01 キンキュージタイです、リーダー
というか、ああいう生き物が苦手なだけかも、シヴァは。
ある日突然、白い箱で送られてきたのがコイツだった。
開けてびっくり。
凶暴そうな甲殻類が二尾、ちんまりと収まっているでは。
おそるおそる、つついてみる。
一匹、わずかに動いたような。
大きなハサミに、輪ゴムのようなバンドが巻いてあった。ということは、これがないと挟まれてしまう、ということなのか?
「……」
彼は少し迷ったが、けっきょく助けを呼ぶことにした。
「どうした」
リーダーが駆けつけた。今日はオフなのでポロシャツにジーンズ、と簡素な格好をしている。
“何があったんだ。って言うより、何でオレの携帯番号知ってる? 教えてないのに”
「ええと」近頃習い始めた日本語で言おうとする。
「助けが必要です。警察は呼ばないでください」
「はあ?」
ああめんどくさい。英語にしよう。
“たいへんなんだよリーダー。でっかいエビに逃げられた。どうしよう?”
今度はリーダーが頭を抱える。
「あのなあ、シゴトじゃない日は、英語はチョー苦手なの」頭の中で、いったん切り替えをしているような目線になってから、さて、と向き直る。
“よく分からんから、ちゃんと順を追って話せ”
“Yes,Sir. まず携帯の番号は……”
「そこはいい」イライラとしたように、手を振る。
「後でゆっくり問い詰めてやるから」“……で、エビ? って何のことだ”
“今朝届いたんだよ、ここに”箱をみせる。
「どれどれ……オマール海老じゃないか」感心したように読んでいる。
“すげえ、超高級オマール海老。産地カナダより直送。活きロブスター……中身はどこに?”
“だからそれに逃げられた”
「はい」リーダーは落ち着いている。「だから何?」
“捕まえるの、手伝ってよ”
えええ? とオッサンは急にやる気なしな感じになった。
「わざわざ休みの日に急に呼び出しくらって、一時間かけて来たらエビ捕りだって?」
自分で捕りゃ、いいじゃん? と簡単なコメント。
“まだ肩も痛いんだよねえ、エビなんて捕る気がしねえ”
“ぼくのリーダーなんでしょ? アナタは、え?”
珍しく、シヴァが感情的になっている。よほどこういう生き物が嫌いなのか。
「あのなあ」リーダーは手をぶらつかせたが、急に
「はいはい、いいよ分かった」その手をぱん、と叩いて言った。
“普通ならオフでは付き合わないんだけど、せっかく来たしオマエの日本語も教える、って約束したんだから、今日は手伝うよ”
で、エビはどこに逃げた? 日本語で説明してみろ。
「えーと」ぱっと思いついたのが「ワカンナ~イ」
「でもさ、ハサミは縛ってあっただろ?」箱についた写真を指さしながら彼が聞いた。
「シバッテアッタ?」これは、過去形だな。
「そう、シバッテアッタ。ハサミは」
リーダーは、キッチンの部分にかがみこむ。ワンルームなので隠れそうな場所はそれほどない。「ここ、開けるぞ」コンロの下も開けるが、いない。
「ベッドの方もみていいか」「どうぞ」
ベッドの下をおそるおそるのぞいてから、「いた」にんまりとした。
「向こうむいてるぞ」腕を突っ込もうとしている。
“気をつけて、リーダー” 同時にリーダー、ぎゃあと飛びあがった。掴んだロブスターが手から離れ、宙を舞う。
「何だよ、ハサミ縛ってないじゃねえか」かなり動揺している。
「指……千切られるところだった」
シヴァも少し離れたところで、ドキドキしていた。
「ハサミ、縛ってあった。でも今は縛ってない」
“どうして取ったんだ、バンドを!” かなり怒っている。
“それに何で逃げようとしたんだよ”
“だって……怖いもん” あっ、と足元を指さす。
“来たよリーダー!”
なんと、ロブスターが襲って来たのです。




