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第十二話 全てを受け入れられますか?

あたしは次の日も竜二さんが出てくるのを待った。

あたしの姿を見ると驚いていたが、次の瞬間にはぶっきらぼうな顔になった。


「また昨日のお話ですか?」


竜二さんは冷めた目であたしを見つめている。

何があったかは知らないけれど、竜二さんは大好きだった女のひとに裏切られてから、本当はずっとこんな顔をしていたんだと思う。

だけど執事として、お嬢様には奉仕しなければいけないって考えた竜二さんは、営業スマイルのようにずっと笑顔を浮かべて、お嬢様の命ずるままに動いていた。



「はい」


力強く返事すれば、竜二さんは少し面食らっていた。


「それじゃあお先に失礼します」



桜庭さんが少しだけあたしに目を向けて帰って行った。




「あなたも凝りない人ですね。人の感情ほど醜いものはありません。

私のことが好きだから・・・。

ああ、なるほど好きな人の全てを知りたいと言う奴ですか。ふっ、あなたも傲慢ですね」



バカにされているということは考えなくてもわかった。

だけどそこに苛立ちを感じないのは好きな人だからというフィルターがかかっているとかだけじゃない。

今まで綺麗な部分しか見せなかった竜二さんの、人間らしい感情が見れたことに喜びを感じたからだ。



「確かに恋愛はエゴの塊かもしれない。

でも、あたしは竜二さんの過去を聞きたいわけじゃない。

ただ、過去の呪縛から解いてあげたいだけなんです!」


「玲人に何か聞いたのか?」


突然低く呟かれた声に思わず体が震えた。


「れいじ?」


「桜庭のことですよ。あいつから何か聞いたのか?」


竜二さんの心を見透かすようなまっすぐな目に、あたしはしばらく動けなかった。

桜庭さんの言っていたこと。

大好きだった女の人に裏切られた。

やっぱりそのことが竜二さんにとってのトラウマなんだ。



あたしはなんとか首を横に振った。

竜二さんの抱えているものはどんなものなのか、考えると涙がこぼれそうで、拳を握りしめた。


「竜二さん、今日、あたしは竜二さんの色々な表情が見られてよかった。

もっと、楽に生きてほしい。

無理やりの笑顔なんて、無感情な行為なんて自分を傷つけるだけです。

だからもっと感情をぶつけてください」



竜二さんは困ったような、考えるような表情であたしを見ていた。


「奈穂お嬢様は私のどのような感情でも、全て受け止める覚悟があるのですか?」


「受け止めたい! 好きですから」



竜二さんは一瞬驚いてから、満足そうに笑みを浮かべた。

いつも見せる作った笑いじゃなくて、何か企んでそうな笑みにたじろいだ。

だけど、言ったからには他の女の人と一緒だって思われたくない。



「それでは明日からも迎えをお願いします。後、私の家で毎日食事をつくってください。

こう見えても尽くされるのが好きなのですよ。できますよね?」


感情というよりかは、召使のようなことを強いられてしまった。


だけどたぶんこれって、こんなお願いにも耐えられないようじゃ俺の彼女は務まらないってことなのかな?



「勿論です!」


竜二さんは驚いた後、顔を俯かせた。


本当にやるとは思ってなかったってことかな?



でもこれで少しでもあたしが竜二さんを一人の人間として好きだってことがわかってもらえれば、それでいい。

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