商人ギルド
とりあえず予告通り、なろうでの冒険者ギルドの姿と実際のギルドの姿を比較してみます。おそらくゲームでのギルドも実際のギルドにあやかって出来たもののはずです。だから、これで共通点などを見つけられるはず。
一般的ななろうの商人ギルドの姿から考えていきます。こちらは結構作品ごとに相違点が多いので、あまり特徴はたくさん出せないので代表的なものをあげていきます。
「なろうでの商人ギルドの姿」
・商売をするには商人ギルドに入らないとさせてもらえない。または、基本的には自由だけど、所属するといろいろな恩恵がある。
・王都などの首都には本部を設置して、各町などには支部を設置する。たとえ国が違ったとしてもあちこちに存在しており、閉鎖的な国以外ほとんどにある。
・商品を仕入れる際に便宜を図ってくれる。またはギルド専用のパイプがあり、確実に品物を調達できるようになっている。
・よくわからないけど支部と本部は繋がっていて、情報を本部にとばしたり、逆に命令がとんできたりする。
・王もギルド運営に関わっている。またはギルドが政治に関わっている。
いろいろな作品を読んでいる方には違和感があると思いますが、基本的な構造は大体このようだという前提で進めさせてもらいます。
つづいて、実際にヨーロッパで行われていた商人ギルドの構造を簡単にまとめてみよう。
「実際の商人ギルドの姿」
・職業組合のギルドなので、もちろん商人が集まって大きな力を持とうとしたもの。基本的には自分たちが利益を手に入れることを最優先にしているので、町などの市場を独占する行為が多かったらしい。分かりやすく言うと、力を持った商人ギルドは他の商人ギルドや商人に商売をさせない。商売敵をなくすということだ。これのことはまた後で詳しく説明しよう。
・商人ギルドは都市単位の物で、様々な都市のギルドが全て同じ組織と言うことはない。
・ギルド間の抗争で生き残り、力を持ったギルドは都市の政治に参加することもあった。政治も動かすことでさらに力は大きくなったはず。
・大きいギルドは生産から卸売にまで手を伸ばすようになる。
・商人ギルドの政治参加や市場独占に反発した職人によって商人ギルドは衰退していっている。その後は職人ギルドがギルドのほとんどを占める。
簡単に特徴をあげるとこうなるでしょうか。歴史に詳しい人から見たらけっこう違和感があると思うので、指摘いただけたら幸いです。
上記の特徴をみると、ギルドは日本で言う「座」や「株仲間」と似たシステムであることに気付いた方もいるでしょう。なんと、これらは小さな違いはあれど目的はほとんど一緒だったのだ!
……学校で歴史を習っていたときにこのことを知っていたらもっと楽しく勉強できたんだろうなあ。
はあ……。
この三つの共通点は、同業者同士で結束して出来た組織であり、流通に大きく関わったということ。先ほどあげた例の中に市場の支配がありましたが、これは利益を得るための行為。仕入れをしないと商売は出来ないので、商品の輸送なども支配することもあっようです。
都市内での商売もこの工作のおかげで、ギルドに所属しない者は非常に商売しづらい環境が生まれました。そのかわりに、しっかりと統制されたギルドのシステムのおかげで市場は安定し、発展にもつながる。
おお! いいじゃないかギルド!
このシステムならファンタジー世界でもそこまでの違和感はない。やはりゲームなどで使われているギルドのシステムは実際のものを参考にして正解だったな! うんうん。
なんて喜びながらキーボードを打ちたいところですが、実際は完璧なシステムと言うわけではなさそうです。そうでなければギルドが衰退するわけがありません。現代の世にギルドなんてどこの国にもありませんから。とりあえず得た情報から考えて茶番劇を作って考えてみよう。
『茶番劇、しょうにんぎるど』
「俺の名前はA。ナロウ街で商人をしている。商売をやりやすくするために仲間と商人ギルドと言うものを作って、ナロウ街の流通を支配することに成功したのだ。これで商売敵はいなくなった」
ナロウ街の流通を支配するギルドは政治にも参加しており、市場を安定させて都市の生活もよくなっていきました。そんなナロウ街に、一人の少年がやってきました。
「俺の名前はB。豊かな街だと有名なナロウ街で商売をするためにやってきた。早速、生活雑貨を集めて生活の準備をしよう」
Bは商店街に行き、調理道具を買うことにしました。
「俺のいた街では金貨が五十枚もあれば一式揃うはずだ……。え、鍋だけで金貨十枚だと……。そこまでいい商品にも見えないしなあ。うーむ。」
どの店に行っても同じような値段です。かといってそこまで良い物でもありません。Bは調理道具の新調を諦めて、今まで通りの道具を使うことにしました。
「どうもこの街はみんな物が高いな。このままでは生活できないし、とりあえずうちの街から運んできた物を売ろうか」
Bは屋台を開いて商売を始めました。他の店と比べても良心的な価格だし、そこまで悪い物でもないので、結構な速さで売れていきます。
すると、屋台のところに一人の男がやってきました。
「おやおや、ギルドに非加盟の店じゃないか。困るね、こんなところで店なんか開いちゃ。それはこの地方でしかとれないクロトマトじゃないか。街の法律でギルド以外の商人がこれを売るのは禁止されているんだよ。商売をしたいのなら我々のギルドに入らないかね?」
「ギルドとは一体何ですか?」
「うむ。我々商人が集まって協力する団体のようなものかな。かなり大規模になってきて今では街の流通を活性化させている重要な団体だよ。それに目を付けた王のおかげで、王公認の組織になったしね」
「それは凄いですね」
「まあ、そのかわりにギルド運営税を払わさせられてるけどな。逆らったらギルドを解体させられるから仕方ないけど。とりあえず店をたたんで来な。その気があるなら登録させてやってもいいぜ」
「いいんですか。お願いします」
「ああ、俺はAだ。よろしく」
こうしてBはギルドに加入して、なんとか商売を許されたそうです。
めでたし。めでたし。
……この茶番で言いたいのは、市場を独占することの良さと悪さ。
商売はもちろん金を稼ぐために行うこと。しかし、他の商人もいるので、人々はそのなかで一番いい物を選びます。同じチョコレートなら安い方を買うし、同じ値段なら量の多いチョコやおいしいチョコを買うはずです。だから、商売ではなるべく人々が買ってくれるように日々切磋琢磨。それによっていい商品がどんどん開発されていくのです。
しかし、市場を独占したらそんなことはなくなってしまいます。なぜなら、結構強気な値段で売り出しても買わざるを得ない環境を作り出せるから。実際に市場を独占することは民衆の反感も買うので難しいことだったでしょうが、茶番劇中のクロトマトのように、特定の地方でしかとれないものを全て独占することくらいなら可能だ。
クロトマトを買うには、ギルドが強気に設定した値段の物を買うしかなくなる。ギルド側も、独占を守るために、他のルートでは入手できないように様々な工作を行う。それは過激な行為になったこともあったようです。
日本の法律で独占が禁止されているように、これはあまり良いこととはいえない。しかし、利益を追求する商人がギルドを作るのはこれが目的と言ってもいい。商人ギルドが存在するなら、価格の高騰は避けられないでしょう。
「王がギルドを認める」
「座」や「株仲間」は、朝廷や寺に金を払う代わりに、特権的な力を与える。実際のギルドでも、規模の大きいギルドにはやはり特権が与えられている。
ファンタジーではやはり王が権力の象徴なので王を使うべきですね。王はギルドに特権的な力を与えることで初めて、市場に大きな影響を与えさせて、結果流通の安定につながるのである。他にも株仲間のように、ギルドが納める金が財政を安定化させていることもあるだろう。江戸幕府はこれをやりすぎて失敗してしまったが。
つまり、ギルドを民間人だけで運営し、ファンタジー世界に大きな影響を与えるのはほぼ不可能と言ってよいだろう。一応、許可されずに運営されるギルドという設定もいいが、小規模な市場やヤバイ市場を取り仕切るギルドになることは間違いない。
商人ギルドは、よく出回っている設定でほとんど問題ない。とりあえず商人ギルドについてをまとめてみよう。
「商人ギルドまとめ」
『メリット』
・商人ギルドの存在によって物がしっかり流通するようになり、突然異世界に放り込まれた勇者様も暮らしやすい環境となっている。
・ギルドという親しみやすい言葉で説明を簡略化出来るため、やはり小説にうってつけであった。
『デメリット』
・強気な値段設定をされる確率がかなり高い。武器など買いたい新米勇者様にはあまり優しくない。とんとん拍子で進み過ぎる冒険を邪魔する最初の関門としてはいいかもしれないが。
・モンスターの素材を売る際も、安くしか売れない可能性が高い。やはりここは冒険者ギルドの出番だろうか。
商人ギルドがなければ、異世界に行っても店の品ぞろえが悪く、装備さえそろえられないという勇者様が続出するであろう。なので、少し品物が高くても我慢してもらわなければならない。
これは、私が情報をもとにまとめて考察してみただけのもので、間違いの情報の可能性もあります。また、この条件に当てはまらないギルドの構造を否定するわけでもありません。こんな意見もあるのかという気持ちで読んでいただけたら幸いです。
次回は、商人ギルドと並ぶ重要なギルド。実際小説に出ているのはこちらのほうが多いかもしれない、職人ギルドについて考えようと思います。