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第六話 忘れればいい

「奈穂、明後日一緒に行くよね?」


翌日美穂が当たり前のように問いかけてきた。

一緒に行きたいと言ってくれた美穂の言葉はすごく嬉しかった。

だけど既に竜二さんと色々あるのに、それを今もずっと隠し続けているのが心苦しい。



「うん、勿論」


土曜日、きっと竜二さんはお店にいるに違いない。

この前みたいに近くに来なければ、問題ないはず。

あたしも過剰な反応をしなければいい。


それに、美穂の言う通りあたしが何を思っても、何を伝えてもきっと無駄なんだと思う。





「お帰りなさいませ、美穂お嬢様、奈穂お嬢様」


出迎えてくれたのは桜庭さんだった。


美穂は相変わらず目を輝かせてうっとりと桜庭さんを見つめている。

その目がすごく羨ましい。


桜庭さんみたいに真剣に向き合ってくれる人なら良かったのにな。




いつも通りの個室のようにカーテンで仕切られた席へ案内された。


このままここでずっと過ごしていれば竜二さんに会わずに済む。

ベルを鳴らしたって桜庭さんしかやってこない。




「奈穂、どうかしたの?」


気づけば美穂が顔を覗き込んでいた。


「だ、大丈夫だよ。ビックリした」


美穂はどこか心配そうにあたしを見つめていた。


ここは楽しむ場所。



「今日は何か甘い物でも食べようよ」


「そうだね」


あたしがそう言えば美穂は笑って頷いてくれた。


ベルを鳴らせば桜庭さんが来る。

それだけで美穂は緊張している。

その強張った顔も嬉しそうだ。



「今日は何か甘い物が食べたい」


「かしこまりました。おや、奈穂お嬢様お疲れですか?」


「えっ」


美穂に笑顔を浮かべていた桜庭さんが、ふいにこちらを向いたので驚いた。


「奈穂お嬢様には疲労回復の効果をもたらすハーブティーをご用意いたしましょうか。

甘い物で存分に癒されてくださいね」


桜庭さんは最後は美穂には笑顔を向けて下がって行った。



「やっぱ、桜庭さんいいよねー。それよりさ、桜庭さんの言う通り奈穂最近おかしいよね?

学校でも上の空のこと多いよ。何かあったの?」



美穂の心配そうな顔が胸に突き刺さる。


「大丈夫だよ。最近寝不足なだけだよ。

ほら、最近ハンドメイドにハマり始めたって言ったでしょ? それやってたら寝るの忘れちゃって」



「そっか」


美穂は少し不服そうな顔をしていたけれど、納得してくれた。


いつまであたしは友達に嘘をつき続けるんだろう。



「お待たせいたしました」


「うわー、すごいよ奈穂、可愛いカップケーキがいっぱい!」


「奈穂お嬢様、甘い物は人を幸せにしますよ。どうぞごゆっくりとおくつろぎください」


なんだろう。

桜庭さんに心配されるたびに全てを見透かされているような気がする。



「ほら、奈穂、食べよう」


美穂はすっかり気分を良くしている。

桜庭さんが運んできてくれた可愛いカップケーキと、心安らぐ紅茶。



「うん、食べよう」



そう。

ここは執事喫茶、ここにいる間だけお嬢様になれる。

その時間を存分に満喫しないと。



「はー、美味しかったね」


「久しぶりにこんなに甘い物食べたかも。あー、どうしよう。太っちゃうよねー」


それまで幸せいっぱいだった美穂は両頬に手を当ててショックを現している。


「美穂細いんだから大丈夫だよ」


「来週まで体重維持ね」



「桜庭さんのため?」


あたしが聞けば美穂は真っ赤な顔になってしまった。


ひと時の癒しのために、決して自分だけが特別になれぬとわかっていても、美穂は大好きな人のために努力をしている。


「美穂ったら可愛いんだから」



「お嬢様、失礼します」


そんな時突然桜庭さんが入ってきて、美穂は驚きで固まってしまった。


「奈穂お嬢様、少しよろしいですか?」


「あたし?」


一体なんだろうか。

美穂を見つめても、不思議そうな顔で見返されるだけだった。


「廊下の方へ」


桜庭さんはそう言ってあたしに一人で行くように手で外を示された。

なんだかわからないけれど、とりあえず廊下に行けばいいらしい。





「お待ちしておりました。突然お呼びたてして申し訳ございません」


言われた通りに廊下に出てみると、そこには何故か竜二さんがいた。

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