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もふもふ帝国犬国紀  作者: 鵜 一文字
四章 決戦の章
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第二話 リグルア帝国への帰郷




 クレリアがサーフブルームを更に東へ進み、自らに反逆者の烙印を押して追放したリグルア帝国へ忍び込んだのは第一次オッターハウンド戦役が集結してから一月後のことであった。


 謹慎処分を受け、素直にサーゴで傷を癒していたクレリアの元に、参謀のシルキーから伝言が届いたのである。



”人間族の帝国領侵入の可能性を調べて欲しい”



 後方に敵を抱えているのはオーク族だけではない。全力でオーク族に対応するには後方の安全が必須なのである。それはクレリアにも理解できた。

 だが、謹慎中の彼女がサーゴから簡単に離れてはシバの命令に反することになる。


 シルキーはその点用意周到だった。

 彼女はシバから『戦略に関わる全ての権限を与える』という素っ気ない、それでいて極めて重要な一文を手に入れていたのである。


 クレリアは悩み、そこではたと気が付いた。

 故郷には未だに家族が残っている。なのに、眷属となってから会いに行こうと思ったことは一度もない。


 これはクレリアにとって不思議なことだった。自分が嵌められたのであれば、実家であるフォーンベルグ傭兵団の立ち位置は微妙なものとなっているはずであり、自分がそれに気付かないわけがない。なのに、彼女は生存の報告すら忘れていた。

 いや、する気が起こらなかった。



「ふむ……」



 騎士を目指すときに勘当された実家だが、大事な家族であったことには違いがないし、その想いは今も変わらない。それなのにクレリアは思い出せなかった。

 


(後悔しても仕方がない。まずは状況の確認から)



 人間世界の存在に、たった今気が付いたかのようにクレリアの思考は回り始める。

 そして、方針を固めるとコボルト職人に耳と尻尾を隠せるマントを用意してもらい、失った愛用の剣の代わりに簡素な小剣を借りると荷物をまとめてサーゴを出発したのである。



 裁縫係の用意してくれた犬耳帽子を冠り、犬の足跡印のマントを羽織ってクレリアが訪れたのは、彼女が潜伏したこともあるリグルア帝国の第二都市『ウィーベル』であった。

 この街はクレリアを殺害しようとしたホーランド公爵の政敵が治めており、その貴族が公爵に恩を売る選択肢を選ぶまでは安全に隠れることが出来たこともあって、土地勘がある。


 リグリア帝国の大貴族、ウィーベル侯爵が治めるこの都市には主要街道が通っており、有数の穀倉地帯やガルブン山地の麓にある鉱山都市とも隣接しているため、商業が大きく発展している。多くの旅人や商人が訪れるため、自然と情報も集まってくるのだ。


 何よりこの街は『死の森』の近くにあり、実家であるフォーンベルグ傭兵団と連絡を取る術がある。



(人間であった頃は、フォーンベルグ傭兵団は安全を第一に考えていた)



 フォーンベルグ傭兵団は街々に情報を集めるための場を設けていた。

 『フォーンベルグ傭兵団が味方すれば必ず勝つ』とまで噂されるクレリアの実家だが、なんのことはない。精強さはもちろんだが情報を集めて分析し、勝者に味方しているのである。


 このやり方はモフモフ帝国においても応用されている。


 クレリアもまたこの街に存在する『協力者』を通じて、自分の暗殺に関わる経緯を隠居していた父親や傭兵団を継承した兄達に報告していた。


 巻き込まれないように注意するようにとの伝言と共に。

 別に肉親との仲が悪いわけではない。寧ろ逆である。彼らの愛は暑苦しいくらいであり、クレリアが人間であった頃は兄達を思い出すだけで、げんなりとしたものであった。


 ともあれ勘当されても傭兵団はクレリアにとって家族である。兄達だけではなく、全ての団員が同じように。しかし、既に部外者となった自分に構う必要はないし、そうなっては困る。


 だからクレリアは父や兄達に何もしないように釘を刺したのだ。


 フォーンベルグ傭兵団と言えど、帝国に真っ向から弓引けば待っているのは破滅だけ。リグルア帝国はその程度では小動もしない。数年前のクレリアはそう考えていたし、彼女の知り得る情報を分析すればそれは必ずしも間違いではなかったはずである。

 

 しかし、久しぶりに訪れたウィーベルの街を見渡した時には流石のクレリアも絶句した。



(門番の警戒が厳しすぎたからおかしいとは思ったけれど……外国との戦争……いや、ここが前線になるようであれば、リグルア帝国は既に滅んでいる)



 クレリアが潜伏していた頃は、国境から遠い都市であるために治安は良く、商売人や職人が集まって賑わっており、住民達ものんびりと過ごすことが出来ている様子であった。

 ウィーベル侯爵も特に問題なく統治していたはずである。


 しかし今、ウィーベルの街は柄の悪そうな兵士が我が物顔で歩き回り、住民達はそれに怯えるように過ごしている。街全体の雰囲気が薄暗くなっているようにクレリアは感じていた。清潔であった通りも薄汚れており、道の陰では子供くらいの娼婦が、客を引いている……。



「ふぅ」



 闇夜に乗じて城壁を飛び越え、夜が明けた後に街を散策したクレリアは溜息を吐く。

 変わり果てたリグルア帝国の様子を嘆いているわけではない。


 単純に『協力者』と接触するのも一苦労そうだと思っただけである。


 リグルア帝国の騎士であった頃、彼女は民を守るために文字通り命を賭けた。それは彼女なりの騎士としての生き方であり、『契約』であったからである。


 しかし、公爵の私的な逆恨みによって反逆者と貶められ、皇帝もそれを黙認したこと。同僚や守ってきた国民からも賞金首として追われたことで、彼女の中では『契約』は破棄されたと考えていた。


 従ってどれだけリグルア帝国の民が虐げられていようが、彼女の知ったことではないし、何の痛痒も感じてはいなかった。当然、傭兵生まれの彼女には自己犠牲の精神はあまりない。



”恩には恩を、仇には仇を”



 それが彼女の行動原理であり、フォーンベルグ家の流儀でもあった。



 治安が悪くなればなるほど、クレリアは路銀に困らなくなる。

 これは昔からであるが今は尚更であった。小奇麗な服を着て、一見無力な子供のような容姿の自分が裏道を歩けばどうなるか。



「愚か者は変わらない。真昼間から拐かそうとするとはね」

「す、す、すんません! はははははは反省してますっ! お嬢様! 痛い痛いっ! やめて! つ、潰れるっ!」

「どうしようかな」

「ひぃっ!」



 ボコボコの顔で転がっている男の、人には言えないような場所を踏みつけ、クレリアは無表情で見下ろしている。周囲の者達は子供にしか見えない彼女の、謎の威圧感に圧倒され、遠巻きに見つめるばかりである。



(やっぱりこれが手っ取り早い)



 ゴミの据えた匂いの充満したスラムで彼女は情報を集めながら旅費を稼いでいた。


 他にも数名の男達が苦痛で呻き声を上げて動くことも出来すに転がっており、既に財布は頂いている。手際がいいのは昔からのことで彼女が慣れているからだ。

 自分の容姿で唯一得したことだと彼女は考えている。


 同じことを数回繰り返し、ならずもの達の拙い説明をまとめて現時点で掴んだ流れと状況は次のものである。



1、数年前から魔物が死の森側から出なくなり、魔物狩りの仕事が無くなる。

2、冤罪によるクレリア謀殺説が広がり、帝国と傭兵団の間に不審と不和が広まる。

3、三年前に皇帝が崩御。

4、無難に後を継げるはずの侯爵の推す第一皇子派に対し、公爵の推す第二皇子派が反旗を翻す。内乱の勃発。反乱軍の奇襲により第一皇子死亡。

5、第一皇子派は第一皇子の息子を正統として抵抗。戦況を五分以上に戻す。

6、第一皇子の息子、反乱軍の無条件処断と徹底略奪を命令。人望を失う。

7、混乱の中、フォーンベルグ傭兵団が皇位継承権末端のフォルニア姫を担ぎ、独立。戦争を続ける両者の領土を少数で奇襲し、人質になっていた両陣営の貴族の家族を解放。

8、人質の扱いに不満を持っていた貴族がフォルニア派に流れ始める。同時に周辺小勢力を攻め落とすことにも成功し、第三勢力に成長。

9、現在に至る。



「外患ではなく内乱か」

「フォーンベルグ傭兵団は悪魔のように執念深い奴らだ。絶対公爵だけじゃなく、この街のことも恨んでいるはずだ。だから……!」



 クレリアは「ふむ」と頷き、足元の男を解放する。内乱続きで疲弊した上に、街を恨んでいるかもしれない第三勢力への恐怖。それがウィーベルが変わり果てた原因だった。


 国境騎士団は防備を優先して静観を決め込んだため、外国勢力は干渉していない。

 数年前の記憶では周辺諸国には勝利を重ね、反撃する余力も無い程だったはずだが、それもこの内乱が続けばどうなるかはわからない。

 先行きの見えない戦いが続く中では住民達の顔が暗くなるのも無理はないだろう。



(不思議な感覚だ)



 知り合いの経営する酒場へと足を向けながら、彼女は考える。

 必要な情報は現時点で既に得た。現状であれば死の森の状況を国が知ったとしても軍を向けることは不可能であり、今回の戦争では後顧に憂いがないことは確定している。


 この時点でクレリアは魔王領へ帰還したい要求に襲われており、その感情が彼女には不合理に思えて理解できなかった。まだ、調べなければならないことは多いはずなのにと。


 感情面の叫びを理性で抑え付け、一件の酒場の扉をくぐる。


 大通りから離れた場所にあるこの酒場はお世辞にも柄のいい店ではなかったが、店内は清掃が行き届いており、テーブル等も古臭いものではあるが品はよく、ある種の拘りを感じさせる雰囲気があった。



「……? うちは嬢ちゃんの飲むようなものは置いてないんだがね」



 客のいない店内でグラスを磨いていた引き締まった体付きの姿勢のいい老人が、訝しげにクレリアを一瞥して一声かけると興味を失ったように再びグラスを磨き始める。


 ただ、目の前の男が実際には警戒していることにクレリアは気付いている。

 鍛え上げられた男の太い腕の動きが、いつでも自分を殺すための動きを取ることが出来る状態に変わったからだ。


 昔と変わらない老人にクレリアは微笑む。



「腕は錆び付いていないようね。『撃剣』のオルド」

「はてさて、嬢ちゃんのような『化物』に知り合いはいないはずだが」



 老人のグラスを磨く手が止まる。


 危険に対する嗅覚にこの老人は優れている。

 だからこそ、この年まで傭兵として生きてこれたのだから。



「儂のような老人に何の用事かね?」



 長年に培った勘が目の前の、犬耳フードに犬の足跡マークのマントを羽織ったふざけた格好の可愛らしい子供にしか見えない相手が、規格外の恐るべき手練であることを彼に告げていた。

 そして、見た目に惑わされず、彼は己の直感を信じている。



(命を賭けても相打ちに持っていけるか……?)



 老人、オルドは一瞬だけ覚悟を決める。

 しかし、彼はすぐに目の前の少女に敵意ではなく、友人に向けるような親愛の色が篭っているのを見て取り、警戒を止めた。



「久しぶりね。生きてて嬉しいわ。『爺』」



 彼にとっては信じられない響きの言葉。そう呼んでくれる相手は数年前に死んだはずであった。だが、当時の響きそのままに、目の前の少女は己を呼んでいる。



「っ! あ……その顔は……」



 無愛想な男の顔が驚愕に歪み、年齢からは想像できない軽やかな動きでカウンターを飛び越え、身体を震わせながらクレリアの肩をがしぃ! っと掴む。



「いや、ありえん……体格も髪の色も違うが……儂が見間違うはずがない……子供の頃の……」



 わなわなと強面なオルドの顔がくしゃくしゃになっていく。普段は喧嘩があろうが、強盗が出ようが態度が全く変わらないことを知っている店の常連が、今の彼を見ていたら我が目を疑ったに違いない。



「はは……ははは……お嬢ぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

「痛い。爺」

「良くぞ! 良くぞ生きてっ!!!」



 オルドは小さなクレリアを抱きしめて絶叫しながら涙を流している。そして、文句を言いつつ、クレリアも二度と会えないことを覚悟していた男との再会に笑みを浮かべていた。



 臨時休業の札を扉に掛けるとオルドはホットミルクをクレリアに淹れた。

 その手付きは洗練されたもので、とても昔は腕利きの傭兵だったようには思えない。



「本職にしか見えない。昔はもっと酷かったのに」

「何事も修練ということだな。剣も酒も、ホットミルクですらそれは変わらん」



 薄暗い店内をテーブルに置かれたランプが照らす。安い魚油の匂いが犬並みになったクレリアの鼻に付くが、それでも落ち着くのは人間であった頃の初めの師匠の前だからなのかもしれない。



「しかし、魔物に助けられるとは信じられん」

「人間より紳士よ。コボルトは」



 ちまちまとホットミルクを呑みながら淡々と経緯を説明したクレリアに、先ほど取り乱して大泣きしていた男と同一人物とは思えない程落ち着いた表情でオルドは頷く。



「違いない。しかも、見ず知らずの相手に命を賭けるとは大した漢だ。亡き先代も流石に認めるだろう。あの大馬鹿は地獄からでも殴りにきそうだが……」

「父様は死んだ?」

「あの後、公爵は当然のようにフォーンベルグ傭兵団を潰しに来たんだ。うちの精強さと身内に対する過剰なまでな扱いは有名だからな。あいつは一部の古株と一緒に若様達……いや、現団長のアルガスと副団長のローヴェルを逃がすための囮になった。遺言があるが聞くか?」



 クレリアは躊躇わずに首を縦に振った。

 己の身勝手で抜けたフォーンベルグ傭兵団が危地に陥ったのは間違いなく自分の責任である。それがどんな言葉であれ、自分には聞く義務があると彼女は考えていた。



「聞く」

「『それでこそ俺の自慢の娘だ』とさ。俺もあの糞デブ貴族野郎を蹴っ飛ばした話は痛快だったし、アルガスもローウェルも手を叩いて笑ってやがったぜ。死んだ古株の奴らもな」



 楽しげに笑うオルドに、クレリアは驚きで目を見開く。



「ほんと、うちの馬鹿どもはお嬢が活躍するたびに泣いて喜んで煩かったもんだが……最後の最後まで馬鹿が揃ってらぁ。お嬢が生きてて、本当にみんな喜ぶぜ」



 彼女が騎士になると言い出した時、父親とは三日三晩口論を続け、最後には身内の縁も切られて勘当された。そして結果的には父親は正しかった。

 シバが助けてくれなければ、命懸けで護った国に殺されていたのだから。


 クレリアは心の奥では父親が馬鹿な自分を見限っていると思っていた。

 しかし、初めて聞く傭兵団出奔後の話でそうでないことを知った。


 無口で厳しかった父親が、暑苦しい兄達が……袂を分かった仲間達が。

 不思議と彼らが自分の活躍を肴に酒を飲んでいる光景が、クレリアには簡単に想像することができた。数年の間、思い出す事すら出来なかった家族は、記憶の中で楽しそうに笑っている……。



「父様……みんな……ありがとう」



 十数年振りの涙は自然と、止めどなく出た。

 そして、生きて再会出来なかった父親や古い仲間達に礼を言う。

 謝るのは違うと彼女は思ったのである。


 クレリアはしばらくの間、声を上げずに静かに泣き続けた。



 クレリアはオルドから現在のフォーンベルグ傭兵団の状況を確認した。

 ならずものから聞いた話では腑に落ちなかった部分も、オルドからの情報ではっきりと彼女の中で整理されていく。



「当初は傭兵団の独力でホーランド公爵とウィーべル侯爵を暗殺するつもりだった。だが、計画を実行する直前に暗殺され掛かっていたフォルニア姫を助けたことで状況は変わった」



 クレリアが理解できなかったのはこの点だった。



「女を……しかも子供を利用するのは腹のどす黒いアルガス兄様はともかく、武人肌のローヴェル兄様らしくないけれど」



 クレリアは数度幼かったフォルニア姫の護衛を務めたこともある。確かに聡明ではあったが、彼女の記憶では数年経った今でも十代の半ば程のはずであり、子供にとにかく甘い次兄が命を賭けるような利用を許すとはどうしても思えなかった。

 自分のせいかとも考えたが……オルドが苦笑いしているのを見てその可能性を頭の片隅から捨てる。



「いや、あれは姫様にしとくのが惜しいとんでもないジャジャ馬だ」

「どんな風になっているの?」



 彼女が最後に護衛した時には幼いながらも礼儀作法を身につけた、普通のお姫様だった。珍しく懐かれたこともあって、自分の子供の頃の遊びや日常で役立つことを教えると楽しそうに笑って可愛かったことを思い出し、クレリアは微笑む。



「助けたローヴェルを新手の敵と勘違いして、蹲って動けない演技をしつつ油断を誘い、そこからナイフを投げたらしい。しかも、それがフェイントで二本目の本命を馬を乗った側付き若いのに投げていてな。何とかそいつも防いだんだが落馬した。そしたらどうだ。暴れる馬を奪って逃げようとしやがった」

「元気に育って何より。私の教えを良く守っている」

「お嬢のせいかよ……ったく。そんでとっ捕まって誤解が解けたら、悪びれもせずに堂々と胸を張って『お前ら格好悪いぞ。どうせ復讐やるならこそこそせずに正面から殴れ。私が全部責任を取ってやる!』と来たもんだ。あの性格の悪いアルガスもさすがに呆然としていたらしいな」



 くっくとオルドは喉を鳴らして笑った。そして兄達はそんな彼女を気に入ったのだろうとクレリアは穏やかな気持ちで頷く。

 当然、傭兵団としての現実的な判断もあったろうが、彼女の態度がフォーンベルグ傭兵団に一つの方向性に影響をを与えたのは間違いないだろうとクレリアは考えていた。


 そして、



「お嬢は戻ってくれないのか?」

「今の傭兵団に私は必要なさそうだから」



 この問いへの答えは既に決まっている。

 新しい道を進んでいるフォーンベルグ傭兵団に己の居場所は無いことを彼女は知っていたし、一番大切な時期にいなかった己には資格がないこともよく理解している。そして何より、



「それに、私は私のために命を賭けてくれた者のために、私を必要としてくれる者達の為に命を賭ける義務がある。私が必要とされなくなるその時まで」



 クレリア自身がモフモフ帝国のために戦いたかった。

 愛すべき仲間達と一緒に。



「もちろん、兄様達に手助けが必要そうなら勝手に手伝うし、その時は命を賭ける」

「相変わらず不器用なことだな。さぞかし今も窮屈に生きてんだろう?」



 そう言って仕方なさそうに、傷だらけの顔を歪めてオルドは苦笑する。

 しかし、クレリアは首を横に振った。



「今が一番自由。愛するシバ様も一緒だし」

「そうか。できれば儂が生きている間にそのシバって奴にも会いたいものだな。フォーンベルグ傭兵団総出で品定めしてやるぜ」

「怖がらせたら私が許さない」



 冗談めかしてクレリアは言い、オルドは肩を竦めていた。

 現時点でクレリアはシバから処罰されている立場にある。だが、シバにとっては彼自身への処罰でもあることも魂で繋がっているクレリアは気付いている。


 だから彼女はオルドに自信を持って胸を張れたのである。



 クレリアはこの日、二人の兄に当てて手紙を出した。確実に自分からだとわかるよう、嫌がらせのようだった子供の頃の自分への、寒気のする愛称を宛名に書いて。



 『リアリアから親愛なる兄様達へ』と書かれたこの手紙は多くのリグルア帝国の民の運命を多少ながらも動かすことになる。




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