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そのいち

 りゅっくさっくにつめるもの。



 うさぎのししゅうのはんかち

 (りっくんがくれたの)

 (でもはんかちってぽけっとにいれたほうがいいきがする)


 おひるごはんのぱん

 (じいちゃんやりっくんとおんなし)

(りっくんぴくるすきらいだからはいってないの、ざんねん)


 れんしゅうのーと

 (まほうのこうしきがいっぱいかいてあるやつ)

 (だってこれがいちばんあいてるぺーじおおかったんだもん)


 おはなのぺん

 (そろそろでなくなる)

 (あたらしいのはどんなのにしようかな)


 あめ

 (いちごのやつ)

 (だいすき)



 ゆうれいやしきは、はじめてなの。

 りっくん、あぶないってゆってティアをつれてってくんないんだもん。

 いいんだ、ティア、ひとりでたんけんにいくから。



* * * 



 栗色の髪を二つに結って、花びらのようにオレンジ色のワンピースを翻した少女がリュックサックを背負って駆け抜けていく。ふわふわ揺れる髪は、空を泳ぐ鳥たちの翼を覆う羽根のようだ。

 風に踊って、軽い。


「ティアちゃん、お出かけかい?」


 外を走っているのだからお出かけ以外のなにものでもないだろうに、顔なじみの女性が洗濯籠片手に声をかける。

 オレンジ色の風と化した少女は、ぶんぶんと手を振ってそれに答えた。


「たんけんにいくのー!」


 何の、とは言わなかったが、女性は笑んで少女の背中を見送った。彼女だって、小さい頃は探検と称して町外れの空き地や商店街の裏道を友人たちと駆け回った思い出があるくらいである。子供が元気よく遊び回るのは平和な証拠だ。なにも心配はいらない。


「暗くなる前にちゃんと帰るんだよ!」


 はーい、遠くから良い子のお返事が聞こえた。




***




 世界で一番大きな国はと問われれば、恐らく誰もがこう答える。


 セラフィン。


 大陸国家セラフィン、と。


 どこまでも広がる海の上、いくつかの大陸が存在する。

 その中で大きさとしては3番目に位置する大陸は、一つの王家が絶対的な力で統治していた。広さを考えるとありえないことなのだが、実際に治めているのだからもう誰も文句は言えない。

 世界中に存在する強国と呼ばれる存在の中でも抜群の治安を誇り、文化や技術面での発展も群を抜いている。どんな偶然が重なって成り立っているのか一般人は知る由もないけれど、知らなくても毎日平和に生きていけるこの国を大抵の国民が気に入っていた。


 そんなセラフィンにも、大抵の国がそうであるように建国のエピソードが昔話として語り継がれている。

 大陸を守護している神獣が与えた試練を、セラフィン王家の先祖とその友である竜の血を引く勇者が見事乗り越えて国をうちたてたという話である。


(ばかばかしい)


 少年は、その話が嫌いだった。なぜなら、ツッコミどころが満載でどこから突っ込んだらいいかわからなくなるからである。

 昔話というものは暴れたくなるような無茶な展開のものが多いけれど、その中でもこれは筆頭だろう。

 だいたい、その神獣とやらはどこに行ったというのだ。国をうちたてたからって、どこかに消えてしまったのか。その程度の守護なのか。


 そもそも、なにが一番気に食わないかといえば。


 なんなんだ、竜の血を引く勇者って。卵で生まれる種族の血を、腹から出てくる種族が、どこをどうやって引くというのだ。


 そもそも、どうしてそんな建国の立役者である一族が、王都を囲む壁の外に住んでいなければならないのだ。


(まったく、いい迷惑だ)


 本当に、いい迷惑だった。

 少年――竜の血を引く勇者の子孫である彼は、今日もそのことで被害をこうむっていた。


***


 発端は、一体なんだったのか。面倒なので覚えていない。

 血筋について同級生に難癖つけられ嫌な目に合うのは、もう慣れっこになっていた。愛想のかけらもない自分に落ち度があるのも認めるけれど、それにしたって『やつら』は自分を目の敵にしすぎるのだ。


 そうそう、たしか、剣術大会のクラス代表に選ばれたのが今回のきっかけだったか。

 クラス内で行われた代表戦ではクラスのリーダー格であるリックスが勝ったというのに、代表に選ばれたのが少年なものだから他のやつらは気に食わないのだ。

 そりゃあ少年はリックスに負けたけれど、リックスに代表が勤まるわけがないとも確信している。リックスの型はいわゆる自己流で、しかもスピード重視だ。学校で行われるような剣術大会にはどのクラスも負けたくないから力自慢たちが集まるし、剣術の授業で習う型を観客に披露する意味合いもある。彼のような掟破りの軽業じみた型では、お話にならない。誰よりも真面目に授業を受けている少年が選ばれるのは、当然のことではないか。


 それをやつら、勇者の子孫なら当たり前だの家柄で贔屓しているだの人間じゃないから選ばれただの好き放題ぬかしやがって。

 挙句、幽霊屋敷の幽霊を倒してきたら代表だと認める、だ?お前らが認めなくても代表に指名されたのは俺なんだよっ!


 少年は、そこで我に返る。いつの間にやら、苛立ちであつくなっていたらしい。目を閉じて小さく息を吸うと、雑草の放つ青臭い土の香りが胸を満たした。自分の気持ちとは裏腹にのどかな空気に毒気を持っていかれたか、急速に気持ちが冷めていく。


 同級生に変に絡まれることが多いせいか、彼は自分の気持ちをコントロールして冷静になることができる、年の割に大人びた少年だった。その冷静さが、更に同級生たちの不評を買うのだけれど。


 目を開けると、目の前には朽ちかけた鉄柵とその中にある普通のそれよりもだいぶ濃い密度で生い茂る生垣が続いている。この向こうに、件の『幽霊屋敷』がある。この中にいるという『幽霊』を退治してその証拠を持ち帰るというのが少年に与えられた使命だった。


 同級生たちの子供っぽいゲームに付き合ってやるいわれはない。だが、彼らを無視している間にそうせざるを得ない状況に陥っていたのだ。

 いつもあまりにひどい言いがかりをつけられたときは無視していればリックスがそれとなく同級生たちの意識をそらしてくれていたというのに、今回は彼の助け舟がなかった。別にそれを期待していたわけではないけれど、リックスの横槍が入ってこないならこないで意地になってしまった自分も、どう大人ぶってもやっぱり彼らと同じ12歳なのだと痛感してしまう。



 建国の勇者の血を引く少年、キリ・シェアルド。

 今回の彼の冒険は、ズバリ、『幽霊屋敷の探検』である。




 どこかの誰かさんと、まったく同じ目的――



 ――だったり、する。



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