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一話 執事喫茶!?

「おかえりなさいませ、お嬢様」


「ただいま。今日はね、奈穂も一緒なの」


「さようでございますか。それではお席へご案内いたします」


なんだろう。

何が起こっているのだろうか。

ここは日本なのだろうか。

お嬢様? おかえりなさいませ?

お店の中は外国のお屋敷の中みたいに素敵。

中には数人のお客さんがいるみたいだ。

お客さんと楽しそうに話しているのはウエイターじゃなくて、執事なんだ。



「どうぞ」


周りを見渡しながら案内されたのは、カーテンで仕切られた空間で、ここだけが一つの部屋になっているみたいだ。

先に美穂が椅子を引いてもらっていて、次にあたしの元にやってきた。


「どうかなさいましたか?」


誰かに何かをしてもらうことになれなくて、否普通のレストランならこんなに緊張しないんだけど。

見上げれば執事さんは素敵な微笑を浮かべてあたしを見つめている。

なんだか足が震えてぎこちなく椅子に座った。


「このような場所は初めてですか? 緊張しておられるのですね。

それではリラックス効果のあるハーブティーをご用意いたしましょうか。

美穂お嬢様はどうなされますか?」


「うーん。フルーツの入った奴がいいな」


「かしこまりました」


「奈穂ったら顔赤いよ。竜二にほれたな」


美穂に言われて初めて自分の顔がほてっていることに気づいた。











「あれ? あれって竜二さん?」


翌日たまたま執事喫茶の前を通ってみた。

時間的に開店準備をしているのか、丁度竜二さんが外にでてきた。

毎日大変だな。

声とか、かけてみようかな。



「りゅうじー」


どこからか楽しそうな女の人の声が聞こえてきた。

綺麗な人だな。

あの人もこの店の常連客なのかな。

あたしが純粋にそんなことを思っていると・・・。



「えっ」



思わず口から声が漏れた。

女のひとは天下の往来で迷うことなく竜二さんに抱き付いてキスをした。

竜二さんも特にいやがっている様子はなく、女のひとが離れていくのを待っているようだった。



「京子お嬢様、突然ビックリするじゃないですか」


彼女なのかと思ったが、どうやら常連客で間違いないらしい。

執事喫茶って、ホストみたいなこともするの?

自分が今見たことが信じられなくて、この前あれだけこの人にドキドキしてしまった自分が恥ずかしくて・・・。

どうしよう。

早く立ち去ればいいのに、動けない。


「おや、奈穂お嬢様じゃないですか」


とても近くで声がしたので驚いて顔を上げてみれば、竜二さんが目の前にいた。

周りを見ればさっきの女の人はもういなくなってしまったようだ。


声をかけようって思っていたのに、あんな場面を見せられて、声をかけるどころか顔を上げるのすら怖い。


「どうかなさいましたか?」


そう言って竜二さんは屈みこんであたしの表情を見ようとしてきた。


「あっ、いえ、その」


「顔、赤いですよ?」


竜二さんは不思議そうな顔でそう言った。


「あの、さっきの」


あたしがそう言っても、竜二さんはしばらく何を言っているんだという顔であたしを見つめていたが、やがて思いついたように口を開いた。


「京子お嬢様のおいたを見られていたんですね」


「おいたって」


「ああいえ、本来こういうことをするのは禁じられているんですよ」


そりゃホストじゃないもんね。

心の中で納得したが、それならどうしてあの人には何も言わなかったのだろうか。

平然とした顔で受け入れて、何を考えているんだろう。



「まあ、それでもお嬢様の機嫌を損ねてここを離れられても困りますしね。

私目当てで来ていただけるのはありがたいことですから」



竜二さんは昨日見た時と同じように笑顔を浮かべた。


「仕事、なんですね」


「ええ」


竜二さんはなんの躊躇いもなく答えた。

どうして。


「じゃあ、もし、私がキスしてくださって言ったら、するんですか?」


何を言っているんだろう。

言ってから自分で驚いてしまった。

バカだ。

絶対変な奴だと思われたに違いない。


「それが奈穂お嬢様のお望みならば」



そう言って竜二さんはあたしに顔を近づけてきた。



「止めて!」


ここが天下の往来だということを忘れていた。

思わず大声を上げてしまったあたしは、周囲に見られていることに気づくと、竜二さんの様子も見ずに走り出してしまった。


何、なんで、どうして?

何をどう、何を考えればいいのかわからなかった。

どうして彼はこんなに平然と女の子の要望を聞いてしまうの。

キスを誰とでもするなんて。

執事喫茶でしょう?

そんなことする場所じゃないはずなのに。


「申し訳ございません」


竜二さんは驚いた顔をしていたが、それはすぐに戻った。

たぶんあたしの声の大きさに驚いただけだろう。


「それでは私は仕事に戻ります」


竜二さんは笑顔でそう言って、店の中に入って行った。

今のやりとりは全部竜二さんにとっては仕事だったんだと思う。

でも・・・。

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