャンスはまだある。そもそも「1万円」を稼ごうと思ってから
実際に自分が実際に手を動かしたのは数十分に過ぎない。
アルバイトに換算すると500円にもならない。
稼ぐ方法を考える、という作業は自分に意外と合っているのではないか。
ケンタは、諦めの悪い自分の脳みそに少し感謝するようになった。
これは、数学の初めての証明を解いている時の感覚に少し似ている。